新津きよみ (にいつ・きよみ)

「彼女の命日」 (2007年4月)

楠木葉子は会社からの帰り道、ひったくり犯に刃物で胸を刺されて死亡した。 しかし、1年後、山手線内回りの電車内で妊婦・渕上早苗の中で目を覚ました。 身体を借りている女性の人生を背負いながら、かつ自分を殺した犯人が捕まったのか、家族や恋人はどうしているのかなどを調べていくが……。

1年後は妊婦、2年後は両親が離婚して父方で暮らす女子中学生、3年目は逃亡犯、4年目は眠剤に頼るOLと、情緒が少し不安定な女性の身体に意識が乗り移る形で目を覚ます葉子。 どれだけの無念を残せばこれほどの奇跡を起せるのかと思います。 たまたまそこにいただけで殺される、ということはあり得ない不条理です。 もちろん経験したことはないのでわかりませんが、もしそんなことになったらどんなことをしてでもこの世に戻りたい、残りたいと思うかもしれません。 作品的には、章が進むに連れてちょっと尻すぼみになってしまったかな、という感じはしましたが、特に女子中学生・麻衣に関する出来事はそうなってよかったな、と思いました。 最終的に○○は解決して葉子は○○できたと思いますが、死んでしまったからこそわかる真実ということもあるのですね。 もちろん、生きて実感するに越したことはありませんが、無念のままよりはよかったかなと思います。

 

「ママの友達」 (2007年4月)

中学生の娘・美咲との関係に悩む主婦・典子のもとにある日突然届いた30年振りの交換日記。 それは中学時代、典子・淳子・久美子・明美の4人で回していたものだった。 差出人は淳子かと思われたが、彼女は殺人事件の被害者となっていた。 ノートを送ってきたのは誰……? 女性の人生に起こる様々な事件を描く書下ろし長編。

私と同年代の女性がメインですが、自分と同じ境遇の人物はいませんでした。 なので想像するしかありませんが、一番気の毒だと思ったのは久美子。 45歳で孫がいる、というのは問題ではありませんが、夫・直道が大問題。 こんな人とは1秒も一緒に痛くありません。 久美子は、最後に直道がああなってしまった理由に思い至りそれが真相なら気の毒な気がしないでもありませんが、結局人間の資質の問題だと思うので、やっぱりその程度の男だということです。 直接○○を振るうよりたちが悪いです。 久美子の行動で直道がどうなるか、気になります。 明美の立場もちょっと大変。 子育てよりも実家との関係が問題。 あんな母親もいるんですね。 家族でもウマが合わないというのはわかりますが、あれはどうかと思います。 典子のもとに届いたノートの真相はちょっと拍子抜けの感じもしましたが、そうそう嫌なことばかりではないということがわかってホッとしました。

 

「信じていたのに」 (2007年4月)(Library)

大金を拾ったがために自己破産に向かう羽目に陥った女(「拾ったあとで」)、借りた金を返そうとしても貸主が受け取ろうとせず、時効を目前に苛立つ女(「返しぞびれて」)、民法上は縁を切ったはずなのに亡くなった夫の親族にまとわりつかれる女(「切っても切れない」)など、身近な法律に翻弄される女たちを描いた全7編の短編集。

どれも、いつ自分の身に起こっても不思議ではないリアリティーがあって、ぞっとしました。 一番印象に残ったのは「切っても切れない」。 正直に言えば、それまでの経緯を考えたら事件の真相は「それでいいじゃない」と思うものでしたが、その後が凄い。 自分の生活がかかるとこんなことができるのかと思うと怖いですね。 「のちのちまで」と「間違えられて」は、結果的にはよかったと思います。 そこに辿り着くまでは紆余曲折がありましたが、それを経てこその結果だと思うので、真佐美と春菜にはこれからも自分をしっかり持って生きていって欲しいと思います。

 

「彼女が恐怖をつれてくる」 (2007年4月)(Library)

真一が付き合うことになった雪子は極端に足が冷たい女だった(「戻ってくる女」)。 20年前に小学校の校庭に埋めたタイムカプセルを掘り起こし、中に入っていた手紙を読んだ喜美代は……(「時を止めた女」)。 家に着く直前、誰かとぶつかって気を失った鈴木陽子は目が覚めたとき……(「ぶつかった女」)。 ある場所で中学時代の同級生・和子に出会った友美は……(「口が堅い女」)。 山道で男性客を乗せたタクシー運転手は……(「彼が殺した女」)。 卵料理専門レストランを出展することを夢見ていた里美は……(「卵を愛した女」)。 美容師・雪代の恋人は妻子ある男性・武史だったが、別れ話が持ち出され……(「結ぶ女」)。 実家にいる猫に会いたくないため帰ろうとしていた電車の中で、恵子はある女性に声を掛けられ……(「猫を嫌う女」)。 日常に足をすくわれた女性たちの恐怖の物語。

