菊地秀行 (きくち・ひでゆき)

「懐かしいあなたへ」 (2007年2月)

時々、子供を連れて家出をする妻は何処へ行っているのか。 しかも、帰ってくる度に子供が違っている(「何処へ」)。 千代子は雨の日が嫌いだった。 しかし、竹中と知り合ったのはその雨のおかげだった。 一緒に暮し始めた二人だが……(「雨の日に窓の外で」)。 不思議で妖しい世界を描いた短編集。

何と言っていいやら……。 菊池作品は初めて読みましたが、不思議としか言いようがありません。 面白くないとかつまらないというわけではありませんが、面白いとかよかったという感じでもありませんでした。 とにかく判断できないんです。 幻想小説とか奇想小説というジャンルになるのかと思いますが、読み慣れていないせいかほとんどの作品は「え? え? え?」という間に終わってしまった、という感じです。 最初に収録されている「何処へ」を読んだときは、本当に「何これ!?」と叫んでしまいました。 夫に単身赴任をさせずに必ずついていく妻の理由は……という「単身赴任」は、展開を変えれば推理小説にもなりそうです。 やくざの“おれ”と刑事の“おれ”が登場する「おれとおれ」も「何これ!? どっちのがやくざでどっちが刑事?」という感想。 故郷の夏祭りで太鼓を叩くことになった藤吉は……という「夏祭り」も、推理小説的でした。 一人息子が亡くなって、本当に狂ってしまったのは夫か妻か、という「お寝すみ、人形さん」はホラーのようでした。 なんとも言えない読後感を残した短編集でしたが、何度か読めばもう少し理解できるでしょうか……。

 

岸田るり子 (きしだ・るりこ)

「出口のない部屋」 (2006年6月)

作家・仁科千里のもとへ出向いた編集者・香川は、『出口のない部屋』というタイトルの原稿を差し出された。 内容は、ひとつの部屋に閉じ込められた二人の女と一人の男の物語だった。 免疫学専門の大学講師・夏木祐子、開業医の妻・船出鏡子、売れっ子作家・佐島響の三人は、お互い見ず知らずであり、なんの接点もないように思えた。 なのになぜ、彼らは“出口のない部屋”に閉じ込められたのか。 第14回鮎川哲也賞受賞作家、受賞後第1作。

祐子・鏡子・佐島は、無関係のように見えて実はある人物を解して繫がっていたというのはわかりましたが、その繫がり方が凄い。 “出口のない部屋”に、彼らを閉じ込めた“犯人”の気持ちはわからなくもないですが、手口が恐ろしいです。 最後の頃に出てきた、心臓云々という描写はちょっと刺激的過ぎました。 “犯人”が○○しようと思った気持ちはわからなくもありませんが、こうなると、もう狂気以外のなにものでもなく、ちょっと共感を得るまでには至りませんでした。

 

「天使の眠り」 (2007年1月)

京都の医学部大学院の研究室に勤務する秋沢宗一は、助手の結婚披露宴で13年前札幌で激しく愛し合った女性・亜木帆一二三(あきほ・ひふみ)だった。 だが、中年であるはずの彼女はどう見ても20代にしか見えず、まるで別人のようだった。 どうしても彼女のことが忘れられない宗一は、彼女の周辺を探るうち驚くべき事実を掴む。 果たしてそれは一二三の仕業なのか……。

一二三が○○を守ろうとした気持ちは理解できますが、その方法はやはり間違っていたのではないかと思います。 「それではどうすればよかったか」と問われても、答えられないとは思いますが……。 最後の最後に、罪を償う・罪を重ねない・○○を助ける、という目的のために“ああいう”方法を取るしかなかったのは、仕方ないとはいえ気の毒でした。 そもそもはイアンの言うことを聞かなかったから起こった悲劇とも言えますが、女性にそれを強いるのは酷というものでしょう。 ○○が幸せに暮せることを願います。

 

