明野照葉 (あけの・てるは)

「痛いひと」 (2006年1月)

閉所恐怖症ではないが、満員電車に乗ることができず、まっとうな勤め人になれない根木淑彦。 その理由は、彼の“特異体質”にあった……(「パンドラの匣」)。 書き下ろし2編を含む、全8編の短編集。

書き下ろし以外の6編は、どれも生活に疲れた人間が描かれていて、実際起こり得る危険性を孕んでいると思います。 特に印象に残ったのは「それだけは言わないで」と「見つめてごらん」ですが、自分を正当化するために生きている人間を○○○ものと見做したり(前者)、睡眠不足がたたって家中のものがすべてそっくりな別物に入れ替わっていると思ったり(後者)、そうなったら確かに休養が必要だろうと思いました。 しかも、肉体的というより精神的な休養が。 「充実」の結末は、ありがちなオチだと思いましたが、バーのママの「人のいい加減な言葉に惑わされては駄目よ。人の話は、まずみんな疑ってかからなくちゃ」という言葉は信じていいのか疑うべきなのか、それが問題です。

 

あさのあつこ

「風の館の物語 T」 (2008年1月)

過労のため母が入院し、田舎の親戚の家で過ごすことになった姉妹、12歳の洵と5歳の沙菜。 ふたりが訪れたその家は、地元では「風の館」と呼ばれる古くて大きな屋敷だった。 その館で、不思議な現象に出遭った洵は……。 「月刊少年シリウス」連載の人気小説の単行本化。

「風の館」なんて、ネーミングは素敵ですが実際は……。 でも、行ってみたい気がします。 琴音さんは怖そうですが(笑)。 私は○○は絶対に見ないと思いますが、○○には会ってみたいです。 ○○の淹れてくれたお茶も飲みたい。 洵も沙菜もナツも、子供というだけでいろいろ大変なことがあると思いますが、めげずにがんばって欲しいと思います。 琴音さんをぎゃふんと言わせるくらいに。

 

「風邪の館の物語 U」 (2008年1月)

「風の館」では、次々と不思議な現象が起きていた。 そんなある日、沙菜の姿が見当たらなくなり、洵とナツは一緒に母屋を探すことに。 洵が納戸で沙菜のヘアピンを見つけ、無事本人も見つかるが、その後納戸に戻った洵が目にしたものは……。

確かに、洵は「お母さんの分も」とがんばり過ぎていたのでしょう。 大人から見ると、それが痛々しく感じるのでしょうね。 そんな子供がいたら手を差し伸べてあげるのが普通だと思いますが、お母さんが倒れて離れていった知り合いという人たちは信じられません。 奈緒のご両親も、ナツの母親・果歩も、ちゃんとした大人なんだと思います。 もちろん、いやな面や汚い面を持たない人間なんていないと思いますが、それを補って余りある優しさを持つ人間になれたらいいな、と思いました。 年齢的には充分すぎるほど大人でも、自分は人間的にはどうかな、と常々思っていますが、自信を持てる部分をひとつでも持ちたいと思いました。 洵は、見かけは男の子のようですが、とても優しく繊細な心の持ち主です。 だからこそ、○○に会うことができたり、納戸で“あんな”目に遭ってしまったのでしょう。 琴音さんは相変わらずだし、不穏な気配も感じられますが、ナツと力を合わせて、無事乗り切って欲しいと思います。 そこは“がんばって”いい場面だと思います。

 

「復讐プランナー」 (2008年8月)

中学一年で図書委員を務める雄哉は、あることがきっかけでクラスメイトの久利谷たちから執拗ないじめを受ける羽目に陥ってしまった。 いじめ慣れした彼らの手管に弱っていた雄哉を救ったのは、同じ図書委員の三年生の先輩・山田だった。 山田は「まずノートを買え」と言う。 そのノートに復讐計画を書けというのだが……。

いじめはないに越したことはありませんが、どうしてもなくならないなら“こんな”方法もアリだと思います。 雄哉が至った結論のように、○○することが目的ではなく、その過程が大事なのでしょう。 雄哉には山田の他に、親友の章司という味方がいたのも大きかったと思います。 一人では乗り切れなくても、二人なら、三人なら、がんばれることがあると思います。 “復讐プランナー”という役目は必要だな、と思いました。 もちろん、いじめはないことが望ましく、この方法でも解決しない場合もあるでしょう。 でも、少しでもがんばれる可能性があるならこの制度(?)は連綿と受け継がれていくことを希望します。 どんな理由や事情を抱えているとしても、久利谷を許すことはできませんが、彼の側からの物語も読んでみたいとは思いました。

