貫井徳郎 (ぬくい・とくろう)

「悪党たちは千里を走る」 (2005年9月)(Library)

真面目な性格なのに不運を強いられる人生を嘆き、ドロップアウトした高杉。 せこいカード詐欺すら失敗した舎弟分の園部。とびきりの美女なのに、年齢のせいで職場の男性に様々な嫌がらせを受け、会社を辞めた菜摘子。そんな3人が手を組んで考えたのは、とある金持ちの○を誘拐するということだった。 その企みはうまく行くのか?

ネタバレせずに感想を書くのは難しいので、言えることがあるとすれば「とてもテンポがよく面白い!」ということでしょうか。 続編もあり、と思われるようなエンディングだったので、ちょっと期待しています。

 

「愚行録」 (2006年3月)(Library)

夫は大手不動産会社勤務、妻は優雅な専業主婦。 子供二人に恵まれた家庭で起きた凄惨な一家皆殺し事件。 夫や妻を知る人物から話を聞くうちに浮かび上がる、彼らの愚行とも言える過去の所業。 真犯人は誰なのか。 なぜあんな殺し方をしたのか。 「慟哭」「プリズム」に続く、第三の衝撃。

貫井さん自ら“最悪の読後感を残す話を目指した”とおっしゃる通り、後味は最悪です。 それにしても、「よくここまで書いたな〜」というのも正直な感想です。 夫や妻の過去のエピソードは、実際あり得るような内容で、だからこそよけいに怖いです。 W大やK大の方は、本書を読んでどう思うのでしょうか。 ちなみに貫井さんご本人もW大出身ですよね……。

 

「空白の叫び」(上)(下) (2006年8月)(Library)

自分の容姿や頭脳が凡庸なことを嫌悪している工藤美也(よしや)。 頭脳は明晰、経済的にも容姿にも恵まれているが奢ったところのない葛城拓馬。 父はなく、母に見捨てられ、祖母と叔母と暮している神原尚彦。 彼らが犯行に至った理由とは……。 少年院で出会い、過酷で陰湿な仕打ちを受けながら数ヶ月を過ごし、やがて社会に戻った少年たちは普通の生活を望むもそれは得られず、再び出会う日がやって来る。 少年犯罪を、加害者である少年の視点から描いた新機軸クライム・ノベル。

[具体的に]加害者側からの視点ということで、なかなか感情移入はできませんでした。 3人の中でも、神原の犯行の理由はまだわからなくもありませんでしたが、工藤と葛城には共感は得られませんでした。 確かに、気の毒だと思う部分はありましたが、身勝手な言い分にすぎません。 その人の立場なんてなってみなければわからないし、なってみたところで感じ方は人それぞれなので、理解することは不可能だと思われますが、特に葛城は、親の財力などで他になんとかしようがあったのではと思うと残念です。 一番まともかと思われた神原も、卒院後にどんどん歪んでいってしまい、最後にはあんなことに……。 もちろん、お金のこともあってのことですが、一番には叔母のためを思ってしたことなのにあんな態度を取られては、おかしくもなってしまうでしょう。 145歳の子供には大人の助力が必要なので、周りにいる人間によってどうにでも成長の仕方は変わってしまうのだなあ、と実感しました。 もちろん、同じ立場にいても真っ直ぐ育つ子供もいるので、本人の資質も大事ですが、環境も影響することは否めません。 現在の判断が将来にどう影響するかなんて、考えてもわかるはずはないのですが、「あのときこうしていれば」と思ってしまうのは仕方のないことですね。

[抽象的に]犯罪は許しがたいものですが、少年犯罪となればそれはなおさらのこと。 犯した罪を償うこともせず、更生を目的とした施設で数ヶ月過ごしただけで社会に戻ってくるのだから。 もちろん、罪を償えばいいというものではないと思いますが、裁かれもしないのはやはり納得がいきません。 確かに、少年院は生易しいものではないことはわかりました。 でも、ああいう場所で数ヶ月を過ごしたくらいで更生できるとは思えません。 中には、自分のしたことを後悔し、反省し、まっとうな人間に戻ろうとする少年もいるでしょう。 でも、それを受け入れる社会の基盤は磐石ではありません。 殺人であれ窃盗であれ犯罪は犯罪で、大小はないとも言えますが、社会に与える影響は異なると思います。 少年というだけで法に守られ、氏名や顔写真が公開されないばかりか、裁判すら行われない。 これでは、被害者側が浮かばれません。 犯人が死んでくれればそれで気が済むかと言えばそうではなく、逆に「苦しみながら生き続けるがいい」という思いが募る。 誰だって、人を憎んだり恨んだりしながら生きていて楽しいわけがありません。 そんなふうに遺族を追い詰めることも、また犯罪のうちなのでしょう。 罪を償うとか更生するという以前に、罪を犯さないことが大事なのではないでしょうか。