「ランボー・クラブ」 (2008年1月)

不登校に陥った中学生の菊巳は、ランボー・クラブというサイトのトップページにあるフランス語の詩が習ったこともないのに読めたことに愕然とする。 僕はいったい誰なのか? ある日、そのランボーの詩が書き換えられ、その詩が暗示するとおりに殺人事件が起きて……。 色覚障害の少年をめぐる事件の驚くべき真相は―。

“こういう”ことが原因で色覚障害が起こるかもしれないというのは知りませんでした。 そのレベルまで行ってしまえば、何でも起こり得るとも言えるのかもしれませんが。 “それ”を狙ってあんなふうに近づくなんて○○は卑怯です。 確かに、画期的な研究でそれが機能すれば世の中の役に立つとは思いますが、○○の場合動機が不純です。 目に見えることだけが真実とは限らないし、それだけを信じてはいけないとつくづく思い知りました。 もちろん、それはそれで大事なことかもしれませんが、裏に何かあるかもしれないということを忘れてはいけませんね。 ミツイ探偵事務所の健一は、少し目を覚ましたほうがいいかもしれませんが(笑)。

 

「過去からの手紙」 (2008年5月)

沖縄での合宿から一週間ぶりに我が家へ帰ってきた純二を待っていたのは、奇妙な置手紙と腐ってもいないのに捨てられたシチュー用の肉、そして数日前から母が家に帰っていないという事実だった。 間もなく、母が記憶を失った状態で発見される。 純二は幼馴染みの静海とともに、母が失った過去を辿り始めるが……。

個人的には○○の存在は否定しませんが、今作でジュンニイが“ああいう”形で登場するのはちょっとどうかと思いました。 というか、“ああいう”形で謎解きをするというのが苦手なので……。 今作の場合、○○を登場させる必然性がなかったとは言いませんが、他に方法があったのでは、と思うとちょっと残念です。 あくまでも私個人が感じたことで、まったく違和感を覚えずに読む方も大勢いらっしゃると思うのですが、どうしても……。 純二や静海が所属している〈マテリアルクッキング〉クラブは楽しそうでした。 ただ、高校生とはいえ未成年が作る料理なので、ビールやワインを使うのはどうかと……。 昨今、未成年者の飲酒や喫煙はかなり問題になっているので、そういう配慮が欲しかったかな、と思いました。 本筋とは関係ない話ですが、細かいことが気になってしまうのが私の悪い癖(「相棒」右京さん風(笑))。

 

「めぐり会い」 (2008年7月)

京都でも桜が見事で知られる原谷苑を訪れた華美(はなみ)は、うまくいっていない夫との関係に思いを馳せ、泣きながらスケッチをしているところを通りかかった老夫婦に見られ、慌ててその場を後にする。 しかし、タクシーの中でデジカメを忘れてきたことに気づき、急いで取りに戻るが、何か違和感を覚えデータを再生してみると、見知らぬ少年が映っていた。 いつしか、その少年に恋心を覚えるようになった華美は……。

タイムスリップの真相が“そういう”ことだとは気づきませんでした。 「騙された〜!」という感じ。 わかってみればなんということもない真相ですが、わかった瞬間は「やられた!」と思いました。 華美の結婚生活は楽しいものではありませんでしたが、もう少し経てば違った答えが出たかもしれません。 そうなる前に運命の人に出会ってしまいましたが。 それはそれで運命なのでしょう。 個人的には、どの出会いも運命であり必然であると思うし、華美の場合は夫との出会いがあってこそ、次の出会いもあったのだと思うので、その運命を大事にして欲しいと思いました。

 

北川歩実 (きたがわ・あゆみ)

「長く冷たい眠り」 (2007年7月)

亡くなった兄・直道は、ある新興宗教に入信していた。 脳腫瘍で先が長くないと悟った彼は、かつての同級生に誘われ、評判のよくない新興宗教に救いを求めたのだ。 しかし、彼がそこで研究せられていてものは……(表題作「長く冷たい眠り」)。 “冷凍睡眠”という言葉を軸に描き出される全7編の短編集。

