逢坂剛 (おうさか・ごう)

「相棒に手を出すな」 (2007年5月)

不動産会社社長・福島から愛人の素行調査を依頼された“茶野木”は……(「心変わり」)。 常務に弄ばれた女性秘書から相談を受けた“青柳”は……(「別れ話」)。 「相棒に気をつけろ」の続編で、全6話の短編集。

シリーズ物だということは読んですぐに気がつきましたが、仕方ないので先に続編を読んでしまうことにし、「〜気をつけろ」は後から読むことにしました。 ちょっと失敗。 ル○○と不○○のような二人の掛け合いは結構面白かったです。 骨董屋の女主人・二本柳ツルが登場する「ツルの一声」「ツルの恩返し」が特によかったです。 特に後者。 まあ、山本が○を必要としている理由は気の毒だと思いますが、“ああいう”方法で手にした○が喜ばれるかどうかは甚だ疑問ですが。 ツルさんの粋な計らいには惚れ惚れしますねえ。 それに乗った“青柳”も実は結構いいヤツなのでしょう。 ジリアンは怖そうですが(笑)。

 

大倉崇裕 (おおくら・たかひろ)

「福家警部補の挨拶」 (2006年7月)

冒頭で犯行の一部始終が描かれ、その後名探偵が登場し犯人を追い詰めていくという、倒叙ミステリー。 今作の名探偵役は福家(ふくいえ)警部補。 犯人は、私設図書館の女性館長(「最後の一冊」)、複願術の権威(「オッカムの剃刀」)、中堅の女優(「愛情のシナリオ」)、日本酒醸造会社社長(「月の雫」)。 刑事コロンボや古畑任三郎を髣髴とさせる福家の活躍はいかに。

動機の点で見ると、「オッカムの剃刀」以外は共感できるものがありました。 どれも、“対象物”への愛情が感じられ、もちろん殺人はいけないことですが、「気持ちはわかるかなあ」と思いました。 “シリーズ第一集”となっているので、続編もありそうで楽しみです。 刑事コロンボ見ていないのでわかりませんが、読んでいて、古畑任三郎ばりの映像が浮かぶほど。 ぜひ、映像化して欲しいです。 福家役は深津絵里あたりさんで。

 

「白戸修の事件簿」 (2006年8月)(Library)

どこにでもいる平凡な大学生・白戸修。 しかし、いつしか東京・中野は彼にとって鬼門になっていった。 殺人容疑で警察に追われている友人・八木や学費のためにバイトをしている友人・倉田の代わりに出向いた中野で、いろいろな事件に巻き込まれるからだ。 しかし、“巻き込まれ型”“お人好し”と言われながらも、名探偵振りを発揮するようになる。 ちょっと心が優しくなれる、癒し系ミステリー集。

一番印象に残ったのは「セイフティーゾーン」。 白戸が巻き込まれたのは銀行強盗! 知らぬ間(=トイレを探している間)に人質になってしまっていたわけですが、そこを助けてくれた芹沢と名乗る人物の過去がなんとも言えません。 銀行強盗の4人組の犯行の理由も。 もちろん、犯罪は犯罪で、どんな理由があっても現在の日本では罪を犯したら裁きを受けることになるわけですが、そうせざるを得なかった経緯も顧みる余地はあるのかな、と。 「サインペインター」もよかったです。 何でも屋で、白戸が違法なステ看貼りを手伝う羽目になった日比も、実はいい人。 印刷所のオヤジや苦学生・倉田のために……(涙)。 主人公・白戸修も、筋金入りの“いい人”。 でも、こんな人が身近にいたら、心配でかえって心が休まらないかも(笑)。 がんばれ、白戸修!

 

「警官倶楽部」 (2007年3月)

制服警官がある宗教団体の現金運搬車を襲撃!? しかし、彼らの正体は……。 ノンストップ・エンターテインメント快作。

“こういう”倶楽部は実際にあるのでしょうが、まさか“ここ”までするとは思いませんでした。 仲間を助けたいという動機はわかる気はしますが、結果的には犯○だし。 せっかくの趣味も、悪用してしまったらいけないと思います。 これが実話だったら、という観点では納得できない部分が大部分を占めますが、小説としてはそれなりに楽しめました。 “署長”弥高が丹念に資料を調べてある共通点を探しだしたところとか、取立屋・大葉が実はちょっといい人のような気がするところとか。 たぶんシリーズ化を想定しているか、少なくとも続編はありそうだなと思われるエンディングだったので、今度はもっとすっきりする形で楽しみたいです。

 

「三人目の幽霊」 (2007年6月)(Library)

落語専門誌「季刊落語」は、編集長・牧大路(まき・おおみち)と新入社員・間宮緑がふたりで切り盛りしている。 ある日、寄席・如月亭で仕事のため落語を鑑賞していたところ、鈴の家米治が体に異変を来し高座の途中で幕が下りてしまった。 何事かと楽屋に駆けつけると……(表題作「三人目の幽霊」)。 全5編のデビュー連作短編集。