 

芦川澄子 (あしかわ・すみこ)

「ありふれた死因」 (2008年1月)

強度の神経衰弱に罹り、入院・通院、自宅療養を経て会社に復帰したが、閑職に回された種次。 15歳も年下で子供もいない妻・信子が、種次の会社の元部下・由木と偶然街で出会い遅く帰ってきたのを複雑な思いで迎えた。 そんな中、家に坊主が読経に来たり、葬儀社のスクーターに声をかけられたり、易者に凶相が出ていると言われたり、種次は以前治療してもらった成瀬博士を尋ねて相談するが……(表題作「ありふれた死因」)。 他に、「週刊朝日」・「宝石」共催の探偵小説コンテストで見事一等入選した「愛と死を見つめて」など、わずか5年の間に発表された著者の全推理作品を集大成した待望の一巻。

書かれたのがだいぶ昔ですが、今読むとかえって新鮮な感じがします。 印象に残ったとのは「鏡の中で」。 ○○の犯罪を、ひとりの○○だけが気づく、それもその気づき方が印象的でした。 まさしくタイトルどおり。 「ありふれた死因」は、こういう流れなのは読んでいて想像できましたが、そのとおりだったので「やった!」と思った半面、「そう思わせておいて実は……、という展開でもよかったな」という思いもありました。 でも、“ありふれた”だからそれでいいのかもしれません。 「愛と死を見つめて」も、真犯人や真相は思ったとおりでしたが、作品としてではなく、雨宮や由利子の行動がありきたりで人間としてちょっと残念でした。 戸川さんが解説を書かれているのは知りませんでした。 でも、芦川澄子さんが“そういう”方なら、当然の結果ですよね。

 

飛鳥部勝則 (あすかべ・かつのり)

「誰のための綾織」 (2005年11)

新潟の大地震の日に拉致され、小さな島に監禁された少女たち。 そして、次々と殺されていく。 犯人たちの中、実行犯は誰なのか? ……という小説が作中作になっていて、作家と編集者が議論を交わすのだが……。

コミック「はみだしっ子」からの盗用問題で、絶版・出庫停止・回収になってしまった作品。 正直、それがなければ、私はおそらく読まないであろうタイプの内容でした。 「私の読書レベルなら、あとがきを先に読んだほうがよかったかも」と思っちゃいました。 かといって再読する気にはなれないし。 

私は、「はみだしっ子」には何の思い入れもないどころか、読んですらいませんが、引用・類似を指摘されたページを見ると、あまりにもひどいと言わざるをえません。 しかも、参考資料などとして「はみだしっ子」のタイトルすらどこにも出ていないなんて。 作品を生み出す者としてのプライドはないのでしょうか。 それとも、何か意図するところがあったのか。 それなら、釈明して欲しいものです。

それと、新潟の大地震を用いたのも気になりました。 ご本人が実際に被災されたそうですが、その日に犯罪なんて……。 地震が必要だったことは納得できますが、架空の話でもよかったのでは? 義援金などのことで言いたいことがあるのはわかりますが、その部分を強調したいのであれば、実話でなくてもよかったと思います。

これが、著者の第十作だそうですが、自業自得とはいえ、とんだ記念碑になってしまったものです。

 

我孫子武丸 (あびこ・たけまる)

「警視庁特捜班ドットジェイピー」 (2008年8月)

警視庁のイメージアップ作戦のために選ばれたのは、早峰綾・三枝博信・久保寺類・一ノ瀬瑛次・沢渡香蓮+まとめ役の高崎邦夫、計6名。 彼らには、“ヴァージンホワイト”“ソルジャーブルー”“キューティーイエロー”“デジタルブラック”“ビューティーパープル”“ボス”(自称)というコードネームがつけられ、“警視庁特捜班ドットジェイピー”として広報活動をすることに。 しかし、それぞれが何かしらワケアリで……。 綾が変質者に狙われたことに端を発する事件解決を目指して、隊員5名(+あまり役に立たない1名)がそれぞれの持ち味を生かして捜査に走る。

面白い! 実在したらどうかという問題はさておいて(笑)。 綾と香蓮のコンビ(?)が可愛らしい。 「こんな警察官いる?」という人物ばかりですが、きっといるんでしょうねえ、表に出ないだけで。 綾の過去は気の毒だし、香蓮の趣味は笑えるけど、三枝・久保寺・一ノ瀬の場合は犯罪すれすれ、というか、「犯罪じゃないの?」と思う域までいっている気がするのですが……。 まあ、そこそこでお願いしますね、我孫子さん。 喜国雅彦さんのイラストもナイスです。 続編希望。

