海堂尊 (かいどう・たける)

「チーム・バチスタの栄光」 (2006年5月)

東城大学医学部付属病院には、バチスタ手術を専門に行う、通称“チーム・バチスタ”という外科チームがあり、それを率いているのが米国帰りの心臓移植の権威でもある外科医・桐生恭一である。 ところが、成功率100%を誇るチーム・バチスタが3例立て続けに術死を招いてしまう。 桐生の要請により、病院長・高科は、不定愁訴外来責任者・田口公平に内部調査を依頼するが……。 第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

「このミス」大賞選考委員の方々は、この作品に対して惜しみのない賛辞を与えていますが、私にはその素晴らしさがあまり理解できなかったようです……。 確かに、内部調査によって明らかになった“真相”は「おおっ!」と驚くものでしたが、問題は○○人の“動機”。 「そんな理由であんなことをするなんて!」と憤りすら感じます。 それと、途中から登場する厚生労働省の役人・白鳥圭輔の口の利き方にもイライラさせられました。 わざとなのかもしれませんが、読んでいてムカムカして仕方がありませんでした。 大森望さんは白鳥にベタ惚れで、「白鳥を主役にシリーズ化してほしい」とおっしゃっていますが、その作品は私は読まないと思います。 

 

「ナイチンゲールの沈黙」 (2006年12月)

東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する浜田小夜。 担当は、眼球に発生する癌、網膜芽腫を患うアツシ・5歳と瑞人・14歳。 不定愁訴外来の田口公平に、二人のメンタル面をサポートするよう指示が下りる。 そんな中、子供を顧みない瑞人の父親が殺害され、小夜と瑞人が容疑者として警視庁に目を付けられる。 院内捜査を依頼された厚生省・白鳥たちが辿り着いた真相とは……。

新刊が出たので図書館で予約し、読み始めて思い出しました、「そう言えばあんまり好みじゃなかったんだっけ」という前作の感想を。 でもまあせっかく読み始めたのだし、もしかしたら前作とは違う感想を得られるかも知らないと思い最後まで読みましたが、やはり思ったとおりでした。 作品自体がいいとか悪いとかではなく、単に私の好みではないというだけの話しですが。 今回は田口があまり活躍しなかった気がしますが、大森望さんご希望の“白鳥が主役”として書かれたのなら、やはり読むべきではありませんでした。 病気に苦しむ方を見るのは辛いことですが、それが子供ならなおさらというか、アツシも瑞人も気の毒でした。 それにしても主治医の聖美は最低です! あんな人が医者だなんて恐ろしい。 確かに、医者にもプライベートは必要です。 でもそれは、やるべきことをやってから言うセリフではないでしょうか。 新天地で、少しでも医者としての本分を思い出して欲しいと思います。 瑞人の父親殺害の真相はあまり興味をそそりませんでした。 父親の魂胆はわかりきっているはずなのに○○は少し軽率だったのではないでしょうか。 ○○の“告白”の仕方もちょっと……。 “そういう”能力があることに異論は唱えませんが、やはり“お医者様が書いた作品”という感じでしょうか。

 

「螺鈿迷宮」 (2007年1月)

留年を繰り返していた東城大学医学部生・天馬大吉は、幼馴染みで新聞記者・葉子から「碧翠院桜宮病院に潜入して欲しい」と依頼を受ける。 そこは、終末期医療の最先端施設として注目を集めている病院だった。 看護ボランティアとして通い始めた天馬は、ある疑問を抱くが……。 最新メディカル・エンターテインメント。

「チーム・バチスタの栄光」を読んだ段階で、「私には生理的に合わない」と思っていましたが、「ナイチンゲールの沈黙」「螺鈿迷宮」と読んで「やっぱりダメ」と確信しました。 内容的には面白いと思うのですが、まず目次がダメ。 章立ての多さや章ごとのタイトルの付け方が気になって。 章ごとにいちいち日付・曜日・天気・時間が記載されているのもダメ。 何より私は白鳥が苦手(というか嫌い)なのでした。 いい人なのかもしれませんが、口の利き方が嫌なんです。 「Bravo!」とか「田口センセ」とか「〜てね。」とか。 彼が登場すると、せっかくいい内容でも純粋に楽しめないんです。 もったいない……。 ただ、序章は好きでした。 アリグモとひとごろしが“ああいう”点で同じという考えには賛同します。 過去の経緯を考えれば、巌雄院長が立花を○したのは仕方ないかとも思いますが、天馬にまで責任を追及するのはどうでしょう。 ○○は私のツボですが、そこまでいってしまうと延々と連鎖してしまうようで怖いです。 最後に生き残ったのは○○○ですが、続編もありそうな終わり方で気になります。 たぶん、嫌だ嫌だと思いながら読んでしまうような気がします。 嫌なら読まなきゃいいのに(笑)。 彼が登場しなければいいのに。