「面白そう」とは思っていても、普段落語はほとんど聴きません。 せいぜい「笑点」で見るくらい(笑)。 今作を読んで、古典落語を聴いてみたくなりました。 一番印象に残ったのは「不機嫌なソムリエ」。 緑の友人・恭子が登場しますが、彼女の一途な気持ちが微笑ましいというか羨ましいというか。 事件の真相は切ないものがありましたが、ソムリエ・篠崎の気持ちもわかる気はしました。 最後の最後には、ワインよりも大事なものがあることに気づいてくれれば、と思います。 「三鶯荘奇談」も、怖いけどよかったです。 サスペンスホラーといった趣で、緑は酷い目に遭ったと思いますが、正人の優しさや治美の思いが“ああいう”結果をもたらしたのでしょう。 “悪いことはできない”の典型ですね。 続編も、文庫化されたら購読したいと思います。

 

「オチケン!」 (2007年12)

やっと入学した大学で、ひょんなことから廃部寸前の落語研究会(略して落研・オチケン)に入部することになってしまった越智健一。 落語なんてまるで知らないし興味もないので、先輩ふたりの会話にもついていけない。 そんな中、キャンパス内で奇妙な事件が起きて……。 連作中編ミステリー。

理由もわからず落研に入部させられ、授業を受けようとすれば先輩や別のサークルから邪魔が入り、挙げ句の果てには「謎を解くのは君だよぅ」と言われて困り果てる。 越智健一くんはなんて“いい人”なのでしょう(笑)。 でもちゃんと謎を解いてみせるあたり、大物の素質あり、ですね。 ミステリーYA!シリーズにしては、舞台が大学、主役が大学生ということで、年齢設定が少し高めかもしれませんが、個人的にはこのくらいの設定のほうが読みやすいと思いました。 真相としては、「そんな動機でそんなことを……?」と思わなくもありませんが、当人たちにとってはそれこそ死活問題なのでしょう。 大学(というか学校)という空間でこそ起こりうる事件と言えるかもしれません。 「こいつは怪しい!」と思っていた人物は、予想以上に曲者でした。 「天晴れ!」と思うか「嫌なやつ〜」と思うかは好みによると思いますが、私は後者でした。 落研3人の大学生活はこれからも続きますが、無事に進級・卒業できるのか甚だ怪しいものです(笑)。

 

大崎梢 (おおさき・こずえ)

「配達あかずきん 成風堂書店事件メモ」 (2006年5月)(Library)

駅ビルの6階に位置する書店・成風堂。 そこで巻き込まれた事件や謎を解くのは社員の杏子とアルバイトの多絵。 塾講師が近所の老人に頼まれた謎の探求書リストを解読したり(「パンダは囁く」)、コミック「あさきゆめみし」を購入後に失踪した女性を探し出したり(「標野にて 君が袖振る」)、配達したばかりの雑誌に盗撮写真を挟み込んだ犯人を探し出したり(「配達あかずきん」)、入院中に母親が差し入れてくれた本を選んでくれた人にお礼を言いたいという女性に“その人物”を引き合わせたり(「六冊目のメッセージ」)、人気コミックのコンテスト用ディスプレイにいたずらした犯人をつきとめたり(「ディスプレイ・リプレイ」)。 本業(?)意外にも大忙し。 本格書店ミステリー第1弾。

元・書店員(パート)の私は、「そうそう」とか「あったあった」とか頷きながら読みました。 確かに、「そんな無茶な!」ということをおっしゃるお客様はいらっしゃいました。 当時は、ネット検索など利用していなかったので、わからないことは取次さんや版元さんにガンガン電話を掛けて訊いていました。 あの頃は、楽しかったなあ(嫌なこともたくさんあったけど……)。 どの作品も好きですが、謎解きとして一番面白かったのは「パンダは囁く」。 確かに、書店員でなければ、そして○○の“それ”の存在を知らなければ、謎は解けなかったかもしれません。 内容全体がよかったのは「六冊目のメッセージ」。 「そんな綺麗な話なんて」と思わなくもないですが、読んでいて心が温まる内容でした。 「配達あかずきん」もよかったです。 ヒロちゃん、かわいい。 「ディスプレイ・リプレイ」に出てきた、多絵のアロハも見てみたい(笑)。 第2弾、早く読みたいです。

 

「晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)」 (2006年10)(Library)

成風堂店員・杏子の元に、以前成風堂にいて現在は故郷の老舗書店・まるう堂で働いている美保から手紙が届いた。 内容は、“勤務先に幽霊が出て店が存亡の危機に立たされている、名探偵アルバイト・多絵を連れて来て事件の謎を解いて欲しい”というものだった。 果たして二人は事件の謎を解くことが出来るのか? 初の長編推理小説。

前作は連作短編で、今作は長編。 どんな謎かと期待しましたが、ちょっと大き過ぎたかなという感じ。 “書店の謎は、書店人が解かなきゃ”というのはわかりますが、いくら関連事項とは言え27年前の殺人事件の真相をいきなりやってきた女子大生が解き明かしてしまうというのはちょっと出来過ぎでは……。 当時真犯人とされた小松秋郎の過去にはちょっと引きました。 彼がやったことというより、その原因となった事柄について。 そりゃあ逃げ出したくもなりますって。 いくら老舗書店の存亡がかかっているとは言え、過去の血生臭い殺人事件の謎を解くというのは、もう“日常の謎”の範疇じゃないですよね。 最初に出てきたレシートの件のような小さな謎をたくさん解いてくれるほうがいいな、と思いました。 次の短編集に期待します。