 

天野節子 (あまの・せつこ)

「氷の華」 (2007年5月)

夫の愛人と名乗る女からの一本の電話が、何不自由ない生活を送っていた主婦・恭子をある行動へと駆り立てた。 罠が罠を呼び、衝撃の結末が訪れる……。 幻冬舎ルネッサンスから個人出版されたデビュー作を、幻冬舎が再刊行。

こう言ってはなんですが、還暦を過ぎた女性が書いたデビュー作とはとても思えない内容でした。 犯行の動機は「そんなことで……」と思わなくもありませんでしたが、それは性別や年齢にもよるし、個人の性格などにもよるものなので特に気になりませんでした。 でも、そもそものきっかけは○○にあると思うので、いまひとつ共感はできなかったです。 捜査をする警察官の中に○○がいなかったことが意図的なのかどうかはわかりませんが、それもひとつのポイントだったかもしれません。 訪れた結末は確かに衝撃的で、ぜひ映像化して欲しいと思いました。 思わず配役を考えてしまいそうです(笑)。

 

天羽沙夜 (あもう・さや)

「地獄少女 うつろいの彼岸花」 (2007年1月)(Library)

「イッペン、死ンデミル?」 そうつぶやく可憐で儚い少女・閻魔あい。 またの名を、“地獄少女”。 午前零時に、選ばれた人だけがアクセスできるホームページ「地獄通信」。 恨みを晴らしたい相手の名前を書き込むと、その相手を地獄に送ってくれるという。 しかし、書き込んだ人間の魂もまた地獄に落ちることになる。 アニメ「地獄少女」を堂々のノベライズ。

第一章は、中学二年生の真以子の身に降りかかった災難を描いています。 友人・香奈がいじめを苦にし自殺したとされ、その張本人が真以子だということになってしまった。 しかし、真相は……。 現在の小中高といった学校内がどんなことになっているか、私には知る由もありませんが、実際にこんな教師や級友がいたら学校に行きたくなるのは仕方ないのではないと思います。 当事者の気持ちは“そんな”目に遭ってみなけれなわからないと思いますが、「学校なんて行かなくてもなんとかなる」というのは大人の思い上がりでしょうか。 香奈は気の毒でしたが、地獄少女にお願いするしかなかった真以子も気の毒でした。 第二章は、同じ中学の生徒・萌が主人公。 双子の姉・結が自宅で殺され、娘たちに暴力を振るっていた父親に向けられるが、その真相は……。 結を殺した真犯人は酷すぎます。 こんなやつが身近にいたらと思うとゾッとします。 江本の妻を轢き逃げした犯人も、○○○というだけで裁かれないなんて、やはり間違っていると思います。 江本が、“ああ”しなければならなかった理由はわかります。 法律が守ってくれないなら、自分の身は自分で守るしかないと思うからです。 るりが、元気になることを願います。

 

 

綾辻行人 (あやつじ・ゆきと)

「十角館の殺人」 (2005年11)(Library)

半年前、凄惨な四重殺人の起きた孤島に、大学ミステリ研のメンバーが訪れる。 島に建つ奇妙な建物“十角館”で彼らを待ち受けていたのは、恐るべき連続殺人の罠。 生き残るのは? 犯人は? 

言わずと知れた、綾辻さんのデビュー作。 今頃になってやっと読めました。 感想は、とにかく“凄い!” かなり社会派に傾倒している私ですら、ハマらずにはいられないほどの作品でした。 館シリーズと囁きシリーズは、間違いなく文庫で購読します。

早い段階で、漠然と「こいつが怪しい」というのは検討がつきましたが、まさかああいうことになっていようとは! でも、冷静に考えれば、当然の結果と言えますね。 それにしても、“あの”たった一言ですべてを理解させてしまう技には参りました! 思わず「ええ〜っ!!!」と叫んじゃいました。 真犯人の動機は、疑問と納得が半々というところでしょうか。 自分がその立場に立ってみないとわからないことなのでしょうが、「そこまでするか」という気も……。 でも、大事な人を失ったら、その原因がわかっているなら、そうしたくなるかもしれません。

ひとつ気になったのは、第九章・五日目の、「○○千織は○○青司の○だった」というエラリイの言葉。 「なぜ今頃そんなことを?」と思うのは、私が間違ってますか?  