 

「ジェネラル・ルージュの凱旋」 (2007年6月)

不定愁訴外来の万年講師でリスクマネジメント委員会委員長でもある田口のもとに、救命救急センター部長・速水が特定業者と癒着しているという告発文書が届いた。 病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが……。 医療問題、収賄事件、大災害パニックなど、あらゆる要素が詰まったシリーズ最高傑作のメディカル・エンターテインメント。

確かに、シリーズ(というか海堂作品全部、といっても4作ですが)の中ではダントツによかったと思います。 あくまで私個人の考えですが。 不定愁訴外来専任看護師・藤原の活躍も効いていたと思います。 やはり、看護師をよくわかっているのは看護師ということでしょうか。 田口もがんばったと思うし、最後の処置は粋な計らいでした。 速水が“ジェネラル・ルージュ”たる所以はカッコよすぎです。 もちろん、災害は起きないに越したことはありませんが、起きてしまったからには最善の処置を取れるかどうかが人の生死を分けることになります。 速水のような医師だけでは病院経営が回っていかないのも分かりますが、医療問題の現状などを考えると悲観的にならざるを得ません。 事務長・三船の手腕で、なんとかがんばって欲しいと思います。 それにしても沼田はなんて嫌なヤツなんでしょう! 目の前にいたらぶん殴ってしまうかもしれません(笑)。 今作がこれだけ気に入ったのは他にも理由があって、私の嫌いな○○の出番が少なかったからというのがそれです。 しかも、出番では“いい仕事”してくれたし。 いつもこのくらいのスタンスだったらもっと好きになれるのになぁ。 彼がメインの作品は読みたくないと思っていましたが、もし刊行されたらきっと読んでしまうでしょう。 個人的には、島津をフューチャーして欲しいです。

 

「ブラックペアン1988」 (2007年11)

時は昭和63年。 世良雅志は、佐伯教授率いる東城大学医学部総合外科学教室で、外科研修医として勤務していた。 教室には、助教授・黒崎、垣谷、関川などの医師の他、世良以下研修医が数名いる。 そこへ、帝華大学から講師として高階が赴任してきた。 高階にはある思惑があるようだが……。 また、めったに顔を見せない渡海(とかい)は佐伯教授を陰で「ジイさん」と呼び、こちらも何かいわくありげで……。 策謀渦巻く大学病院で世良が目撃した真実とは……。

読み始めてまず「また桜宮か……」と思いました。 現役医師が小説を書く場合、どうしても医療関係の内容になってしまうのは仕方ありませんが、「そろそろ違う舞台の作品を書いてくれればいいのに」と思っていたので、ちょっと読む気がそがれたのは事実です。 でも、最後まで読んでよかったです。 タイトルにあるように、時代が違うので趣もいささか変わっていました。 章立ても比較的少なかったし。 何より○○が登場しなかったし(当然ですが)。 これは私にとっては大きなポイントでした(笑)。 高階が、佐伯教授言うところの“オモチャ”を広めようという気持ちはわからなくはありませんでした。 でもやはり軍配は佐伯に上がるかな、という感じです。 時代、ということもありますが、やはり「“これ”があってこそ“こう”なる」という根本的な部分は普遍的なのかな、と思いました。 なんでも○○に頼ってはいけない、ということですね。 渡海は気の毒な気がします。 長い間○じていたものが覆されたようなもので、結局佐伯に○けたようになってしまったのだから。 佐伯が○い人ではなかったことにはホッとしましたが、「なぜその時に……」という思いはありました。 「その場できちんと対処していれば、時を隔ててこんなことにはならなかったのに」と思うと残念でなりません。 “こういう”ふうにリンクしているとなると、既刊を読み返してみる価値はありそうです。