怖い! どれもこれも怖いです。 一番印象に残ったのは「彼が殺した女」。 タクシー運転手が○○だというのは予想できましたが、なんだか哀しい話しでした。 自分が○んだ(○された)ことに気付かないなんて……。 確かに、あまりにも唐突にあまりにも理不尽に“そんなこと”になったら、私もそうなるかもしれません。 ラスト3行にも驚き。 あんなやつのファンにはなりたくありませんが、真相を知らなければ惹かれてしまうのでしょうか。 「時を止めた女」も凄い。 20年前の執念がそうさせたのならそれはもう怨念と言えるでしょう。 喜代美はどうするのでしょうか。 「結ぶ女」の武史が長髪である必要が最後にわかりますが、そうなったのは自業自得だと思います。 ホラーは苦手なので敬遠していましたが、こういう日常に潜む恐怖モノは意外と好きだということがわかりました。 現実味があって実話としても存在するかもしれないと思うとゾッとしますけど……。

 

「悪女の秘密」 (2007年5月)(Library)

妻子ある男性を愛してしまった早紀子。 「離婚してあげるからふたりだけで旅行しましょう」と、男性の妻・直美に誘われる。 彼女の真意を知ろうとその言葉に従う早紀子だが……(「二人旅」)。 日常に潜む殺意を描く全11編の文庫オリジナル短編集。

うわぁ、やっぱり怖いです。 「頼まれた男」の展開はすごい。 優子が途中から“ああ”なってしまったのもわかるし、康弘が最後に願いを聞いてあげたのも当然だし。 どちらの立場にもなりたくはありませんが、傍観者としては理解できる内容でした。 「二人旅」の直美の気持ちもわかります。 このぐらいしないと気が治まらないでしょう。 といってもその後の展開は確認のしようがありませんが、最高の○○を果たしたと言えるでしょう。 ここでも、どちらの立場にもなりたくはありませんが。 日常にそんなにたくさん恐怖や殺意が潜んでいては暮しにくいですが、いつどんなことが発端でそれらが目覚めるかわからないということは肝に銘じていたほうがよさそうです。

 

「二重生活」 (2007年7月)(Library)

折原一の欄ををご覧ください。

 

「ユアボイス 君の声に恋をして」 (2007年10)

新任の中学美術教師・岡里菜(おか・りな)は、夜のコンビニで思いがけない「声」を耳にした。 それは、2年前に何者かに殺害された、恋人・伸と同じ声だった。 その男子生徒・薫は奇しくも自分が勤める中学校の生徒で、ある特殊な能力があることを知る。 ふたりはその能力を使って伸を殺した犯人を突き止めようとするが……。 ミステリーYA!シリーズ。

「中学の美術教師と男子生徒の○○か!?」と思ったら大間違い、どちらかというと純愛です。 もちろん、里菜の相手は伸ですが。 薫のような能力があったら、純粋に絵画を楽しむということはできなくなってしまうでしょうね。 ○たくないものまで○えてしまうとしたら、それは鑑賞とは言えないと思います。 あそこまでのたがかりを摑めば、本来なら警察が真犯人を突き止めるはずですが、それはできない理由がある。 それもわかります。 真犯人が死刑にでもならない限り、○○は平穏には暮らせないでしょう。 とするとやはり薫の能力を使うしかないのですが、“あんなこと”もできるとはびっくりです。 里菜の執念がそうさせたとも言えるのでしょうか。 最後は、対象読者へのメッセージとも言える内容ですが、確かに今作を読んで将来を考えるきっかけになればいいなと思いました。

 

「わたしはここにいる、と呟く。」 (2007年12)

東京で、ネーミングを専門とする会社で働いている萌子には、母親に捨てられたという哀しい過去があった(「わたしを探して」)。 失せ物を探すことにかけては絶対の自信を持っている聡子だが、ある日結婚指輪が見当たらなくなり……(「時のひずみ」)。 老人ホームで働く恵子のもとへ、入居者・千津子の娘が「母がホームでいじめにあっているのではないか」と言ってきたが……(「忘れはしない」)。 “探す女”というテーマで雑誌「問題小説」に連載されていた全7編の短編集。