 

「水車館の殺人」 (2005年12)(Library)

古城のような館「水車館」の主人・藤沼紀一は、故・藤沼一成画伯の息子で、過去の交通事故により身体が不自由な上、傷ついた顔面を隠すため仮面をつけていた。 1年前に起きた友人・古川恒仁の消失事件を解決すべく、「水車館」にやってきた島田潔がたどり着いた真相とは…。 「十角館の殺人」に続く“館”シリーズ第二弾。

比較的、場面が想像し易かった前作に比べ、館が大きいせいか場面が浮かびにくかったです(苦笑)。 古川と○○が○れ○わっているのはなんとなくわかりましたが、他にも○れ○えが起きていたのには全く気づきませんでした! 私の読みが浅いからだと思いますが、「水車館」である必然性がイマイチわかりませんでした(すみません)。

 

「迷路館の殺人」 (2006年1月)(Library)

奇怪な迷路の館に集合した4人の作家たちは、とある理由により館を舞台にした推理小説を競作することに。 そのとたん、惨劇が現実に起こり始める。 完全な密室と化した地下の館で発生する、連続殺人の真相は……?

いや〜、まんまと騙されました! いきなりそんな○が……。 作品の見立てに関しては、○○が逆というのは感じましたが、真犯人とか真相に関しては、最後までわかりませんでした。 ただ、真犯人の動機は、私にはちょっと納得しかねるものでした。 内容には関係ありませんが、「“地下”の“迷路館”なんて、建てるのは大変だったろうな」と、大工さんやら配管工さんやらの苦労をしみじみ感じました(笑)。

 

「人形館の殺人」 (2006年3月)(Library)

彫刻や静物画などで評価された芸術家の父・飛龍高洋が亡くなり、彼の残した京都の邸“人形館”へ移り住むことになった息子・想一。 幼い頃から、ある事情により実母・実和子の妹=叔母・沙和子に育てられていたが、彼女も一緒だった。 アパートも併設しているその邸には、あちこちに不完全な人形が配置されていた。 やがて、近所で通り魔殺人が起きたり、想一のもとに脅迫状が届いたり、奇妙な事件が続発する。 命の危険を感じた想一は、旧知の友・島田潔に助けを求めるが……。

読了してびっくり〜! 島田潔も中村青司も○○していないなんて! 前の3作とは趣向を変えてあるのはわかりますが、まさかそんなことになっていたとは! 「真犯人はこいつだ!」と思っていたのはまんまと間違いで、実は……という真相。 ある意味、これこそ「びっくり館」です(笑)。 裏表紙に“シリーズ最大の戦慄”と書かれていますが、確かにその通りです。 「十角館」と同じくらい、もしくはそれ以上に好きな作品になりました。

 

「時計館の殺人」 (2006年4月)(Library)

主がコレクションした108個の時計が埋め尽くしている“時計館”。 鎌倉の森の奥にひっそりと建つその館で、10年前一人の少女が死んだ。 その館にまつわる幽霊の噂を検証しようと、雑誌社や大学のミステリー研究会の学生たちが集まる。 そこで起こる大量殺人。 真犯人は、真相は、いったい……。

漠然と、真犯人はこの人かなあという見当は付きましたが、ああいう真相には思い至りませんでした。 確かに、ああいうことがあったら○してやりたくもなるかもしれません。 でも、よくあれだけの年数を耐えられたなとも思います。 私だったらその場でなんとかしない限り、憎しみを持続させるよりも前に自分をどうにかしてしまいそうです。 最後の、鹿谷と江南の判断はどうなのでしょうねえ。 結局、○○へは行かなかったのでしょうか。 それでいいとも思えるし、○された人たちのことを考えるとそのままではいけないとも思えるし。 物事には二面性があって、どちらから見ても正しい判断というのは存在しないのかもしれませんが、自分がどの立場にいるかによって答えは自ずと変わってくるのでしょうね。

 

「黒猫館の殺人」 (2006年5月)(Library)

推理作家・鹿谷門実のもとへ、稀譚社編集部の江南孝明を通じてある老人から手紙が届けられた。 内容は、自分が何者なのか調べて欲しいというもの。 手がかりとして渡された“手記”には、老人が遭遇した奇怪な殺人事件が綴られていた。 中村青司が設計した別荘ということで、真相究明に乗り出した鹿谷と江南だが……。

“主な登場人物”紹介のページで、鮎田が実は……というのは察しがついたものの、黒猫館の秘密が“ああいう”ものだとはまったく思いも寄りませんでした。 その点に関しては、「やられた!」という感じ。 でも、若者たちの傍若無人ぶりには呆れるばかりだし、数々の犯行の動機も共感を覚えるものではなく、ちょっとしっくりしませんでした……。

 

「暗黒館の殺人」(上)(下) (2006年7月)

九州の山深く、外界から隔絶された湖の小島に建つ“暗黒館”。 そこは、かの建築家・中村青司が手掛けたもの。 浦登家のその館で、毎年訪れる<ダリアの日>の、その夜に催される<宴>。 それは一体……。 館で起きた、数々の殺人事件の真犯人は……?