結論から言うと、個人的には“冷凍睡眠”にはまったく賛同できません。 やりたいという人を止めることはしませんが、自分ではその眠りにつきたいとは全然思いません。 何年後に目覚められるのかわかりませんが、そこまでして○きたいとは思いません。 もちろん、病気で苦しんでいる人などがその技術に望みを託す気持ちはわかる気もします。 でも、自分がその立場になったとしても絶対眠りにはつかないと思います。 せっかくの時間を眠って過ごしてしまってはもったいないからです。 だって、数年後か数十年後かに目覚めたとき、自分を知っている人は誰もいない(かもしれない)のに、それでも○きたいと思うでしょうか。 だったら、短い期間でも家族や友人たちと過ごしたいと私は思います。 内容として一番印象に残ったのは「闇の中へ」。 最初は「この父親は人間のくずだ!」と思っていましたが、最後には涙が止まりませんでした。 それまでの和正の言動が救いようのないダメ人間ぶりを表していればいるほど、最後の2ページくらいが生きてくるんですね。 実際に“そんなこと”が可能かどうかはわかりませんが、せめて康弘が元気になってくれれば、と思いました。 本当は、和正が○きて一緒に過ごしたり闘ったりすることが償いになるのでしょうが……。

 

北村薫 (きたむら・かおる)

「月の砂漠をさばさばと」 (2005年9月)(Library)

9歳のさきちゃんと作家のお母さんは二人暮し。 毎日をとても大事に、楽しく積み重ねています。かつて自分が通った道をすこやかに歩いてくる娘と、共に生きる喜びや切なさを、12篇の物語で綴ります。

……大きな声では言えませんが、実は初の北村作品。 なぜ今まで読まなかったのか! おーなり由子さんのイラストがまた素敵! 文庫で購入しましたが、ちゃんと再現されていました。 どの作品も好きですが、一番気に入ったのは『猫が飼いたい』。 いつか飼えるといいね、さきちゃん。 次に読む北村作品は、梨木香歩さんの解説に出てきた『盤上の敵』にしようと思い、文庫を購入しました。

 

「盤上の敵」 (2005年10)(Library)

テレビ番組制作プロダクションのディレクター・末永の家に、猟銃を持った殺人犯が妻・由貴子を人質に立てこもった。末永は、由貴子を無事救出するため、警察を出し抜いて犯人と直接交渉をする。 その結末は……。

幸か不幸か、私にとって2作目の北村作品で、違和感なくすんなり入り込めました。 “日常の謎”系作家さんが書くには、あまりにも非日常な内容だと思いますが、個人的にはハマる内容でした。ただ、白のクィーンの独白は、確かに辛く痛いものでした。 なので、三季がああなったことは何とも思いませんでした。犬にあんなことをするなんて、そうなって当然よ! くらいの感覚。 まあ、小説の中ですしね。 一番気の毒だと思ったのは、章一郎です。 なにも○さなくても……。 しかもあんなふうに。 なので、三季同様、犯人もああなったのは当然の報いだと思います。 残念なのは、末永と由貴子がそれぞれ○○者になってしまったということ。 平穏な日々は再びやってくるのでしょうか。

 

「覆面作家は二人いる」 (2006年4月)(Library)

姓は“覆面”、名は“作家”、本名・新妻千秋は弱冠19歳の新人ミステリー作家。 正体は世田谷に大邸宅を構える大富豪のご令嬢。 ところが、編集担当者・岡部良介が知ったお嬢様のもう一つの顔とは……。 日常世界に潜む謎を鮮やかに解き明かすお嬢様探偵シリーズ第1弾。