 

「ミハスの落日」 (2007年2月)(Library)

一面識もない有名財界人・オルガスから面会を求められたジュアン。 戸惑いながらもミハスを訪れたジュアンにオルガスが語り始めた過去とは……(表題作「ミハスの落日」)。 ビデオショップで働くブラクセンは、客のクリスに想いを寄せていた。 しかし、彼女には恋人がいることを知ったブラクセンは……(「ストックホルムの埋み火」)。 保険調査員の“おれ”は、サンフランシスコ市警のスティーヴィィーからとある事故の保険金を早く支払うよう催促されたが……(「サンフランシスコの深い闇」)。 ジャカルタ・コタ地区で娼婦が相次いで殺害されるという事件が起こった。 《ジャカルタの切り裂きジャック》の正体は……(「ジャカルタの黎明」)。 カイロで観光客相手のガイドをしているムフマード。 今回の客はアメリカ人のナンシーだったが、彼女は何か理由ありで……(「カイロの残照」)。 海外を舞台とした全5編の短編集。

「カイロの残照」以外は既読でしたが、何度読んでも楽しめます。 楽しめる、と言っても殺人が起きたり犯人がいたりするのだから、気分的に楽しいというわけではありませんが。 「ミハスの落日」は、ジュアンが○○を明かさなかったのはオルガスという老人に対する優しさが出ていてよかったと思いました。 ○○は全て白日の下に晒されなければいけないものではない、と改めて思いました。 「ストックホルムの埋み火」は、ブラクセンの言い分は勘違いも甚だしいと思いましたが、○○○○ッ○には「やられた!」という感じ。 こういうのは大好きです。 「サンフランシスコの深い闇」は、○○は明らかになりますが真犯人は……という内容で、最後に“おれ”がパーシーに言った言葉はとても難しい問題です。 そもそも悪いのはパーシーの○であって、そうせざるを得ない状況を自ら作っているのだから天罰とも言えると思いますが、それを言ったらおしまいだし、そんなことが何度も続いて欲しいとは思いません。 “おれ”とエイミーのその後も気になります(こちらは楽しい話題)。 「ジャカルタの黎明」の《切り裂きジャック》の言い分も納得や共感はしかねる感じでした。 あんなことをしても何の解決にもならないことは本人もわかっているのでしょうが、そうせざるを得ない状況を作ったのはまたしても○という存在。 そう考えれば真犯人もある意味被害者と言えるでしょう。 「カイロの残照」は、個人的にツボの○○モノ。 なのに○○を果たした人物にあまり共感できなかったのはなぜでしょう。 過去に何があったかを知らず○○される側の現在の生活を見せられていたからかもしれません。 真相を聞かされれば○○されても仕方ないと思いますが、○○を果たした側よりもされた側に気が向いてしまうのは初めてくらいです。 たぶん、やり方がフェアじゃないような気がするからかも。 ○○にフェアもなにもないし、そもそも○○されるようなことをするほうが悪いのだから、同情する必要なないと思いますが、なんだか後味がすっきりしませんでした。 読み方や考え方が少し変わってきているのかもしれません……。

 

「夜想」 (2007年6月)(Library)

自分が運転する車が事故に遭い、目の前で妻と娘をなくした雪籐は、会社勤めに復帰してからもなかなか立ち直れずにいた。 そんな彼の運命は、美少女・遥との出会いによって大きく変わっていく。 新興宗教をテーマに魂の絶望と救いを描く長編。

ネタバレしないように感想を書くのは難しく、何を書いてもネタバレになってしまいそうですが、確かに傑作だと思います。 “読めばわかる!”としか言いようがない、というか。 雪籐のような境遇に立ったら、同じような反応や行動をしてしまうと思います。 愛する家族を目の前で喪ったのに「元気を出せ」と言われてもできるわけがありません。 でも、生きていれば必ず○○はあるのだなあ、と思いました。 遥を中心に雪籐の周りに集まった人々が○○人で本当によかったです。 詳しく書けないのが残念ですが、この作品から学んだことを忘れないようにしたいと思います。

 

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