とにかく長かった! 綾辻さんご本人があとがきの中で“自分の手に余るのではないか”とおっしゃっていましたが、まったく別の意味で、私の手には余るのではないか、と思われました。 でも、上巻を読み終えるとやはりその先が気になって、よもや途中で止めようという気にはなりませんでしたが、やはりこの長さは私にとってはちょっと厳しかったです。 でも、下巻も後半に入るといろいろな謎解きがなされ始めて、「おお、そうだったのか!」と思うことがたくさん出てきて、感心したり「ずるい〜」と思ったり。 ちょっと難義だったのは、“間奏”によく出てきた“視点”。 読み終えてみれば「ああ、そうか」と思いますが、途中途中は結構辛かったです……。 それにしても、最後の謎解きに対する○○○は、最初からあったというのがすごい! もちろん、それが当然なのでしょうが、よくあんな先のことを考えられるなあ、という感じ。 それにしても、○○はいつ出てくるのかとやきもきしていました。 「もしかしたらすでにこの中に!?」とも思いましたが、さすがにそれはありませんでしたね(笑)。 “シリーズ物は刊行順に”というのはお約束ですが、特にこの「暗黒館」についてはそれが顕著に現れる内容でした。 さあ、次はやっと「びっくり館」です。

 

「びっくり館の殺人」 (2006年7月)(Library)

学生街の片隅にある古本屋で目にした「迷路館の殺人」という本。 その著者に、僕・永沢三知也は10年以上前に会っていた! 小学6年のときに、近所の“びっくり館”を見下ろす公園で。 その館で起こった事件とは……。

館シリーズの正統な第8作目なので、当然出てきますね、“彼ら”の名前が。 ミステリーランドなので、さすがに館そのものに大掛かりな仕掛けはないものの、やはり“彼”の仕事は個性的ですね。 もちろん、施主がそう望んだわけですけれど。 事件が起きたとき、○○を助けるつもりで3人がしたことは、結果的には○○○を助けたことになってしまい、それが10年以上経って、“ああいう”エンディングになるわけですね。 新名が震災で○○でしまったのも、このエンディングのためだったのでしょうか。 う〜ん、“びっくり”です。

 

「深泥丘奇談」 (2008年3月)(Library)

散歩の途中、激しい眩暈に襲われた「私」は、目を上げた先にあった深泥丘病院で診察を受けた。 翌週、検査のために入院した部屋で“何か”を見た。 ―ような気がした(「顔」)。 初の連作怪談集。

なんとも言えない読後感……。 どの内容でも、「“それ”はいったい何なの〜!?」と気になって仕方がありません。 唯一、すっきりしたと思えるのは「悪霊憑き」。 「川に死体のある風景」で既読でしたが、通して読むと「この中の一編なんだなあ」としみじみ思いました。 ある意味、一番印象に残ったのは「サムザムシ」。 こんなの、あり得ない……! 歯医者に行けなくなりそうです(泣)。

 

鮎川哲也 (あゆかわ・てつや)

「黒いトランク」 (2006年10)(Library)

194912月、駅に送られてきたトランクの中に男の腐乱死体が詰められていた。 その送り主となっていた人物・近松が溺死体となって発見され、事件はあっけなく片付いたかに思われた。 しかし、近松の妻・由美子から依頼を受けた警視庁刑事・鬼貫は、真相を確かめるべく奔走するが……。 昭和31年、講談社版「探偵小説全集」第13巻として収載された、事実上のデビュー作。

パズルのように当て嵌めたり取り替えたり、すごいトリックだと思いました。 まさか、あんなところから始まっていたなんて。 確かに盲点かも。 鬼貫が、風見鶏を見てそれに気づくなんてすごいです。 ○○○が一枚噛んでいるのかと思いましたが、そうではありませんでした。 その点は、鬼貫にとって良かったなと思いました。 真犯人の動機は、納得や共感する部分とそうでない部分とがあり、複雑でした。 自分の○と引き換えに、という気持ちはわからなくはありませんが、良かれと思ってやったことでも結局は“犯罪”になってしまうんですよね。 そうされたほうも喜んでくれるはずだ、と思っての行動でしょうけど、実際はどうかというと、それはそうされた当人にしかわからないし。 感謝する場合もあれば負担に思う場合もあるし。 難しい問題ですね。 今作を読んで、綿密な論理の推理小説が私にはあまり向いていないことが判明しました! 前々からわかってはいましたが、時刻表が出てきた時点でほぼギブアップ……。 今作が面白くないということではありませんが、アリバイ崩しや物的証拠よりも、動機面から犯人を割り出すほうが私の琴線には触れるようです。