文章が軽快で、しかもユーモアたっぷりでとても読み易いです。 “可介・不可介”には大笑い。 確かに、“優・良”は名前を付けられた当人にしたら、ちょっとした問題かもしれません。 千秋や良介もいいキャラクターですが、脇役(と言ってはナンですが)もいい感じ。 優介しかり、雪絵しかり、赤沼しかり。 赤沼の“鶯”には笑えばいいのか泣けばいいのか。 日常の謎とは言え、扱う事件は結構シビア。 「眠る覆面作家」で、千秋が朝美に説いたことや、良介が考えた約束には、「そうだよねぇ」と肯かされました。

 

「覆面作家の愛の歌」 (2006年4月)(Library)

春のお菓子、梅雨入り時のスナップ写真、新年のシェークスピア。 三つの季節の三つの謎を解き明かす、お嬢様探偵・新妻千秋の名推理。 “覆面作家”シリーズ第2弾。

一番印象に残ったのは「覆面作家のお茶の会」。 確かに、いつまでも“それ”を押し通すのは無理だと思うし、早晩ボロが出るに違いないとは思いますが、“彼ら”の取った行動をただ責めることはできないな、と思いました。 もちろん“犯罪”ですし、悪いことは悪いのですが、「もっと他から取るところがあるだろう!」と言いたくなります。 千秋がお金持ちで、本当によかったと思いました。 「覆面作家と溶ける男」では、千秋がじゃがいもをかわいそうと言ったことに感動(?)しました。 「覆面作家の愛の歌」では、最後に千秋が良介に言った言葉にびっくりしました。 「お嬢様がなんということを!」と思いましたが、イ・ムジチの「ブランデンブルグ協奏曲第三番第二楽章」は……なんですねえ。 千秋も人がいいのか悪いのか(笑)。

 

「覆面作家の夢の家」 (2006年4月)(Library)

心霊写真(?)の謎、“目白”の謎、12分の1のドールハウスに込められたダイイング・メッセージの謎。 すべてまとめて天国的な美貌の“覆面作家”新妻千秋が解き明かします。 “覆面作家”シリーズ第3弾にして最終章。

「覆面作家と謎の写真」では、さくらの気持ちがよ〜くわかりました。 もちろん、彼女も今の生活に不満があるわけではないと思いますが、思い出って大事ですよねえ。 捨てられない、忘れられない気持ちはわかります。 「覆面作家、目白を呼ぶ」では、家の新築に関する贈与税の問題など、自分が通ってきた道だけに「そうそう、めんどくさいのよねえ」と頷く場面もありました。 だからと言って、人任せにするのはいけません。 結局、本に書いてあることは基本的なことで、ケースバイケースで税金の掛かり方が違うということを身を以って学びました。 「覆面作家の夢の家」は、人が○なないけれどダイイング・メッセージを解くというのがよかったです。 ちょっとまどろっこしいプ○○ーズだとは思いましたけど。 最後に千秋と良介がああなって、本当によかったと思います。 続きも読みたいです。

 

「空飛ぶ馬」 (2006年4月)(Library)

大学生の<私>は、大学の加茂先生の紹介で、落語家・春桜亭円紫師匠と知り合う。 実は<私>は、追い掛けるほど円紫師匠のファンであった。 加茂先生の夢に出てくる人物・古田織部正重然の謎に関する問い掛けに、円紫師匠の出した答えは…(織部の霊)。 記念すべきデビュー作「空飛ぶ馬」を表題作とする、円紫師匠と<私>シリーズ第1弾。

“日常にひそむささやかだけれど不可思議な謎”と、宮部みゆきさんは書いていらっしゃいますが、私が勝手に連想する“日常の謎”は、こんなに生々しいもの・痛いもの・悪意や毒や棘のあるものではありませんでした。 加納朋子さんの駒子シリーズは、本シリーズに対するオマージュということで、そこから逆算して、もっと爽やかな、すっきりした内容を想像していたので、ちょっとびっくりしています。 「織部の霊」は加茂先生の夢の中に現れるだけだし、「空飛ぶ馬」はハッピーエンドなのでいいのですが、それ以外の3作は、確かに“日常の謎”には違いありませんが、経験したくない謎でした。 特に「赤頭巾」にはびっくりで、あれが真相ならほくろさんが少し気の毒になりました。