 

「サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ」 (2007年5月)(Library)

同じ書籍の取り寄せを注文した4人の客に連絡をしたら……(「取り寄せトラップ」)。 校外学習でやってきた小学生の中に、ちょっと変わった男の子がいて……(「君と語る永遠」)。 バイト・金森が飲み会で語り出した過去とは……(「バイト金森くんの告白」)。 ある悩みを抱えたミステリ作家・影平紀真がサイン会を開く条件として提案したのは……(「サイン会はいかが?」)。 常連客・蔵本が店内に置き忘れたものはいったいどこへ消えたのか……(「ヤギさんの忘れ物」)。 書店限定の名探偵・多絵の推理が冴え渡る書店本格ミステリ第3弾。

一番印象に残ったのは「君と語る永遠」。 子供を持ってくるのはズルイですねえ(笑)。 しかも父親が……とくれば私にとってはウルウル必至です。 「バイト金森くんの告白」もいい感じ。 「学生の頃ってこんな感じだよねえ」と微笑ましくなりました。 がんばれ、金森くん。 シリーズ3作通して思うことは、「書店以外で起こる謎は結構怖いものが多いな」ということ。 人が○んだり幼女○○事件が起きたり○○状が来たり。 ぽや〜っと読んでいると「うわっ!」とびっくりしちゃいます。 今後もシリーズは続くかと思いますが、もう少し穏やかな内容だともっといいのにな、と思いました。

 

「片耳うさぎ」 (2007年8月)(Library)

蔵波奈都(くらなみ・なつ)は小学六年生。 とある事情から、父の実家へ身を寄せている。 でもそこは古くて大きなお屋敷で、奈都はどうしても馴染めない。 しかも不吉な言い伝えがあるという。 弱った奈都が頼ったのは女子中学生・さゆり。 屋敷の謎とはいったい……。 初の、「成風堂書店事件メモ」シリーズ外作品。

うさぎ型のポップに“とっても横溝、でも乙女(ガーリー)!”と書かれていますが、まさしくその通り。 装丁からすると可愛らしい感じなのですが、内容はさすがにミステリー。 しかも横溝的(笑)。 田舎の大きな古い屋敷、親族なのに優しくない人たち、謎の老婆などなど。 着地点が悲惨なものではなかったことが救いでした。 雪子の○○の秘密はわかりやすかったですが、○○○の正体には気付きませんでした。 ○○についてもしかり。 読み終えて「なるほどそういうことですか!」という感じでした。 かつての毒ゼリ事件の真相は、きっと“そういう”ことなのでしょう。 いくらなんでも自分の○○や○○を○すなんて、信じられませんもの。 うさぎがこんなふうに使われるのはちょっと残念ですが、蔵波屋敷へは行ってみたい気がします。

 

「平台がおまちかね」 (2008年7月)(Library)

井辻智紀は明林書房の新人営業部員。 学生時代からアルバイトをしていた会社にそのまま就職したが、編集部には行きたくない理由があった。 それは……。 訪問した書店で他社の営業マンにいじられたり、自社本をたくさん売ってくれた書店の店長には冷たくあしらわれたり、自社主催の文学賞贈呈式当日に受賞者が現れなかったり。 出版社新人営業マン・井辻智紀の波乱万丈な日常を描く新シリーズ第1弾。

井辻くん、いい味出してますねえ。 個人的には佐伯書店の真柴も好きです。 出版社の営業マンというよりホ○トみたいですかど(笑)。 特に印象に残ったのは「絵本の神さま」。 それぞれの事情がわかっていても、できることとできないことがあるんですよね。 お互いが思いあっているのにすれ違ってしまうのは哀しいことですが、何年経っても軌道修正できればそれでよかったのではないでしょうか。 “ノンタン、ババール、ジョージ、ハリー”のうち、私が子供の頃読んだのはジョージとハリーですが、現在図書館にも健在です。 書店にももちろん置いてあるかもしれませんが、図書館には初版が数十年前の絵本も当然所蔵があって、書架整理の最中につい「あ、懐かしいなあ」と手を止めてしまうこともあります。 私も書店勤務時代のうち6年間はコミック担当としてがんばりましたが、地方の哀しさゆえに出版社の営業さんなんて一人しかお会いしたことがありませんでした。 そこのコミックをがんばって売っていたというのもあるし、地元出身の漫画家さんがいたというのもあって、配本は融通していただいた思い出があります。 その頃と今では出版事情も変わっていると思いますが、地方に現物が届きにくいというのは同じようです。 地方でも大都市や大型書店は別なのでしょうが、私が勤務していた書店はそれなりの母体を持っていましたが、あまり力はなく、出版社より取次に頼るのが常でした。 そんなことを思い出しながら読んでいたら、「また書店で働きたいなあ」と思ってしまいました。

 

「天才探偵Sen 公園七不思議」 (2008年7月)(Library)

小学六年の渋井千は、学年一の秀才で、周りからは“天才”と言われている。 そんな千が、幼なじみの香奈や信太郎と共に、さつき町の公園にまつわる七不思議を調べることに。 調査が進むにつれ謎は深まるが、“天才”に解けない謎はない! シリーズ第1弾。