 

有川浩 (ありかわ・ひろ)

「図書館戦争」 (2006年6月)

時代は、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として“メディア良化法”なる法律が成立・施行されている近未来。 “好ましくない図書”は、メディア良化委員会によって“狩られる”ことに。 超法規的検閲に対抗するため図書館は立ち上がり、図書基地に於いて戦闘訓練を繰り返す。 笠原郁は、かつて自分が購入しようとした本を“狩られ”そうになったところを助けてくれた図書隊員を追って、自分も図書防衛員となる。 郁は本を守れるのか、あの時の図書隊員には会えるのか。

“図書館”という言葉に惹かれて手にしましたが、著者と出版社から、ハードカバーの単行本という体裁をとったライトノベルかと思っていました。 それは、半分は当たりですが半分は外れでした。 図書館員が武装して銃を撃ったりヘリから降下したりという設定に馴染めないと、読み進めるのは困難かもしれませんが、それを乗り越えれば結構楽しく読めると思います。 ただの近未来アクション冒険活劇ではなく、図書館の在り方やこどもたちへの本の提供の仕方をきちんと考えているし、そこにホロリとさせる人情味やラブコメディーも織り交ぜてあり、一般小説としていい作品になっていると思います。 郁と上官・堂上のやり取りは面白いし、郁の友人・柴崎麻子もいい味出してるし、主要登場人物がいい感じで配置されています。 郁は、いつになったら“事実”に気付くのでしょうか。 文庫なら絶対買うのに……。

 

「図書館内乱」 (2006年10)

武蔵野第一図書館に勤務する笠原郁のもとを郷里・茨城は水戸からやってきた両親が訪ねる。 図書特殊部隊に配属になっていることを隠している郁は、良心にバレないよう苦心惨憺するが……(「両親攪乱大作戦」)。 小牧の実家の近所に住む少女・鞠江は、数年前に聴力を失った。 彼女に『レインツリーの国』という本を薦めたことが問題になって……(「恋の障害」)。 基地内で一番の情報通・柴崎に近づく朝比奈の目的は……(「美女の微笑み」)。 郁の同僚・手塚とその兄・慧との間にはどんな確執があるのか(「兄と弟」)。 郁は、見に覚えのない容疑で査問会に呼び出される。 乗り切れるか、郁!?(「図書館の明日はどっちだ」)。 図書館シリーズ第2弾。

面白い! 前作「図書館戦争」より、郁以外の主要メンバー、小牧・柴崎・手塚に焦点が当てられていて、それぞれの性格の根源のようなものが垣間見られます。 特に気になったのは柴崎。 美人はそれだけで大変らしいということがよくわかりました。 自分では実感できないもので(笑)。 どうでもいい人から思われるのも面倒なのに、広瀬のような同僚にやっかまれるのは更に面倒でしょう。 郁という存在がなかったら、柴崎も“壊れて”いたかも。 シリーズ化が決定したということで、これからどんどん進展があると思いますが、柴崎が郁に本当に心を開くとか、手塚と兄の確執がどうなるかとか、小牧と鞠江がどうなるかとか、郁と“王子様”がどうなるかとか、気になる点はたくさんあります。 第3弾・第4弾……が待ち遠しいです。 作中に登場した『レインツリーの国』が新潮社から刊行になっているので、そちらも読んでみようと思います。

 

「レインツリーの国」 (2006年11)

中学時代に読んだ「フェアリーゲーム」というライトノベルの感想をパソコンで検索し、そのサイトの管理人“ひとみ”とメールを交換するようになった向坂伸行。 ぽんぽんと打てば響くようなメールのやりとりを繰り返すうち、彼女に会いたいと思うようになった伸行は、「会いたい」と誘いをかけるが……。 “図書館”シリーズ第2弾「図書館内乱」で、小牧が鞠江に薦めた本を具現化したものです。

最初は、「結局、パソコン・ブログ・Eメール・携帯電話など最近の(でもないか?)ツールを駆使した恋愛小説風ラノベじゃない」と思いましたが、読み進むにつれてそういう認識は改めさせられました。 確かにイマドキの作品だなとは思いますが、内容はそんなにチャラいものではありませんでした。 中途失聴や聾・聾唖など、“聞こえ”がない方たちがどんなふうに大変なのか、ほんの少しでも理解できたと思います。 もちろん、作中で伸行が「俺が体験して感じたことは君にはわからないし、君がどんな思いをしてきたかは俺にはわからない」というようなことを言っているように、伸行や“ひとみ”がどんな思いをしながら今の姿になったのかわかるなんて言うのはおこがましいとは思いますが、それでも少しは理解できたと思いたい、と思います。 伸行の叔母やミサコなど、結構“いい人”も周りにはいることだし、これからの二人が喧嘩をしながらもいい方向へ進んでくれることを望みます。 二人のその後の話や、「フェアリーゲーム」も読みたいです、有川さん!

