樋口直哉 (ひぐち・なおや)

「大人ドロップ」 (2007年4月)

高校生の夏。 “ぼく”は親友のハジメが「クラスメートの入江さんとふたりきりで話したい」という願いを叶えるべく、同じクラスメートのハルに協力を要請する。 しかし、そのときのちょっとした策略が原因で入江さんを怒らせてしまう。 仲直りのタイミングがつかめないうちに、入江さんは……。 芥川賞候補作「さよならアメリカ」の著者が描くみずみずしい青春小説。

ミステリーの合間に読む純文学は結構“来ます”ね〜。 どんな作品でもいいわけではありませんが、人殺しの話ばかりで殺伐とした心に水が沁みるようにさらっと入ってきます。 今作は高校生が主人公の青春小説で、年齢的には十分オトナの私が読むと自分の過去との比較になってしまいますが(笑)。 入江さんは親の都合であまり経験したくないような目に遭いますが、その分“ぼく”よりはオトナだったのかもしれません。 ハルは、「“そのときしかできないこと”をしなきゃ」と言って付き合う相手を選びますが、確かにそれはそれで必要な経験かもしれません。 最後のほうでハジメが○○しなくなってしまうのは(作品として)ちょっと残念です。 それにしても、どうなったら“オトナになった”と言えるのでしょう。 年齢だけの問題ではないし、経験だけでもないし。 このトシになっても自分はちゃんとしたオトナだとは思えないというのは何か問題があるのでしょうか……(泣)。

 

樋口有介 (ひぐち・ゆうすけ)

「月への梯子」 (2006年1月)

通称“ボクさん”こと幸福荘の大家・福田幸男は、少し頭が弱いが、近所の総菜屋親子や店子たちの善意に囲まれて、その名の通り幸福な生活を送っていた。 ある日、アパートの屋根の修理のために梯子を登っていたボクさんは、室内で店子の一人が殺されているのを発見し、驚きのあまり梯子から転落する。 しかも、病院で目覚めてアパートに戻ると、店子全員が失踪していた。 殺人事件の真犯人は? 店子たちの行方は? “知る”ことの哀しみが胸に迫る書き下ろし長編ミステリー。

表紙に白猫の写真が使われているのですが、「月への梯子」で何故、という疑問は読み進めるうちに解けました。 真相には関係ないと思いますが、「ああ、これね」と納得しました。 結末としては、「結局、○だったの? 真相は?」というのが正直な感想ですが、面白い着地だなとも思いました。 ボクさんは、幸福な人生のまま“月への梯子”を登ったのだな、と思います。

 

「ピース」 (2006年11)

埼玉県で発生した歯科医師バラバラ殺人事件。 同じ手口でスナックのピアニストが殺され、連続殺人事件と断定、二人の接点を探るべく警察は奔走する。 成果が見られないまま3件目の事件が発生し、平和な田舎町は震撼となる。 いくつかの“断片”が示す真犯人とは……。

何度も読み返すほど好きで、同じような動機の短編を読んだことがありますが、そちらとはまた違う事件の進み方・終わり方でした。 個人的には納得のいく犯行の動機でしたが、どんな動機でも殺人は許されないんですよねえ。 自分のしていることがどんなにひどいことなのか、分からない人間には何を言っても通じないし。 確かに私も“あの場”にいて“それ”を見たら、「ふざけんな!」と怒鳴っただろうと思います。 こういう終わり方もありだし、好きと言えば好きですが、別の終わり方も読みたいなとも思いました。 謎はすべて解き明かされるのがいいとは限りませんけど。 タイトルの付け方も秀逸です。 「なるほど!」と膝を叩いちゃいました。 一番気がかりなのは、これからの人生を梢路(しょうじ)がどう生きていくのかということ。 確かに百科事典は面白いけど、紙の上だけでは生きていけないものだし。

 

平野啓一郎 (ひらの・けいいちろう)

「決壊」(上)(下) (2008)