 

「夢見る黄金地球儀」 (2007年11)

1988年、バブル景気に沸き立つ日本では、ふるさと創生基金という名目で各市町村に1億円がばら撒かれた。 桜宮市では、1億円分の黄金で地球儀を作ることになったが、結果的には黄金をはめ込んだだけのものになり、現在では寂れた水族館にひっそりと展示されている有様。 そんな中、毎日を退屈に暮らしていた平沼平介のもとへ、8年ぶりに現れた悪友・久光穣治、通称ガラスのジョーがある相談を持ちかける。 それは、黄金地球儀を盗み出そうというものだったが……。 初の非・医療モノにして、抱腹絶倒のジェットコースター・ノベル。

舞台はお決まりの桜宮市とはいえ、初の非・医療モノということである種の期待を抱いて読み始めましたが、とても楽しめました。 まず、「町の鉄工所ってすごいな」というのが正直な感想。 現実にもニュースになったりしますが、家内工業で細々と営業しているような町の鉄工所所長があんなものやこんなものを開発、販売しているなんて。 個人的には「ゴ○○○バシンバシン」が欲しいです(笑)。 マシンの命名センスもすごいです。 実際にもこういうものを作っているところがあるんだろうな、と思うと感慨も一入です。 内容としては、黄金地球儀を盗み出すということはどんな理由があれ犯罪ですが、「平介がんばれ」と応援したくなる展開でした。 ジョーはただの風来坊ではなく「何かある」と思わせるヤツでしたが、まさか“そういう”ことになっているとは思いませんでした。 黙っているなんて人の悪い……。 悪気があってのことではないので、ジョーのことを責めるのはお門違いかもしれませんが、平介が怒るのも無理のないことかもしれません。 最終的には「これでよかった」という終わり方なのでホッとしましたが、男性同士の友情っていいな、と思いました。

 

「医学のたまご」 (2008年2月)

曾根崎薫、14歳。 ある理由から、潜在能力試験で日本一の成績を収めてしまったばかりに、東城大学医学部で研究活動をすることに。 そんな中、世紀の大発見をした(らしい)薫は、最先端の研究をめぐる医学界の熾烈な争いに巻き込まれ……。 海外に出張中の世界的ゲーム理論学者の父・伸一郎とメールのやりとりをしながら、薫は自分の正しい道を模索する。 コミカルで爽やかな医学ミステリー。

日本にそんな試験やそんな飛び級制度があるかどうかは別として、中学生に大学の医学部の研究室で最先端医療の研究をさせるというのはあまりにも無謀なのではないかと……。 薫の中学の友人・三田村や美智子、研究室の桃倉や佐々木が手助けしてくれてよかったです。 中でも桃倉はいい人でした。 こういう人が臨床の現場にいたらいいのに、と思いました。 もちろん、研究の分野にも必要な人材だと思いますが。 舞台はお馴染みの桜宮市ですが、時代は少し先の2020年。 “あの”田口が○○に、“あの”翔子が○○になっていてちょっとびっくり。 こういうリンクのしかたも楽しめますね。 でも、そろそろ別の場所でまったく違う登場人物にも活躍してもらいたいです。

 

角田光代 (かくた・みつよ)

「八日目の蝉」 (2007年5月)

不倫相手の家へ行き、赤ん坊を見るだけのつもりが思わず抱き上げてしまった希和子。 その日から、母娘としての逃亡生活が始まった……。 家族としての枠組みの意味を探る、著者初の新聞小説&長編サスペンス。

私にとって初の角田作品ですが、新聞で簡単なあらすじを読んで「これだ!」と思いました。 読んでよかったです。 登場人物は女性がほとんどですが、やはり希和子に感情移入してしまいました。 その反面「なんでそんな男に固執するのよ!」と言いたくなったり。 乳児誘拐という事件として見れば、確かに希和子は加害者で相手の男やその妻は被害者かもしれませんが、「そうさせたのはおまえだろう」と言いたくなります。 自分が女性という視点、希和子としての視点で見るからそう見えるのかもしれませんが、私の感想としてはそれは揺るぎません。 もちろん、希和子と赤ん坊がそのまま幸せな人生を送れるなんて思ってはいませんでした。 「戸籍がなくても生きている」と言えますが、住民票や健康保険はどうするのだという問題があります。 学校だけが学ぶところではないし、保険証がなくても病院にはかかれますけど。 1章の最後で希和子が○○される前、それまで面倒をみてくれていた昌江が電話をかけてくれたところでウルウル。 ○○されるところでは号泣。 2章に入ってからは流れを引きずって、ほとんど泣きながら読んでいました。 束の間、母娘として過ごした二人が引き離され十数年の歳月を越え再び巡り会えたら……と願っていましたが、“ああいう”結末が本当だろうと思いました。 これからの二人が幸せであることを願います。