 

「図書館危機」 (2007年3月)

“王子様”が発覚し、大混乱の郁。 そんな中、小牧の恋人・鞠江が図書館である被害に遭い……(「一、王子様、卒業」)。 昇任試験を前に、郁・柴崎・手塚はそれぞれに案を練るが……(「二、昇任試験、来たる」)。 生い立ちを明かさない俳優・香坂大地が『新世相』に語った過去。 しかし、あるコトバが問題になり……(「三、ねじれたコトバ」)。 郁の故郷・茨城県水戸市にある県立図書館から県展に関して図書隊に出動要請が来るが……(「四、里帰り、勃発―茨城県展警備―」「五、図書館は誰がために―稲嶺、勇退―」)。 図書館シリーズ第3弾。

特に印象に残ったのが四・五。 我が茨城県が舞台とあっては、読むほうにも力が入ります(笑)。 茨城・水戸・県立図書館・近代美術館など、耳慣れた単語が小説の一部として登場するとなぜか嬉しいものですね。 しかし、内容は至ってシビアで、笑って読めるようなものではありませんでした。 作品自体がどうこうということではなく、「本当にこんなことが起こったら……」と思うとゾッとする、という意味です。 表現の自由、言論の自由と言っても、確かに限度はあると思います。 でも、誰もが賞賛・納得するものなんて、存在しないと思います。 大絶賛の○○賞受賞作品を読んでも何も感じない人(例えば私)がいるのがいい例です。 香坂大地の発言や県立図書館長の暴挙などにより、メディア良化委員会も基盤が危うくなってきたことだし、次のシリーズ最終巻は「図書館天国」とか「図書館平和」とか「図書館万歳」とかになるのでしょうか(笑)。

 

「図書館革命」 (2007年12)

正化34年1月15日、福井県敦賀電子力発電所が深夜、大規模な襲撃を受けた。 このテロは、作家・当麻蔵人の「原発危機」を参考にしたとされ、当麻はメディア良化委員会の狩りの対象となった。 そこで、“言論の自由”を守るため、図書隊が立ち上がる。 果たして、堂上や郁、手塚たちは当麻を、“言論の自由”を守り切ることがえきるのか―。 図書館シリーズ、第4巻にして最終巻。

シリーズものなので「戦争」「内乱」「危機」があってこそ、「革命」も生きてくるわけですが、一番楽しめたのが今作でした。 楽しめたと言っても、メディア良化委員会の横暴(彼らには彼らの言い分があるのでしょうが)や、それらを回避するために図書隊員たちが強いられた環境などは笑えるものではありませんでしたが。 郁も、最初はどうなることかと思いましたが、堂上や小牧、手塚や柴崎たちと関わるうちに徐々に成長してきて、今作では一世一代とも言える大仕事をやってのけました。 えらい! ○の力は偉大ですねえ(笑)。 どういうふうに締め括るのかと思っていましたが、まさか堂上と郁が○○するとは! 期待はしていましたが、そこまで進むとは思っていませんでした。 郁も更に成長して、○○という立場にまでなるなんて。 本当に嬉しい限りです。 シリーズはここで完結ですが、著者もあとがきで述べておられるように、郁たちは読者の心の中で生き続けます。 ふとしたときに、「今ごろ○○と○○はどうしてるかな」と思い描くのも楽しいものです。 それにしても、大阪のおばちゃんはすごい! 「カッコええ!」としか言いようがありません(笑)。

 

「阪急電車」 (2008年3月)(Library)

阪急電車今津線。 たった8駅、15分の路線で、様々な出会いや別れが繰り広げられる。 運命の女性に出会ったり、恋人と別れの覚悟を決めたり、女子高生が社会人の彼の話で盛り上がったり、初めての恋の予感を得たり。 電車は、人数分の人生を乗せて走っていく―。