 

「夜の蝉」 (2006年4月)(Library)

<私>には美人の姉がいる。 その姉とは、年齢が少し離れているせいもあって、あまり仲がいいとは言えない関係だ。 幼い頃は特に姉が苦手だった<私>だが、姉には姉の言い分があった。 しかし、ある出来事を境に姉は<私>に優しくなった(表題作「夜の蝉」)。 日本推理作家協会賞を受賞した連作短編集。

<私>の姉とその恋人に思いを寄せる娘が鉢合わせた事件で、いわゆる真犯人はその人しかいないと思える状況でしたが、そのやり方にはがっかりしました。 “魔が差した”では済まないと思うし、謝ればいいという問題でもないと思います。 姉と恋人は、そうなってしまうのは当然の成り行きかもしれませんが、もしかしたらそうならずに済んだかもしれないのに。 まあ、あの男は姉にはふさわしくないとも言えますが。 姉が<私>に優しくなった理由は、分かるような気がします。 私には弟しかいませんが、妹か姉がいたら、人生も変わったかなと思います。 それにしても、円紫さんは凄いです。 <私>の話を聞いただけで、事の真相をほぼ見抜くことができるのですから。 「朧夜の底」で、<私>が書店で見かけた光景は、今となっては可愛いものにすら思えます。 悲しいことですが、今だったらそのものを平気で○って行ってしまう輩が多いので。 「六月の花嫁」に登場する謎かけは、「そんなこととっさに思いつくかなあ」というのが正直な感想です。 それは、私がモノを知らないからに過ぎないのですけど、ちょっと綺麗過ぎかな、と。 江美ちゃんには幸せになってほしいです。

 

「紙魚家崩壊 九つの謎」 (2006年4月)

美咲は、健康食品会社で働いている。 就職と同時に東京で一人暮らしを始めた。 同世代の話し相手がいないという不満を感じ始めた頃、コンビニでみかけた雑誌の漫画に、会社の店長そっくりの男性を見つけた。 社内の気に入らない人物の似顔絵を書くうち、美咲にはある変化が……(「溶けていく」)。 90年代の作品を中心に収録した短編集。

う〜ん、微妙……。 「○わなくてよかった」というのが正直な感想です。 私には北村作品を理解する頭がないのかもしれません。 一番印象に残ったのは「おにぎり、ぎりぎり」の中の千春の考え。 話の内容そのものではありませんが、125ページ1〜行目の内容は、そういう光景を見るたび考えてしまいます。 内容で印象に残ったのは「白い朝」と「俺の席」。 前者は綺麗な感じが、後者は(私にとっては)ホラーな感じが、気に入りました。

 

「秋の花」 (2006年4月)(Library)

津田真理子と和泉利恵は親友同士。 幼稚園に入る前から高校生の今まで、ずっと一緒に過ごしてきた。 なのに、文化祭を目前にして真理子は死んでしまった。 立ち直れずにいる利恵を心配して、近所でもあり学校の先輩でもある<私>は謎を解こうとする。 しかし、話を聞いた円紫師匠が導き出した真相は、あまりにも哀しいものだった……。 円紫師匠と<私>シリーズ初の長編。

<私>シリーズの中で今のところ一番好きなのは本作品です。 理由の一つは、円紫師匠が最後のほうまで出てこないから。 こんなことを言うのはナンですけど、私はあまり円紫師匠が好きではないんです。 加納さんの駒子シリーズを先に読んでいるので、どうしても瀬尾さんのポジションを連想してしまって、それが妻子持ちの中年男性というのがなんだかしっくり来なくて。 でも、今回はそういう立場の人だから見えた答えもあって、確かに若造や独身者にはわからないことなのかなあ、と思いました。 私も、若くはありませんが人の親にはなったことがないので、真理子の母親の気持ちは、想像することはできても共感することはできないのかもしれません。 真相は哀しいものでしたが、利恵にはきちんと生きていって欲しいと思いました。