 

梶尾真治 (かじお・しんじ)

「悲しき人形つかい」 (2007年3月)

「ホーキング博士に自分の足で歩いてもらいたい」という壮大な夢を掛けて、無名の天才発明家・機敷埜風天(きしきの・ふうてん)は脳波を直接受信して動作をサポートする介護支援機器・ボディーフレーム、略してBFを開発していたが……。

フーテンとその友人・祐介が住むことになった町の状態や、祐介がヤクザの組長・北村を……という設定などは、荒唐無稽といえばそれまでですが、BFは実際に開発されれば介護の役に立つのでは、と思えるほど真に迫っていたと思います。 タイトルは“悲しき人形つかい”とありますが、本当に悲しいのは今作の場合“人形”のほうだったのでは、と思います。 最後に“あんなこと”になってしまって、ちゃんと○○できるといいのですが……。 北村組と対立していた藤野会の次男・鉄男が“あんな”人間になってしまった理由には不覚にもほろっと来てしまいました。 これからはフーテンたちと力を合わせて、世の中の役に立つ人間に戻って欲しいと思います。

 

桂望実 (かつら・のぞみ)

「県庁の星」 (2005年10)(Library)

入庁9年目のエリート県庁職員・野村聡。 民間企業との人事交流研修者に選ばれ、1年間、スーパーで研修することに。 ところが、売上が上がらず、リストラでその場を凌ぐような現場に、まったくヤル気の出ない聡。パートなのに教育係の二宮泰子にコケにされながらも、配属された惣菜売場でだんだん活力を見出してきた。研修を終えたとき、聡が民間企業でつかんだモノとは……。

織田裕二さん主演で映画化されるというので読んでみましたが、そういうことは抜きにしても大当たりでした。最初は、「俺は選ばれた人間なんだ」という意識で、上からモノを見ていた聡が、横を見ることに気づいていく。“人は、見えている部分だけでは判断できない”“自分が一生懸命やれば、相手も同じように返してくれる”“人は、一人で生きているわけではない”“現場視点でモノを見る”“数字だけでは判断できない” そういうことを学んだことは、仕事だけではなく、人生においても役に立つことでしょう。

 

「死日記」 (2006年6月)(Library)

14歳の少年・田口潤は、中学三年に進級したのを機に日記をつけ始める。 日記には、親友・小野やその両親、担任教師や用務員のおじさん、アルバイトをしている新聞専売所のおじさんのことなどの他に、母親・陽子やその恋人・加瀬のことも書かれていた。 母親の幸せを願う潤だったが、いつしか不吉な事件に巻き込まれていく。 事件を追う刑事が、潤の日記から読み取った真実とは……。

現実的にあり得そうな話で、事実、テレビニュースや新聞記事でこういう内容の事件を見聞きした気もします。 潤は、実の父親に虐げられてきた母親を愛するあまり、あのような結果になってしまいましたが、それは果たして母親のためになったのでしょうか。 母親の過去には、確かに同情すべき点はあったと思いますが、だからと言って加瀬の言いなりになるしかないとは思えません。 本当に母親のためを思うなら、もっと他に方法があったのではないかと思うと、胸が痛みます。 15歳になったばかりの中学三年生には、あれが精一杯の愛情表現だったのかもしれませんが。 小野やその両親、担任教師など、潤の周りにはいい人がたくさんいたことがせめてもの救いでしたが、それでもああいう結末は哀し過ぎると思いました。

 

LadyGO」 (2007年4月)

両親の離婚・それぞれの再婚という理由で16歳から一人暮らしを余儀なくされた南玲奈は、現在は派遣会社に登録し、職場を点々としていた。 ある夜、恋人・勇太に呼び出されたファミレスで一方的に別れ話をされる。 落ち込む日々を過ごすうち、元同級生の姉・泉と再会し……。 ベストセラー「県庁の星」の著者による渾身の傑作長編。