最初は図書館本で読みましたが、「これは“買い”だな」と思って購入するほど気に入りました。 各駅ごとにメインの登場人物がいて、さらにその人物たちがシンクロして、人生の大きな決断を下したりその助言をしたり。 なんて素敵な路線なのでしょう!(笑) 今津線に乗りたくなりました。 きっと地元では盛り上がっているのでしょうね。 いいなあ。 どの登場人物も素敵ですが、一番を挙げるとすれば時江でしょうか。 さすがに年配のご婦人だけあって、人生の機微を知っていらっしゃる。 ミサに対する助言には「ホントにそうだ!」と思いました。 そのミサの、康江に対する助言もナイスでした。 どこにでも“ああいう”オバサンはいるのかもしれませんが、“ああ”なったらおしまいだな、と思います。 気をつけなきゃ……。 翔子もカッコイイ。 新郎新婦はそうされて当然のことをいたと思います。 やり過ぎだと言う人もいると思いますが、個人的には「よくやった!」と言いたいです。 大甘な恋愛小説ではなく、人生の機微にも触れたりして考えさせられることがたくさんあった内容でした。 読んでよかったと思います。

 

「別冊図書館戦争T」 (2008年6月)

怪我で入院中の堂上を健気に見舞う恋人・郁。 だが、元来不器用な彼女はリンゴもまともに剥けず……(笑)。 「図書館戦争」シリーズのベタ甘全開スピンアウト別冊シリーズ第1弾。 堂上&郁の恋人期間の紆余曲折のエピソード5編。

うわ〜、甘〜い。 かゆくなりそう(笑)。 苦手な人は苦手でしょうけど、まあ楽しく読めました。 “これ”を実際に目の前で展開されたらちょっと戸惑うかもしれませんが。 でも、堂上と郁の関係が徐々に進展していくのが微笑ましいですね。 いい大人なのに「徐々に過ぎるぞ!」という感じ。 一番印象に残ったのは4話目の「こらえる声」。 全編、図書館でのちょっとした出来事も描かれていますが、このエピソードは痛い(“イタイ”ではなく“痛い”)。 子供は子供なりに考えているんですね。 もう大丈夫だと思うけど、がんばれ雄大。 登場人物にスポットを当てたシリーズということで、次は○○と○○がどうにかなっちゃったりして。 楽しみです。

 

「別冊図書館戦争U」 (2008)

「タイムマシンがあったらいつに戻りたいか」という話題で盛り上がる郁に話を振られた元良化隊員という経歴を持つ図書特殊部隊副隊長・緒形は、「大学三年の頃」と答えたがその理由は……(「もしもタイムマシンがあったら」)。 堂上と郁の間で、堂上が全面的に非を認めたときの和解の申し入れは「何でも一つ言うことをきく」というもので、郁は「新米だった頃の話が聞きたい」と頼み……(「昔の話を聞かせて」)。 一人部屋が空くまで二人部屋を一人で使っている柴崎は、同期で階級が下の水島との同室を頼まれ、次に空く一人部屋の確約と交換条件に仕方なく了承したが……(「背中合わせの二人」(1)(2)(3))。 「図書館戦争」シリーズ最終巻。

タイムマシンがあったらいつに戻りたいか、というのはたまに考える問題ですね。 見てみたい時代はたくさんありますが(恐竜とかマリー・アントワネットとか)、自分の人生で考えると難しいですね。 究極には生まれる前かもしれませんが、それ以外でとなるとやっぱり学生時代かなあ。 もっと勉強しておけばよかった、と(笑)。 せめて司書資格は取っておけばよかったと今でも大後悔。 堂上と小牧の昔の話は今の二人からするとちょっと以外な気もしますが、やはり彼らも人の子ですねえ。 あの小牧ですら生まれたときから完璧超人ではなかったことがはっきりして、ある意味安心しました。 “あの”二人も落ち着くところに落ち着いて、ほんとよかったです。 周りからすれば一目瞭然なのに当人同士が一番わかっていない、というのはありがちなパターンですよねえ。 彼らに思いを寄せる方としてはちょっと迷惑な気もしますが。 例の事件の真犯人は○○だろうとは察しがつきましたが、あんな歪んだ精神の持ち主だとは思いませんでした。 なまじの○○ー○ーよりタチが悪い。 まあ、最終的には丸く収まったのでよかったですが、「あんな事件が起きる前に自分たちで気づけよ」というのもちょっと本音です。 末永くお幸せに。

 

安東能明 (あんどう・よしあき)

「ポセイドンの涙」 (2005年9月)

トータルで数十年という年月や、青函トンネルという舞台など、壮大なスケールの作品でした。 構想17年というのも頷けます。 映画化されるそうですが、ぜひ観たいと思います。 同じ内容の作文が実在するそうですが、最後の最後に明かされる真相は、とても悲しいものでした。

 

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