 

「六の宮の姫君」 (2006年4月)(Library)

大学4年生になった<私>。 卒論のテーマは芥川龍之介。 そんな中、加茂先生に紹介された、みさき書房でのアルバイトは田崎信全集の編集作業の補助だった。 文壇の長老・田崎信から、芥川の謎めいた言葉を聞かされ、その謎を解くことに……。 円紫師匠と<私>シリーズ第4弾。

解説で触れられていますが、これは小説というより論文のようです。 少なくとも、私にとっては<私>の卒論として読みました。 私もバリバリの文系人間だし、芥川や菊池など所謂“文豪”たちがかつて交わした書簡や会話を辿る作業など、興味がないわけではありませんが、小説としてはどうだろう、というのが正直な感想です。 芥川の言葉の謎を解く、と言っても、こうであろうという推測はできても、当人に確かめることはできないのだから、それはいくらがんばっても謎を解いたとは言えないと思います。 こういう形でないほうが、すんなり入れたような気がします。

 

「朝霧」 (2006年4月)(Library)

無事大学を卒業し、みさき書房の編集者として社会人としてのスタートを切った<私>。 職場の先輩・天城さんの結婚式で、以前クラシックの演奏会で隣り合わせた男性を見かける。 “縁があるならまた会えるはず”と思ったその人は新郎の友人らしい(表題作「朝霧」)。 円紫師匠と<私>シリーズ第5弾。

収録作「山眠る」「走り来るもの」「朝霧」は、それぞれ“俳句”“リドルストーリー”“暗号”に隠された謎を解こうとするものですが、今回は割とすんなり読めました。 前作で耐性がついたのかもしれません(笑)。 一番印象に残ったのは「朝霧」ですが、忠臣蔵にまったく疎い私は、暗号文すら異国の文字のように思えました。 その謎解きよりも、“レクイエムの君”と、これからどうなるかのほうがとても気になりました。

 

「街の灯」 (2006年5月)(Library)

昭和7年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきたのは、女性運転士・別宮(べつく)みつ子。 令嬢・英子はみつ子にベッキーさんという呼び名をつける。 英子は、ベッキーさんと話をすることで、新聞に載った変死事件の謎を解いたり(「虚栄の市」)、兄・雅吉の友人から送られてくる暗号の謎を解いたり(「銀座八丁」)、映写会の最中に起きた同席者の死を推理する(「街の灯」)。 待望の新シリーズ第1弾。

時代設定が昭和7年ということで、桁外れのお金持ちも厭味や非現実味を感じさせず、読み易かったです。 一番よかったのは「銀座八丁」。 やはり、人が○なないのがいいです。 「虚栄の市」も「屋根裏の散歩者」も読んでいないし、「街の灯」も観ていないことは、特に関係ないと思いますが、読んだり観たりしていたほうがより楽しめたのかもしれません。 シリーズものですが、第2弾よりも先に親本が文庫になってしまったので、続編の刊行も待たれますね。

 

「ひとがた流し」 (2006年11)

テレビ局のアナウンサー・千波、作家の牧子、元編集者で写真家の妻の美々は高校からの幼なじみ。 牧子と美々は離婚・出産を経験し、それぞれさきと玲という一人娘がいる。 一方、独身を通してきた千波は朝のニュース番組のメインキャスターに抜擢されるが……。 「月の砂漠をさばさばと」で小学生だった“さきちゃん”が、高校生になって再登場。