10代半ばで玲奈のような人生を歩まざるを得ない人も実際にいるのでしょうが、自分がその立場になったらと思うと全然自信がありません。 玲奈も派遣で働きながらいっぱいいっぱいの生活を送っていますが、常に不安がつきまとっています。 一番の問題はやはりお金。 時給いくらで何時間で何日だから計いくら、と計算していてもいつ契約が打ち切られるかわからない。 次々とコンスタントに仕事が入ってくるわけではない。 望んでいる時給や職種で働けるとは限らない。 不安や不満の材料はいくらでもありますね。 どんな仕事にも不安や不満がないとは思いませんが、玲奈は自分で自分の首を絞めている部分もありました。 仕事のことだけではなく性格の面でもそれは同じ。 そういうふうに生きるしかなかった、という理由もわかりますが、他にも生き方はあったはずです。 もちろん、こんなことが言えるのは自分がそういう人生を歩まずにすんだからであって、玲奈の立場だったら同じような性格になっていたかもしれません。 派遣の繋ぎとしてキャバクラで働くようになりますが、そこで得た教訓は大事なものだと思います。 どんな仕事に関しても言えることですが、相手の気持ちを考えるというのは大事なことですよね。 「自分がこの人の立場だったら」とか「自分はどうされたら嬉しいか」とか考えれば、自ずと体が動くのではないでしょうか。 いくらこちらが好意的に振舞っても相手に届かない場合も多々ありますが、それは諦めるしかないと思っています。 「この人はこういう人なんだ」と思わなければやっていけませんし。 玲奈が最後に辿り着いた仕事は実際問題としてどうなのかとは思いますが、やりたいことをやって成功すれば楽しいし、失敗だったらまた別の道を探せばいいし。 がんばって行けるところまで行って欲しいと思います。

 

RunRunRun!」 (2007年4月)

オリンピックの金メダルを目指し、岡崎優は日々練習に励んでいた。 大学入学後も独自の道を行き、箱根駅伝も単なる通過点、仲間など必要ないと考えていた。 しかし、アスリートとして最高の資質を持つ優が知った事実とは……。

たぶん今作を読んだ方ほぼ全員が「岡崎優、あんた何様!?」と感じたことと思います(笑)。 少なくとも私は、目上の人に対する言葉遣いや態度の悪さだけで優を大嫌いになりました。 自分に自信を持つのはいいことだと思いますが、傲慢になったり他人を見下すのは違うと思います。 優勝しかしたことがない彼は、すべて自分ひとりの力でそれを勝ち取ってきたと思っていますが、練習に付き合ってくれている父親が指導してくれているからということを忘れていました。 大学入学後も「自分ひとりで走っている」と思っていますが、それは大きな間違いで“チーム岡崎”が組まれただけでもひとりではないことになぜ気付かないのでしょう。 ある事実を知った後、そして箱根駅伝である役割を果たした後、優も人間として成長しますが、ここでやっと彼を好きになることができました。 読み始めは「主人公がこんな嫌な奴ならこれ以上読みたくない」と思うくらい嫌いでしたが、投げ出さずに最後まで読んでよかったです。 家族や自分自身の体のことなど、優にはまだ問題が残されてはいますが、がんばって生きていって欲しいと思います。

 

「明日この手を放しても」 (2007年8月)

19歳のとき難病に罹り中途失明者となってしまった凛子。 看護師の母を事故で亡くし、寡黙だが優しい漫画家の父と、いつも文句ばかり言っている兄・真司となんとか暮らしていたが……。 家族の愛が詰まったハートフルな書き下ろし長編小説。