犯行声明付きのバラバラ死体が全国で次々と発見された。 被害者は平凡な家庭を営む会社員、沢野良介。 事件当夜、彼はエリート公務員の兄・崇と会っていたはずだった。 良介の妻・佳枝は、ネット上で良介とやり取りをしていた〈666〉という人物が犯人だと睨むが……。 犯行声明により連鎖して起こる殺人事件。 ついに容疑者が逮捕されるが、事件は予想外の展開を迎える。 その衝撃的結末とは―。

なんとも言えない事件の流れと真相でした。 「ここまでしなくても(=書かなくても)」という部分が多々あり、読むのが辛かったのは事実です。 ネットの怖さも充分に表れていました。 「あり得ない」と言い切れないところが怖いし、発覚していないだけで実際には起こっていないとも限らないところがまた怖いです。 登場人物の誰にも共感を得ることはできませんでしたが、佳枝はどうかな、と思いました。 良介があんな目に遭ったのだから正常でいられるわけもないと思いますが、「“あんな”こと言わなくても」というのが正直な感想です。 「自分の身に起こったことではないからそんなことが言えるのだ」と反論されそうですが。 ○○のない結末で、著者が何を言いたかったのかは私には汲み取ることができたとは思えませんが(読後何を思うかは各々違っていて当然だとは思いますが)、読んだことは無駄にはなっていないと思います。 再読はできない(しない)と思いますが……。

 

広真紀 (ひろ・まさき)

「地獄少女 恨の紋章」 (2007年3月)(Library)

渉が通う学校に転校してきた美少女・清香は、ワケアリの雰囲気を漂わせていた。 それが気になって渉が起した行動がやがて……。 “地獄少女”閻魔あいに関わり、悲しい性を持つ人々の慟哭を重厚に描く。

地獄少女 うつろいの彼岸花」とは違った切り口から描かれた作品で、著者のあとがきを読むと、“アニメでは描けない小説ならではの「地獄少女」”ということですが、正直「やられた!」という感じです。 自分も地獄に落ちるのを覚悟で恨みを晴らさなければ気が済まないほどの被害を受けたら、それは加害者が悪いのだと思っていました。 その考え自体は変わっていませんが、今作を読んで、相手を地獄に送るという形で恨みを晴らすのは本人のためにはならないということを学びました。 地獄少女に恨みを晴らしてもらった教授・朱美・シンイチが渉に伝えたかったことは、誰にも当てはまることだと思います。 実際、ほとんどの人は恨みを晴らすことができずに理不尽や不幸を受け入れて暮しているのでしょう。 それは加害者と同じことをすれば同じレベルに堕ちてしまうことがわかっているからでもあると思います。 ただ、受け入れられない理不尽もあると思うので一概にどちらが正しいとは言えないと思いますが、地獄少女に依頼するにも自分で行動を起すにもよく考えなければいけないと言われたような気がしました。

 

広川純 (ひろかわ・じゅん)

「一応の推定」 (2006年7月)

駅のホームから転落して轢死した老人は、3ヶ月前に傷害保険に加入していた。 その支払いを巡り、遺族と保険会社の間でもめていた。 老人には、重病を患う孫娘がおり、自殺により保険金を手に入れようとしたのではないかという疑いが持たれたからだ。 保険会社から調査を依頼されたのは、ベテラン調査員・村越。 定年退職間際の仕事だが、彼は執念で真実に辿り着く。 明らかにされたその真実とは? 第13回松本清張賞受賞作。

長過ぎず短過ぎず、とても読み易い内容でした。 エンディングも、「その先が気になるけどどうなったの?」という余韻をもって終わっていて、いい演出だと思いました。 事故か自殺か、それによって保険金が支払われるかどうかが決まるので、遺族側も保険会社側も自分たちの言い分を通そうとしますが、その駆け引きも面白かったです。 村越が、おざなりな調査ではなく、きちんと足を使って真実を見出してくれたので、ほっとしました。 作者自身が、保険調査会社を経営しているということで、医者が医療モノを書くのと同じ意味合いを持つと思いますが、第2作以降をどうするか、そちらも楽しみです。

 

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