北村さんは、付記で“登場人物の流すものとしては《涙》という言葉も使うまいと思った”とおっしゃっていますが、あえて言わせていただくなら“涙”なくしては読めない物語でした。 玲の“秘密”にしても、千波が背負った“運命”にしても。 こんな言い方は失礼かもしれませんが、特に千波が可哀相でした。 「さあ、これから!」という時になぜあんなことに……。 美々の後押しがあって○○することになったわけですが、それも結局は長くは続かないわけで。 だからこそいい思い出ができたとも言えるかもしれませんが、千波にはやはり○きて感じさせてあげたかったです。 次はさきと玲が子供を産んで……というお話しを読みたいです。

 

「玻璃の天」 (2007年5月)

英子が、友人・百合江から受けた相談の内容は……(「幻の橋」)。 校庭で本を読んでいる綾乃に声をかけた英子は……(「想夫恋」)。 建築家・乾原(かんばら)が設計した末黒野(すぐろの)邸に招待された英子は……(表題作「玻璃の天」)。 学習院に通う令嬢・英子と、その運転手・別宮みつ子が活躍するシリーズ第2弾。

前作「街の灯」からかなり年数が経ってからの第2弾ということで、心待ちにしていた方も多いと思います。 私は去年文庫を読みましたが、内容は結構忘れています……(汗)。 今作で一番印象に残ったのは「幻の橋」。 “真犯人”の気持ちはわかる気がします。 何十年経とうと、忘れられないことはありますよね。 最後に、英子が百合江に言った“橋”に関する話にはほろっとさせられました。 まさしく“幻の橋”ですね。 「玻璃の天」ではベッキーさんの出自が明らかになりますが、なんともやるせない話です。 乾原と末黒野の過去もやるせない。 少なくとも私は、段倉が“ああいう”ことになってもなんとも思いませんでした。 残念なのは、そうした人物の手が○れてしまったこと。 後悔はしていないと思いますが、「あんな奴のために……」と思うと本当に残念です。 まだ続きがありそうな終わり方と言えそうで、英子やベッキーさんの今後の活躍や恋愛話など、期待しています。 個人的には英子の兄・雅吉が気になります。

 

北森鴻 (きたもり・こう)

「孔雀狂想曲」 (2007年7月)(Library)

東京は下北沢の骨董品店・雅蘭堂。 店主の越名集治は、相当な目利きのわりには商売がそれほどうまくなく、そのせいで店はいつも開店休業状態。 ある日、店内で白河夜船を漕いでいると何やら不穏な気配が……(「ベトナム ジッポー・1967」)。 骨董品をめぐる事件を、越名が抜群の観察力と推理力で解き明かす連作短編集。

骨董品店が舞台の日常の謎的な作品かと思って読み始めましたが、最初に収録されている「ベトナム ジッポー・1967」からそうではないと思い知らされました。 女子高生が○○○しようとするシーンから始まるなんて。 まあ、未遂に終わっているのでよかったですが、ちょっとびっくりしました。 その後、その女子高生・安積は押しかけアルバイトとして雅蘭堂にやってきますが、やることなすこと越名の迷惑になることばかり。 そのせいか、最後まで読んでもなぜかあまり好きにはなれませんでした。 根は悪い子ではないと思いますが、いい子でもないんじゃないかな、と。 おじいさんや越名からいろいろなことを学んで、ちゃんとした大人になって欲しいと思います。 一番印象に残ったのは「根付け供養」。 店の客である高沢は、さすが年齢を重ねているだけあって“ちゃんとお見通し”なところがカッコイイです。 今度は、人が○されたりしない程度の謎でお願いしたいです。

 

霧村悠康 (きりむら・はるやす)

「摘出 つくられた癌」 (2006年12)

本木は、癌の研究で有名な国立大学の付属病院で働く研修医。 彼が主治医となっている患者の右乳癌の手術で、左の乳房を切除するというミスが発生した。 執刀医の高木教授は、ミスを隠蔽するために右の乳房も切除し、左にも癌が見つかったということにしてしまった。 病院側の言い分に不審を抱く患者のもとに、ミスを告発する手紙が届くが……。 衝撃の医療サスペンス。