「これでもか」というほど凛子に降りかかる試練。 失明、母の死、父の○○、気の合わない兄との共同作業。 私なら耐えられないかも……。 一番ムカついたのは、編集者・西尾の態度。 あんな人はほんの一握り(いない、とは言えない)だとは思いますが、凛子や真司にとって兄のような存在だっただけに、あまりにも残念です。 結果的にはふたりにとってはいい方向に進んだのでよかったですが、そうでなかったらと思うとぞっとします。 でも、最後に真司が気付いたように、西尾にもいいところがひとつもなかったわけではありません。 その気持を思い出して、まっとうな人生を歩んで欲しいと思います。 真司も、最初は「短気な人だなあ」「人のせいにばかりしてイヤなやつ」と思ったりもしましたが、それは別の意味を持っていたことを思い知り、「いいやつじゃん」と評価は180度変わりました。 これからふたりは、手を取りつつ離れつつさらに成長していくと思いますが、もっと幸せになってくれることを願います。 「コスモス」読みたいな。 ちょっと残念なのは、父の○○の顛末が書かれていないこと。 もしかして、別のお話しとしてとってあるのかも、と思ったりして。 それならそちらも楽しみです。

 

「女たちの内戦(セフルウォーズ)」 (2007年12)

結婚相手を探して合コンに明け暮れる29歳の自分大好きOL・真樹。 家庭生活に安住しつつも“自己実現”を目指す34歳の専業主婦・佳乃。 望んでもいないのにバリバリの出世街道を歩んでしまう39歳のキャリアウーマン・めぐみ。 経営するインポートセレクトブティックの売上不振で岐路に立たされる45歳のバツイチオーナー・治子。 恋愛や結婚、仕事など、理想と現実の間を彷徨う4人の女性たちの葛藤を描く連作短編集。

どの女性にもあまり共感を得ることはできませんでしたが、一番親近感を得られたのは佳乃です。 専業主婦が、仕事を持つかつての友人たちを訪ねて、「自分にも何かできないか」と模索するのは、ある方面から見れば嫌味にも取られてしまいますが、佳乃にはそんな気はありません。 でも、「好き好んで働いているわけではない」とか、「好きな仕事なのにうまくいかない」とか、そういう気持ちでいる人のところへ、のほほんとした主婦に「これなら私にもできるかしら」くらいの軽い気持ちで訪ねてこられたらムカつきますよね。 人を傷つけたかもしれませんが、最終的には自分の取るべき道を見つけられたのでよかったです。 まあ、できればその前に気づけばよかったのですが。 一番わからないのは真樹。 もちろん年齢的な問題もありあますが、いわゆる“OL”という立場になったことがないので、「こういう人もいるのかあ」と新鮮な驚きを感じました。 もちろん、OLさんがみんなあんなふうなわけではないのも承知していますが。 何より、真樹は○○癖を治さないと(笑)。 ひとりで勝手に盛り上がって勝手に終わってしまうのでは、恋愛なんてできませんよ〜。 めぐみの考え方もよくわかりませんでした。 そんな○○のいい関係って、男性にとってアリなのでしょうか。 もちろん、女性にとってもナシですが、同性としてちょっと疑問を感じました。

 

「ボーイズ・ビー」 (2008年4)(Library)

母・美穂を病気で亡くし、消防署勤務で忙しい父・正和の代わりに弟・直也の面倒を見ている小学6年生の隼人は、ある日、真っ赤なアルファロメオを乗り回す70歳の靴職人・栄造と出会うが、そいつはとんでもない偏屈じじいだった! しかし、毎週のように顔を合わせるうちに、徐々に心を通じ合わせるようになり……。 年齢差58歳の、不器用な友情を描く物語。

泣けました。 母親が死んだことを理解できない6歳の弟の面倒を見る兄、という設定だけでも泣けますね。 自分だって悲しいのに、誰にも頼ることができないなんて。 正和が「お兄ちゃんなんだからできるな」というのは、自分も姉の立場の私としてはちょっとルール違反だと思います。 母を亡くした子供たちと同じように、妻を亡くした正和も悲しいのはわかります。 仕事が忙しいのもわかります。 でも、ちゃんと向き合ってあげないと。 たった12年しか生きていない男の子に、全部を押し付けたら可哀相ですよ。 幸いにも栄造と知り合い、彼が偏屈だけど実はいい人だったからよかったようなものの、そういう出会いがなかったら隼人が潰れてしまいます。 栄造が隼人や直也に振り回されておたおたしている姿を想像すると、ちょっと笑えます。 頑固な靴職人がプリンを作る姿はぜひ見てみたいものです。 N○Kあたりでドラマ化してくれるといいのに。 栄造は山崎努さん、隼人は須賀健太くんなんてどうでしょう。 小説としては、正和の視点で描いたストーリーも読んでみたいと思います。