千が壁新聞を作る理由が可愛いです(笑)。 まさしく小学六年の男の子、という感じ。 私は小学生でも男の子でもないので想像するしかありませんが、“こういう”動機はがんばりの素になりますよね。 公園の七不思議の中には「え〜っ!? ずるくない!?」というものもありましたが、まあすべて解決してよかったかな、と。 子供たちだけでは危険だなぁ、と思う場面も多々ありましたが、まあそれは小説ということで。 万希先生の出番がもっとあったらよかったのに。 次の巻ではもっと登場するのかな。 ○○とどうにかなったら面白いのに。 もちろん、児童書の範囲内で(笑)。

 

 

「天才探偵SenAオルゴール屋敷の罠」 (2008年7月)(Library)

天才探偵再び。 誰もいないはずのお屋敷で、真夜中にオルゴールの音が……。 そのお屋敷の敷地内の隣の家に住む転校生・麻美に請われ、謎を解明することになった千と香奈、信太郎たち。 お屋敷に仕掛けられた大きなからくりとは―。 シリーズ第2弾。

前作よりさらにすごい謎に遭遇。 危険です〜。 言い換えれば「オルゴール館の殺人」という感じ。 まあ、児童書なので殺人まではいきませんが。 こんなお屋敷を作ってまで○○したかったのに、麻美の祖母・絹子はそれを待てずに残念でした。 会って話をすればきっと○○できたはずなのに。 トーマスも根は○い人ではないと思うので、これから償いをして欲しいと思いました。 今回も万希先生の出番が少ない……。 次こそは(笑)。

 

「夏のくじら」 (2008年8月)(Library)

東京の進学高校に通っていた篤史は、母方の実家のある高知の大学へ進学することに。 周囲からは「もっといい大学へ行けるのに」とか「一浪してでも東大へ」などと言われていたが、彼が高知へ行ったのにはある目的があった。 いとこの多郎に誘われ、強引によさこい祭りの町内会チームに参加することになった篤史は、いろいろな人間関係に翻弄されながら、その目的を達成しようと奮闘するが……。

個人的にはお祭りには全然興味がなく、観るだけならともかく参加するなんて考えたこともありませんが、今作を読んで、よさこい祭りに少し興味が湧きました。 こういうことに“燃える”人たちを見ているのは楽しいかもしれません。 篤史が高知へ行った理由は、わかる気がします。 祖父母やいとこがいるという安心感も手伝ってのことでしょうけれど、ここまでの情熱があれば目的も達せられると思いました。 無事、真相が突き止められたので(ミステリー要素はここだけ)よかったです。 多郎、月島、三雲、詩織、カジなど、その後が気になる人たちばかりなので、続編もしくは番外編などで再会できればいいなと思いました。

 

小川一水 (おがわ・いっすい)

「こちら、郵政省特別配達課」 (2007年3月)(Library)

深夜に走る専用高速列車、激増薄する高層マンションの住人に一時でも早く配達するための特殊車両などを駆使し、民間の宅配業者に負けないようサービスに努める郵政省特別配達課。 その特配(トッパイ)第九班の班長は桜田美鳥、副班長として召集されたのは八橋鳳一。 上司の課長・和光らとともに、日々の仕事に邁進するが……。 ソノラマ文庫として刊行された「こちら郵政省特配課」及び「追伸・こちら特別配達課」を合本し、改題した作品。

面白い! 適度に現実的であり適度に近未来的であり、「そうだよね〜」と共感したり「そんな馬鹿な!」と笑ったり。 機械と人間、どちらが上かなどと比べること自体が間違っているかもしれませんが、そもそも機械を作るのも活用するのも人間だし、最後の最後には人間の手のほうが必要なのかなと思いました。 もちろん、機械にしかできないことはたくさんあって、人間ができない部分をカバーしてくれるものとして、有効に活用するのがベストなのでしょう。 なので、美鳥や鳳一たちが最終的に辿り着いた答えが、著者の一番言いたかったことなのかな、と思いました。 個人的には、最初は彼らの敵側にいた七条慧が、上司・灘の下で行動しながら考えを変えていく様が一番の見所でした。 慧が灘に向かって発する言葉を読んでいてなぜか泣けてしまいました。 機械と人間は、競争とか比較とかをするのではなく、お互いのいいところを利用し合って、誰のために何をするか・できるか、ということを忘れてはいけないと思いました。 もっと続編があればいいのに。

 

荻原浩 (おぎわら・ひろし)

「押入れのちよ」 (2006年6月)

職を失った恵太は、少しでも安い部屋を借りようと不動産会社を訪ねる。 そこで選んだのは、訳ありだが3万円台の格安物件。 引っ越しの挨拶をしに両隣を訪ねると、片方はオタクな感じの浪人生、もう片方は片言の日本語を話す外人と、先行き不安な様子。 恋人・純子と連絡が取れず不安を覚える恵太に、さらなる不安が……(表題作「押入れのちよ」)。 ぞくりと切ない全9編の短編集。