「恐ろしい!」としか言いようのない内容です。 小説というよりはルポルタージュという感じ。 こんな医者が大勢いるとは思いたくありませんが、実際闇に葬られた医療ミスは数え切れないほどあるのが現状かもしれません。 内部告発をした○○の真意は納得も共感もできかねます。 “あんな”理由で患者や病院を混乱させるなんて。 しかも自分が○○したわけでもないのに。 本木には、良心と初心を忘れない医者に成長して欲しいです。

 

「瘢痕 殺意の陰に」 (2007年1月)

霧霞市民病院にやってきた美人内科医・南野友利香。 小児科病棟の美人看護師・神林雪子。 類稀なる美貌を持ちながら絶対にミスを許さない姿勢で医療に臨む二人には、お互いにある秘密があった……。 現役医師が綴る長編医療ミステリー。

前作「摘出」に比べると、かなり読み易くなっています。 しかも断然面白い。 友利香の目的は結構すぐにわかりましたが、雪子が○○の○だという秘密には気付きませんでした。 それにはびっくり。 わかる人にはわかるものかもしれませんが、私にはサプライズでした。 医療ミスは許されないことですが、それを真摯に受け止めて二度と同じ過ちを犯さないようにする、という姿勢は大事だと思います。 隠蔽などもってのほか。 今作では、その点はなんとか及第点をあげられるかな、というところでしょうか。 ラストはうまくまとまり過ぎという気がしないでもないですが、わざわざ悪い人や悲しむ人を作る必要もないかな、ということでこれはこれでいいのかなと思いました。 友利香にも雪子にも、幸せになってもらいたいと思います。

 

「昏睡 かくされた癌」 (2007年1月)

医療ミスにより辞職を余儀なくされたO大学第三外科教授・高木に代わって、助教授・神埼が教授戦に立候補する。 しかし、失敗するはずのない手術の後、患者は急変し死亡した。患者側が執刀医らを告訴するが、医療ミスは認められず、神埼は無事教授に選出される。 一方、半年前に癌を捏造した犯人を神埼だと疑う学部長・松本はそれを証明しようとするが、真の狙いは……。 さらに、O大学を辞職した本木は、別の病院で新たな試練に立ち向かっていた。 「摘出 つくられた癌」の続編。

読めば読むほど病院や医者が信じられなくなりそうです。 一番許せないのは寺下記念総合病院の病院長・寺下。 こんな医者にかかるくらいなら何もしないほうがマシ、と思えるほど。 実際、手術を受けた井上は○んでしまったのですから、そう思うのは当然です。 こんな人間に医師免許を発行する国の体制も間違っているとしか思えません。 高木の最期は自ら選んだもので、本人も幸せなまま○んだと思いますが、神埼の最期はちょっと気の毒だったかも。 神埼が、というよりはその家族が。 本木は苦しみや悲しみを乗り越えて、“普通の医師”になって欲しいです。 続編があるとしたら、サスペンスやミステリーではなくていいから、本木ががんばっている姿を描いて欲しいものです。

 

銀色夏生 (ぎんいろ・なつお)

「詩集エイプリル」 (2008年6月)(Library)

帯に魅かれて購入しました。 「昔はよく銀色さんの詩集を買ったな〜」と思い出しました。 実家に行けばまだとってあると思うんだけど……。 多数収録された詩の中で、特に気に入ったのが「苦い記憶」「言い残したこと」「名前」。 それぞれ、最後の3行、真ん中の1行、最後の4行が特に。 「名前」を読んで思ったのは、歯医者さんで「痛くない、痛くない」と呪文のように心の中で唱えているのは“これ”だ!、ということ(笑)。 確かに、モノでも名前をつけると愛着が湧いて捨てづらくなりますよね。 写真もどれも素敵。 写真集としても鑑賞できます。

 

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