 

門井慶喜 (かどい・よしのぶ)

「人形の部屋」 (2007年11)

元旅行会社勤務で、現在は一家の“主夫”として日々家事に勤しむ八駒敬典。 彼のもとに突然フランス人形を持ってやってきたのは、会社の元先輩・溝口だった。 借り受けた高価な人形を壊してしまったのでなんとかして欲しいと頼まれるが……(表題作「人形の部屋」)。 敬典が、娘・つばめや妻・陽子と暮らす日常に訪れる小さな謎を解き明かしていく全5編の連作短編集。

タイトルだけで、もっとおどろおどろしいというか、ホラーっぽいものを想像していましたが、全然違いました。 平穏な日常に訪れるちょっとした謎、というところでしょうか。 平穏とは言っても、“主夫”がいるという大概とは異なる家庭の形態故のささやかなトラブルはありますが。 フランス人形・万年筆・花言葉・名刺・万国旗など、それぞれに関する薀蓄はともすればうんざりするような(失礼!)内容ですが、個人的には「勉強になるな〜」という感じでした。 長編で、ひとつについて延々と述べられたらうんざりもするかもしれませんが、それぞれについて少しずつ知らなかったことを知るというのは意外と楽しいものでした。 「外泊1―銀座のビスマルク」と「外泊2―夢みる人の奈良」は、敬典が毎年妻と娘からもらうクリスマス・プレゼントとして自由に使っていい12月の好きな2日間に起きた出来事を書いていますが、両方とも前向きな感じですっきりした読後感を得られました。 敬典自身がということではありませんが、彼が係わった人物が、希望を持って去っていくというところがよかったです。 特に「夢みる人の奈良」の泉田は、これだけ前向きなら何でもできるのではないかという気がします。 見方を変えれば無謀でしかない行動ですが、やりたいことをやってそれでもダメなら別の道を切り開けるのではないでしょうか。 自分の身内だったら、と思うと諸手を挙げて賛成とはいきませんが(苦笑)。 つばめと陽子が敬典に感じている気持ちは、確かに世間一般の常識に照らし合わせると仕方ないものかもしれませんが、そんなものは吹っ飛ばして、これからもこういう形態の家庭でがんばって欲しいと思いました。

 

加藤実秋 (かとう・みあき)

「インディゴの夜 チョコレートビースト」 (2006年5月)

渋谷にある、一風変わったホストクラブ<club indigo>。 そこで働くホストやオーナーたちが、連続ホスト襲撃事件(「返報者」)・出版社編集者失踪事件(「マイノリティ/マジョリティ」)・飲食店強盗事件(「チョコレートビースト」)・ホストコンテストを巡る陰謀の謎(「真夜中のダーリン」)に挑む。 ホスト探偵団シリーズ第2弾。

一番印象に残ったのは「真夜中のダーリン」。 <club indigo>の新米ホスト・吉田吉男がホストコンテストに出場して、業界ナンバーワンホスト・空也(くうや)と競り合う様子が描かれていますが、○気を持ってきたらズルイです〜。 不覚にも、最後のほうでは泣けちゃいました。 “ああいう”事情があったら、“ああいう”生き方を選んでしまうこともあるかなあ、と思いました。 「25歳までは好きなことをやっていい」と言われている吉田吉男は、第3弾にも登場するでしょうか。 第3弾では、憂夜の過去や、晶と○○がどうなるのか、ぜひ教えて欲しいものです。

 

上遠野浩平 (かどの・こうへい)

「酸素は鏡に映らない」 (2007年4月)(Library)

小学五年生の高坂健輔は、クワガタのような物体を追いかけてしんと静まり返った公園に足を踏み入れた。 そこでブランコに乗った男と出会うが、その男と健輔が話しているところにオートバイが突っ込んできて……。 上遠野浩平が放つ新感覚冒険ミステリー。