“切ない”と感じたのは「コール」「押入れのちよ」「しんちゃんの自転車」。 特に「コール」は、自分が岳だったら、雄二だったら、美雪だったら、といろいろ考えながら読みました。 庄司陽子さんの「生徒諸君!」を思い出しました。 「押入れのちよ」は、そういう物件にはできれば住みたくありませんが、ちよなら会ってみたいかも。 「はいなるあんさー」とか言いながら、一緒にカルピスを飲んだりビーフジャーキーを食べたりしたいです(笑)。 「殺意のレシピ」も、オチは読めるけど笑えました。 そう、まさしく“笑える”内容です。

 

「千年樹」 (2007年4月)

ある町に、千年の時を行き続けている一本のくすの巨樹があった。 その木は、過去と現在、時代を超えて交錯するドラマを見続けていた……。

なんか凄い。 としか言いようがない感じでした。 荻原作品は「押入れの千代」と今作しか読んでいませんが、こちらのほうが断然好きです。 連作短編といよりほとんど長編と同じで、ひとつの話だけを読むのではもったいないです。 一番印象に残ったのは「梢の呼ぶ声」。 恋人・博人を待つ啓子は、文句ばかり言って「嫌な女」だと思っていました。 ところが、ラスト数行で「そんな……」と泣きそうになりました。 察しのいい方ならこういうオチは予想できたことかもしれませんが、最初に「嫌な女」と思い込んでしまったばかりにこのオチには思い至りませんでした。 過去の話も哀しいものだったし。 きよはくすの木の下で倒れていたのを助けられてからの50年間は幸せだったのでしょうか。 他に印象に残ったのは「瓶詰の約束」。 これも、ラストの数行にやられた作品です。 それまでの過去と現在のエピソードがあってこその数行ですが、特に最後の一文に泣けました。 さらに「バァバの石段」。 これは、唯一のハッピーエンドと言っていいのではないでしょうか。 バァバは○んでしまいますが、“中島さん”がいい人でよかったです。 一番恐ろしかったのは「郭公の巣」。 ほのぼのとした家族モノかと思いきや……。 過去のエピソードも恐ろしいものでしたが、それを現代で、となるとさらに恐ろしさも増しますね。 「千年樹」という作品自体の終わり方も凄い。 時代は回る、ということですね。

 

奥田英朗 (おくだ・ひでお)

「家日和」 (2007年6月)

ネットオークションにはまる専業主婦(「サニーデイ」)、会社が倒産したため“主夫”になった元・営業マン(「ここが青山」)、妻が出て行った部屋を思い通りに変えていくアパレル会社の営業マン(「家においでよ」)、在宅で内職をしている主婦(グレープフルーツ・モンスター))、夫が転職する度に驚かされるイラストレーターの主婦(「夫とカーテン」)、ロハスに凝る妻に辟易している小説家(「妻と玄米御飯」)。 夫と妻の心の機微を軽妙に描き出す、ビター&スイートな“在宅”小説。

初の奥田作品ですが、ちょっと微妙……。 少なくとも「グレープフルーツ・モンスター」は何が言いたいのかわかりませんでした。 作品がどうこうということではなく単に好みの問題で、私がこういう内容が好きではないというだけのことですが。 逆によかったのは「ここが青山」。 もちろん、出産など女性にしかできないことはありますが、それ以外ならたいていのことは男女どちらがやっても特に問題はないと思います。 主夫も主婦も立派な仕事です。 「家においでよ」の栄一が羨ましいと思う男性は大勢いると思います。 大人だって自分の部屋が欲しいのは当然ですよね。 それができるかどうか、できないなら少しでも理想に近づけられるかどうかが問題です。

 

乙一 (おついち)

「銃とチョコレート」 (2006年6月)(Library)

リンツ少年の住む国では、富豪の家から宝石や金貨を盗む<怪盗ゴディバ>が暗躍し、その怪盗に挑戦する<探偵ロイズ>は子供たちのヒーローだ。 ある日、父からもらった聖書の中に古びた手書きの地図を見つけたリンツは、それがゴディバの宝の在り処を示すものだと確信し、ロイズに手紙を送る。 リンツのもとへロイズや助手のブラウニーがやってくるが……。

乙一さんらしいという気がしますが、あまり後味はよくありませんでした。 「○○○が、実はそんな人間だったなんて!」という感じ。 ドゥバイヨルが思ったよりいい奴だったとも言えますが、暴力はよくありません。 ディーンとデルーカも、もっとリンツを信じて欲しかったです。 何よりひどいのは、○○が○○を裏切ること。 幸い、祖父や母がちゃんとした大人だったので、リンツは幸運だったと思います。 ゴディバの正体はなんとなく想像できましたが、まさか○○だったとは思いませんでした。 それにしても、リンツ? ロイズ? デメル? メリー? ゴディバ? チョコレートが食べたいです!