新津作品に登場する女性には、なぜか共感させられる、というか感情移入しやすいことがしばしばです。 一番印象に残ったのは「わたしを探して」で、こんな結末はあまりと言えばあまりですが、萌子の気持ちも恵美の気持ちも、ひいては秀子の気持ちも「わかるなあ」という感じです。 この結末を踏まえて、私が萌子だったら○がおかしくなるか○んでいると思うし、恵美だったら同じようにするだろうな、と思いました。 「忘れはしない」の恵子の気持ちもやはり「わかるなあ」と思いました。 ○○○は、された方はいつまでも覚えていますが、した方は覚えていないものなんですよね。 「あれだけのことをしておいて」と恵子が思う気持ちは理解できます。 玲子に対して○○したいという恵子の気持ちも理解できますが、たぶん後味はよくないでしょう。 ○○を果たした後、菜津美がどうなるかを考えれば、思いとどまってくれるのではないかと思います。

 

「女友達」 (2008年9)(Library)

千鶴は、29歳独身、都会に一人暮らしで恋人はなし、満たされない毎日を過ごしていた。 ある日、元カレからもらったチェスとを粗大ゴミに出そうとしたところ、隣のアパートに住む亮子に声をかけられ、そこから付き合いが始まったが……。 長篇書き下ろしサスペンス・ホラー。

怖かったです。 “こういう”ことって普通にありそうで。 どちらの女性に共感するかで見方も変わってくると思いますが、私は「どちらにも共感できないなあ」と思いました。 涼子の気持ちもわからなくはないけど、「そこまで○○にならなくても」と思うし、千鶴の亮子に対する態度や気持ちも「ちょっと○○なんじゃない?」という感じだったので。 意地悪な見方かもしれませんが、最後の頃、千鶴が元カレの吉川に「亮子を“あんな”ふうにしてしまったのは云々」と言ったのは《ええかっこしい》のような気がしてちょっと好きになれませんでした。 「そこまで○○を感じる必要があるのか」と思うし、「そう思うなら最初から気づけよ」とも思うし。 どんな相手でも付き合ってみなければ本質はわからないし、付き合っても完璧に把握することはできないと思いますが、「都会でも田舎でも人との付き合いは難しいなあ」と実感しました。

 

西澤保彦 (にしざわ・やすひこ)

「腕貫探偵、残業中」 (2008年6月)

カフェレストラン〈てあとろ〉に闖入してきた三人組の男たち。 銃を持ち、客たちを人質に取り、店長に「金を出せ」と要求した。 果たして犯人は……?(「体験の後」)。 〈てあとろ〉で人質になったが無事解放されたユリエと真緒は、ヴァレンタイン商戦真っ只中の街中で巨大チョコレートを発見、写真を撮ろうとした瞬間、あることに気づいたユリエは……(「雪のなかの、ひとりとふたり」)。 その他、櫃洗市役所一般苦情係に勤務する“腕貫”探偵が様々な事件を解決する全6編の連作短編集。

前作「腕貫探偵」の続編。 今回は“残業中”でしたが、さらなる続編は“出張中”あたりかな。 期待しています。 内容としては、一般苦情係さんが対処するものとしてはかなりヘヴィなものだと思いました。 ほとんどで人が○んでます……。 一番印象に残ったのは「流血ロミオ」。 真相がすごい。 中学生がこんなことを……、と考えると恐ろしいです。 ○○も気持ち悪い。 気持ち悪いといえば、「夢の通い路」の○○もちょっとどうかと思います。 たとえおはなしでも、こういう内容は読みたくなかったな。 「人生、いろいろ」はちょっと笑える内容でした。 大学生がそんなに簡単に人を○そうとするとは思えませんが、佐和子も珠美も「やるじゃん!」という感じ。 確かに、“人生、いろいろ”ですね(笑)。

 

楡周平 (にれ・しゅうへい)

「陪審法廷」 (2007年5月)

アメリカ・フロリダ州に住む日本人少年・研一は、隣に住む少女・パメラからある相談を受け、その事実に愕然とする。 「パメラを救うのは自分しかいない」と、ある行動に出た研一だが……。 迫真の法廷サスペンス。

研一が犯行の動機は共感できるものでしたが、いささか短絡的というか早計過ぎるかなとも思いました。 それも小説としての計算のうちだと思いますが……。 クレイトンさえ“あんなこと”をしなければ誰も不幸になることなどなかったのに、と思うと残念でなりません。 リサ、パメラ、研一、研一の両親、どの立場に立っても不幸ですが、一番気の毒だと思うのはリサでしょうか。 信じていたものに裏切られるというのはみんな同じですが、内容が内容だけにショックは大きいと思います。 由紀枝の「陪審員の役割は何か」という考えはそのまま作者の考えでもあるのでしょうが、個人的には共感できるものでした。 来る裁判員制度にもそういうことが求められているのでしょうか……。

 

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