ほとんどの作品がリンクしているという上遠野作品。 私は“事件”シリーズ(講談社ノベルス)と“しずるさん”シリーズ(富士見ミステリー文庫)しか読んでいませんが、我が家の図書室には全作品所蔵あり。 ダンナが買い揃えています。 「『酸素〜』はミステリーランドだから違うだろう」と思いきや、謎の男・オキシジェンは別作品にも登場しているそうです。 恐るべし、上遠野浩平(笑)。 健輔、健輔の姉・絵里香、バイクの男・池ヶ谷守雄が“お宝”を探して大冒険するという内容ですが、美術館で起きた事件はちょっとリアルな感じで子供向けにはどうかな、と感じました。 大金持ち・江賀内の考え方も、最近テレビなどで○○や○○が言っていたような話しだし。 現実は現実として受け止めることは必要かもしれませんが、読んだ後に「どう思ったか」とか「どうすればいいか」とか「どうしてはいけない」とか誰かと話し合うことも必要かな、と思いました。 そちら方面にばかり気を取られがちでしたが、元ヒーロー・守雄も意外といいヤツだと思いました。 単純だけど一生懸命、みたいなところがヒーローの必須条件でしょうか。 無限戦士ゼロサンダー」、私も観たいです(笑)。

 

香納諒一 (かのう・りょういち)

「ガリレオの小部屋」 (2007年2月)

とある文芸誌の新人賞に応募してきた榊薫は、都村左千夫と佐伯比奈子、二人の合作のペンネームだった。 都村ばかりが打ち合わせにやってくるので、編集者が比奈子に会おうとするとなぜか彼が止めるのだった(「無人の市」)。 “作品集としての共通低音と多様性を持たせた”(本人談)全7編の短編集。

初めて読んだ香納作品で、少し戸惑ってしまいました。 “こんな感じかな”と勝手に想像していたのとは違ったもので……。 たぶん「海鳴りの秋」が一番想像に近かったと思います。 一番印象に残ったのは「雪の降る町」。 15年ぶりに故郷・小樽に帰った恵美が出会ったサブは……という内容ですが、哀しかったです。 もう少し早く帰っていれば違う人生があったのに、というのは考えても仕方のないことですが、やはり残念です。 「冬の雨にまぎれて」も別の意味で印象に残りました。 正気と狂気は紙一重なんだな、としみじみ思いました。 一番おかしいのはたぶん○○。 自分がそれに気付いていないところがさらに恐ろしいです。 この後○○はどうなってしまうのでしょう……。

 

川口晴 (かわぐち・はれ)

「犬と私の10の約束」 (2008年4月)

ある日、あかりが家に帰ると庭の植え込みからよちよち歩きの子犬が出てきた。 犬を飼いたがっていたあかりは捕まえようとするが、突然鳴った電話の音にびっくりして子犬は逃げてしまった。 しかも、その電話は、母が倒れ入院したという、父からの電話だった。 結果的に子犬・ソックスを飼うことになったあかりは、母と「“10の約束”を守る」という約束を交わす。 しかし、恋愛や将来の目標に夢中になってしまったあかりは、ソックスを邪魔に思うようになり……。

泣けました……。 ある意味、動物モノはズルイです(笑)。 お母さんが○んでしまったり、恋人が○○をしてしまったり、あかりの周囲の人々が○○に見舞われ、それに伴いあかりも大変な思いをするという展開。 それをソックスとともに乗り切る、という簡単な内容ではありませんでした。 お父さんが病院を○めた理由は納得がいきます。 組織に属していれば仕方のないこもたくさんあると思いますが、“そんな”理由で娘に悲しい思いをさせていいわけがありません。 親友・侑子の存在も大きかったと思います。 あかりは周囲の人に助けられて成長することができました。 これからは恩返しをする意味でも、獣医としてがんばって欲しいと思います。

 

河崎愛美 (かわさき・まなみ)

「あなたへ」 (2005年11)

「想い」と題された一枚の写真。 それが、“私”と“あなた”の出会いだった。 これから楽しい高校生活が始まるはずだったのに……。 中学三年で、最愛の人を失った“私”から、逝ってしまった“あなた”への、最期の手紙。 書き終えたら、墓前で燃やすための手紙。 著者が、弱冠15歳で、小学館文庫小説賞を受賞した作品。

つい“15歳”という年齢を意識して読んでしまいましたが、作品自体は感動的で、最後の頃はぼろぼろ泣けました。 “あなた”の死を乗り越えて、“私”も前向きに生きていく決心をしてくれて、本当によかったと思います。 “あなた”のことは大事な思い出として胸にしまって、新しい数々の出会いに心をときめかせて欲しいものです。 次作に期待。

 

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