 

「失われる物語」 (2006年7月)(Library)

妻と喧嘩をした翌日、“自分”は交通事故に遭った。 しかし、身体を動かすことはおろか、聞くことも見ることも話すこともできなくなっていた。 唯一感覚があるのは右腕の肘から先の部分のみ。 かろうじて動く人差し指だけで、妻と対話を続ける年月が過ぎ……(表題作「失われる物語」)。

「失われる物語」の初出は「さみしさの周波数」(角川スニーカー文庫)ですが、そのときのタイトルは「失われた物語」でした。 それにしても、「よくこんな哀しくて残酷な話が書けるなあ」と思うほど、あんまりと言えばあんまりな内容です。 批判ではなく、感心しているのですが。 “自分”の立場だったら、妻の立場だったら、と考えようとしても恐くて考えられないほどの哀しさです。 どちらも同じくらい哀しいと思います。 当然ですが、どちらの立場にもなりたくないと思いました。 「Calling You」は、乙一作品の中で一番好きな作品ですが、「きみにしか聞こえない CALLING YOU」(角川スニーカー文庫)収録作品に修正を加えてありました。 ちょっとした言い回しが変わっている程度ですが、先に読んだほうをかなり気に入っていたので、ちょっと違和感を覚えました。

 

「The Book jojos bizarre adventure 4th another day (2008年2月)(Library)

ある冬の日、康一と漫画家・岸辺露伴は、道端で全身が血で汚れた猫を見かけた。 それは、解決まで3ヶ月もかかる事件の幕開けに過ぎなかった……。 コミック「ジョジョの奇妙な冒険」第4部を、世界設定をそのままにオリジナルストーリーでノベライズ。

コミックは全くの未読なので、どの人物がオリジナルキャラクターなのかすらわかりませんでしたが、その必要はなかったと思います。 乙一ファンとして読みましたが、乙一ワールド全開という感じでとても引き込まれました。 作品としては楽しめましたが、現実問題として“こんなこと”が起こっていたら、と思うとわなわな震えるほどでした。 個人的には琢馬の味方でした。 照彦や花恵は○○されても仕方のないことをしたと思います。 明里を“あんな”目に遭わせておいて、自分たちはのうのうと暮らしているなんて信じられません。 私が琢馬でも○○したと思います。 ただ、千帆は可哀相でした。 「そこまでしなくても……」と思うのは、しょせん他人事だからでしょうか。 オリジナルキャラクターは全員、舞台である杜王町からいなくなっていますが、琢馬が“ああいう”形で町を去っていったのが残念です。 ちょっと疑問に思ったのは、康一や億泰、仗助が琢馬の○○を斟酌しなかった点です。 もちろん、犯罪を見過ごすことはできないかもしれませんが、「なぜそうせざるを得なかったか」という点も大事なのではないかと思いました。 まあ、原作を読んでいると感じ方や考え方が違うのかもしれませんね。 個人的には、このストーリーで漫画を読みたいです。

 

御堂彰彦 (おどう・あきひこ)

“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店」 (2007年8月)

年代物の骨董品や美術品ではなく、幸運を呼ぶ石や未来の姿が映る鏡など不思議な力が宿った器物を指す“アンティーク”。 付喪堂骨董店〜FAKE〜で取り扱っているのは、名前の通りそれらの偽物。 買い付けなどであまり店にいない店主・摂津都和子(せっつ・とわこ)、黒づくめの小柄なアルバイト・舞野咲(まいの・さき)。 同じくバイトの来栖刻也(くるす・ときや)はこのふたりに振り回されながら、さらには“アンティーク”を手にしてしまった人たちとも関わり、謎を解明していくが……。 全4章からなる短編集。

どの章もそれなりに感じるものがありましたが、一番印象に残ったと言えば第2章「像」。 どんな病も治すという逸話のある像は、一方で触れると不治の病に罹るとも言われている、その真相は……、という内容ですが、過去の話が哀し過ぎます。 よくある昔話や言い伝えのようなものではありますが、世話になっている間は大事にするがそうでなくなったら恩も忘れて……というのはなんだか嫌な感じです。 自分が当事者でないから言えることかもしれませんが、樹庵も“わたし”もさぞかし哀しかったことでしょう。 第3章「記憶と記録」も哀しい内容でした。 やはり、悪いことをしているという自覚があると、何もかもが疑わしく思えるものなのでしょうか。 真意を読み取れなかったばかりか、“あんなこと”をしようとするなんて。 ○んでしまう羽目に陥ったのは自業自得です。

 

“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店2」 (2007年8月)(Library)

映した空間に完全な静寂をもたらす“鏡”(第1章「静寂」)、人形に被せて使用者の姿形や能力、性格とまったく同じコピーを作る“仮面”(第2章「自分」)、相手の目が見たものを覗き見ることができる“眼鏡”(第3章「死目」)、指定した時間の経過後の姿を写し取る“カメラ”(第4章「化粧」)。 刻也たち付喪堂骨董店の面々がそれらを手にした人々と関わり……。 シリーズ第2弾。

一番印象に残ったのは第1章。 有名な作曲家・門倉栄治と、その家で働く芽衣。 “アンティーク”の鏡を手に入れた門倉は、代わりに……という内容ですが、ラストが切ない。 “そう”ならなければわからないことはありますが、結局“そう”なってから気付いても後の祭りなんですよね。 もちろん、気付かないよりはマシですが、なぜもっと早く、と思うと残念でなりません。 第2章もよかったです。 「騙された!」という感じ。 結果的には丸く収まった、という感じでしょうか。 刻也と咲の関係も、少しずつ進展しているようで、微笑ましいです。 青春、ですねえ。

 

“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店3」 (2007年10)(Library)

中に入れたものをそのままの状態で保存し、指定した時間まで姿を隠す“箱”(第1章「箱」)、十センチ四方の透明なケースに入れられた、糸の絡まった“螺子”(第2章「人形」)、夢の中が思いどおりになるという“香炉”(第3章「夢」)、その香炉の、思わぬ副作用を持つ“灰”(第4章「眠り姫」)。 またしても、付喪堂の面々がいろいろな“アンティーク”に遭遇します。 シリーズ第3弾。

シリーズの中で一番“いい”と思います。 私自信が読み慣れてきたというのもあると思いますが、内容が格段によくなったと印象があります。 もちろん、前2作もよかったですが、今回はとにかく泣けました。 第4章は、お約束(?)の咲と刻也の“すれ違い”シリーズなのでどちらかというとコメディタッチですが、それ以外はどれも泣ける内容でした。 特に印象に残ったのは第3章「夢」。 確かに、麻耶の立場になったら“ああ”なってしまうのも無理はないと思います。 若いからこそ、思いつめてしまうというか。 何に一番驚いたかというと、そのエンディング。 普通なら“こういう”終わり方はしないと思いますが、あえて“こちら”を選んだというのはすごいなあと思いました。 本当の夢なら、志賀が麻耶の○を○まさせるのでしょうが、この夢は麻耶が望んだものなのでそうはならない。 このままずっと○ったままでいいのかどうかは疑問ですが、そうしたいと願った麻耶の気持ちはわかる気がします。

 

“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店4」 (2008年7月)(Library)

存在を薄めたり強めたりする粉の入った“小瓶”(第1章「影」)、相手の○を読める“○○○”(第2章「ギャンブル」)、運命の赤い糸が見える“指輪”(第3章「小指」)。 またしても付喪堂の面々がいろいろな“アンティーク”に遭遇するシリーズ第4弾。

特に印象に残ったのは第1章「影」。 まんまと○されました〜。 “こういう”技で来るとは思っていませんでした。 私もまだまだ甘いですね(笑)。 内容は哀しいもので、“ああいう”結末になるとは残念でした。 別の解決方法もあったと思いますが、それは自分の脳内で楽しむとして、これはこれでよかったと思います。 佐奈が哀しい思いをしないでくれれば、と願います。 第4章「秘密」もよかったです。 お約束のすれ違いモノですが、刻也が“○○○”を、咲が“指輪”を利用してお互いの気持ちを確かめようとするが……、という内容で、ますます二人の関係が近くなっていくのが可愛らしいです。 次はもっと進展があるかも? どんな“アンティーク”が登場するかも楽しみですが、こちらもとても気になります。

 

折原一 (おりはら・いち)

「タイムカプセル」 (2007年5月)

茨城県と接する、埼玉県北東部の栗橋市。 そこで中学時代を過ごした有志数人が卒業記念に校庭にタイムカプセルを埋めた。 それから10年後、タイムカプセルを開くセレモニーの通知はメンバーのもとに次々と届くが……。 巧みなストーリーテリングと皮膚感覚の恐怖で魅了する異色の物語。

折原作品には興味を持ちつつも「被告A」しか読んでいませんが、今作には期待していました。 読み始めてすぐに驚いたのは、ミステリーYA!シリーズなのに登場人物が25歳だということ。 タイムカプセルを埋めたのは中学卒業時だし、“事件”が起きたのもその時なのでジュブナイルとして読めなくもありませんが、実際その世代の子供たちが読んでどうなのかちょっと疑問でした。 メンバーのもとに通知が届いてから起こる様々な事件は、恐怖感を煽るし何かが忍び寄っている感じもしましたが、話が進むに連れて何か物足りない感じに……。 まあ、ジュブナイルという制限を受けてこうなってしまったのかもしれませんが。 最後は○○○○エンドで終わっているのでそれはよかったと思います。

 

「二重生活」 (2007年7月)(Library)

私を裏切った男と侮辱した女。 自分の”夫“だと思っていた男には、実は妻と子がいた。 復讐するためにはこうするしかない―。 重婚をテーマに男女の息詰まる駆け引きをスリリングに描く多重心理ミステリー。 折原一・新津きよみ、おしどり夫婦作家の初の合作。

折原さんと言えば○○トリック、ということで、気をつけて読んでいたつもりでしたが、最後まで真相には気づきませんでした。 読み終えてみれば、ありがちな手法(失礼!)とも言えますが、それはすべてわかってからそう思うのであって、読んでいる途中では思い至らないんですよねえ。 読み慣れている方なら、どういうトリックが仕込まれているか想像がつくのかもしれませんが、私には無理でした。 内容としては、結局事件の原因を作ったのは○○だということで、あまり同情はできませんでした。 その○○である○○は気の毒だとは思いますが、○○○としてまっとうな人生を歩んで欲しいと思います。 真犯人である○○も、実は被害者と言えると思います。 まあ、自業自得とも言えますが。 でも、新たな罪を犯すことなく、本来の自分の仕事がなんなのかをよく思い出して、これからの人生をやり直して欲しいと思いました。

 

「疑惑」 (2007年8月)

電話を掛けてきた男は「俺だよ、俺」と言った。 房枝はつい息子の名前を言ってしまったが……(「偶然」)。 近所で頻発する放火の犯人は引きこもりの息子かもしれないと案じた浩子は……(表題作「疑惑」)。 わたしは新宿駅から“ムーンライトえちご”に乗ったが、それにはある理由があって……(「危険な乗客」)。 義理の父親を殺そうと思った博之は、ある計画を立てるが……(「交換殺人計画」)。 家の傷みや隣家とのトラブルに頭を悩ませていた津村のもとへリフォーム業者がやってきて……(「津村泰造の優雅な生活」)。 様々な犯罪をテーマにした短編集。

「偶然」では、「こういう真相だろう」と考えていたことが見事にハズレました。 実はマサオは○されているのでは、と思ったのですが……。 まさかこういうオチだとは! 確かに“偶然”です。 「疑惑」では、「今度こそは騙されないぞ」と思って読んで甲斐もあって真犯人を見破ることはできました。 「それ以外にない」という真相だったので、自慢にはなりませんが(笑)。 「津村泰造の優雅な生活」のエンディングは、ちょっと怖いものがありました。 リフォーム詐欺に対してはあれでよかったと思いますが、振り込め詐欺に関しては……。 こういうことがあるとすると、詐欺だと見極めることが本当に重要になりますね。

 

「黒い森」 (2007年11)

「ミステリー・ツアーの目的地で待っている」。 同じ内容のメールを、樹里と留美夫はそれぞれ受け取った。 会うことを禁じられていた二人は、お互いからの連絡だと信じ怪しげなツアーに参加する。 目的地は樹海の奥にある山荘で、かつてそこに住む作家が家族を惨殺した場所だった。 二人は無事出会えるのか。 表からも裏からも読め、真ん中には解決編が記されているという仕掛けに満ちた書き下ろしのサスペンス・ミステリー。

表からは「黒い森 生存者」として樹里の視点から、裏からは「黒い森 殺人者」として留美夫の視点から書かれており、真ん中の「解決編 206号室」(袋とじ)で真相が明かされるという、仕掛けに満ちた作品でした。 こういう手法で書かれた作品を読むのは(たぶん)初めてだったので少し戸惑いましたが、内容を照らし合わせるように読んでいきました。 「生存者」を先に読んでから「殺人者」を読むように薦められていますが、私の場合は「逆でもよかったかも」と思いました。 ちゃんと読んでいないわけではないつもりですが、「殺人者」を読みながら「生存者」をめくり直してばかりいました(苦笑)。 内容としては、解決編を読んでちょっと気が抜けたというのが正直な感想です。 個人的には、二人がツアーに参加することになった真相がちょっと……だったので。 というか、樹里と留美夫は思慮が足りなさ過ぎです! まあ、参加しなければ物語が成立しないので仕方ありませんが。 合言葉の意味はわかりました。 確かに、“おだやか”ではありませんでしたね。 願わくば、“そんなこと”をしないで済むように違う方向でがんばって欲しいと思いました。

 

「クラスルーム」 (2008年8)

10年前、栗橋北中学3年B組を卒業した男女7人のもとに、クラス会の通知が届く。 幹事の名前に聞き覚えがなく、場所が廃校になった校舎、時間が夜9時という案内に不安を掻き立てられる彼らだが、連絡を取り合い参加することで合意する。 果たしてそこで待っているのは……。 「タイムカプセル」姉妹編。

ずるい〜。 折原作品なので、「“そう”なのかな」と注意して読んでいたつもりでしたが、幹事が“そういう”人物だったなんて。 わかりませんよ〜。 と思ったのは私だけで、ちゃんと読めば導き出される答えだったのかな。 彼ら7人が“ああ”しようと思った気持ちもわかる気はします。 あんな○○がいたら、受験も学校生活もうまく行くはずがないと思います。 やり方は間違っていたかもしれませんが、一方的に責められることではないような気がします。 ただ、やはり子供のすることで、そこからとんでもないことが起こってしまったことに気づかなかったのは悔やまれます。 少し歯車が狂っただけで、まったく別の結果が生まれることは少し考えればわかることですが、ああいう状況の中では仕方なかったのかもしれません。 ただ、○○者にとってはそれでは済まされない問題だったのですが。 だからこそ10年経って“こんな”ことが起こってしまったわけだし。 教訓としては、“自分の行動には責任を持て”ということでしょうか。

 

折原みと (おりはら・みと)

「制服のころ、君に恋した。」 (2007年2月)

海の見える鎌倉の高校に養護教諭として赴任してきた28歳の奈帆は、この高校の出身で10年前に哀しい出来事を経験していた。 ある日保健室に現れた少年は、昔の恋人・シンタに瓜二つだった。 いったいどういうこと? 戸惑う奈帆に奇跡が起こる。 過去と現在が交差する青春ラブストーリー。

「これぞ青春!」という内容で、いいトシをして途中で泣いてしまいました。 基本的には奇跡は信じないほうですが(運命は信じます)、“こういう”奇跡ならあってもいいかも。 いえ、恋人が○んだりすることがいいということではありませんが、哀しくもそういう結果になってしまったのなら、“こういう”ふうに再び出会えることはせめてもの救いなのではないでしょうか。 恋人の○を乗り越える、なんて簡単にできることではないし、できれば経験したくないことです。 でも、奈帆には咲ちゃんや草平先生がついているのできっと大丈夫。 それに、過去の真相もわかったのだし。 忘れる必要はないと思います。 思い出は大事に胸にしまって、新たな道を歩いていけばいいと思います。

 

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