斉藤ゆうすけ (さいとう・ゆうすけ)

「三者三葉 葉子様の夏休み」 (2007年7月)(Library)

葉子様こと西川葉子は、元はお金持ちのお嬢様であるにも関わらず、お父様の事業の失敗に伴い現在は慎ましい一人暮らしを送る身。 ある日、ウインナーの詰め放題会場でお母様を知っているという老婦人と出会い、夏休みにお母様が若き日を過ごした山村へ友人たちと旅行へ行くことに。 その旅行には、ある目的が秘められていたのだが……。 コミック「三者三葉」を元に描く、オリジナルストーリー。

「三者三葉」は「三者三様」の間違いではなく、“葉”で正しいのです。 なぜなら、西川子・小田切双山照の三人がメインキャラクターだから。 こんな注釈は、コミックを読んでいる方は当然知っているし、読んでいない方はノベルスのほうも読まないと思うので必要ないことかもしれませんが。 今作は、原作には登場したことのない、葉子様のお母様の過去のエピソードが描かれています。 山村の学校でお母様が発した言葉を、そのまま葉子様も級友に投げつけたというのが笑えます。 やっぱり、お嬢様はお嬢様なんですね。 どんなに貧乏でも、葉子様には双葉や照という素晴らしい(?)友達がいる、という事実は、何者のも換えがたい宝物だと思います。 次のノベライズがあるとすれば、葉子様のお父様のエピソードをお願いしたいです。 どんな破天荒な人生を歩んできたのか、楽しみです(笑)。

 

坂木司 (さかき・つかさ)

「シンデレラ・ティース」 (2006年10)(Library)

大学生・サキは、子供の頃の経験から大の歯医者嫌い。 しかし、母の策略にまんまとはまり、叔父の勤務する歯科医院で受付のアルバイトをすることに。 断る間もなく流されるようにしてアルバイトを始めたサキだが、魅力的なスタッフにいつしか心を開いていく。 患者たちの態度から謎を見つけ出したサキは、それを解きながら人間として成長していく。 青春小説ミステリー風。

歯科治療をあることの言い訳にしていた裕美(「シンデレラ・ティース」)、自分にはある欠陥がると思い込んでいた本庄(「ファントムVS.ファントム」)、ある障害を抱えていることを認めたくない小金井(「オランダ人のお買い物」)、院長の孫で、ある過去を持つ知花(「遊園地のお姫様」)、なぜか予約の時間にいつも遅れてくる長沼(「フレッチャーさんからの伝言」)。 これらの人々の悩みを解決したり応援したりしながら、サキ自身も成長していく姿が描かれています。  どれも素敵な内容でしたが、特に印象に残ったのは「遊園地のお姫様」。 知花にあんな過去があったなんて。 これからもまっすぐに成長して欲しいと思いました。 「フレッチャーさんからの伝言」も良かったです。 アルバイト最後の日、一緒に治療を受けるサキが長沼に言った言葉には涙が出ました。 歯科技工士・四谷とサキの恋愛小説の要素もあって、心からホッとする内容でした。 二人の今後も気になるし、サキの友人・ヒロちゃんの話も楽しみです。

 

「ワーキング・ホリデー」 (2007年7月)(Library)

ある夏の日、ホストクラブで働く元ヤンのホスト・ヤマト(本名・沖田大和)のもとに、突然息子だと名乗る小学五年生・進がやってきた。 二人はしばらく一緒に暮らすことになるが、ある事情から、ヤマトはホストクラブを辞め、通称ハチさん便と呼ばれるハニービー・エクスプレスという宅配便会社で働くことになるが……。 正義感に溢れ喧嘩っ早くて義理人情に篤い大和と、家事に長けていて口うるさい小姑のような進。 仕事や仲間を通して、二人は絆を深めていくが、進の夏休みも終わりに近づいて……。 爽やかで心地よい、全5編の連作短編集。

泣けた! 本当に泣けました。 まず1話目で、ヤマトがじゅりという客に説教するところから泣けました。 確かに、「ホストがそれを言っちゃおしまいだろう」という内容ですが、人としては当たり前の言葉です。 じゅりにもヤマトの気持ちが通じるといいのですが。 ホストクラブのオーナー・ジャスミン(不動産会社のお坊ちゃま・大柄なおかま)の取った態度は店にとってもヤマトにとってもドンピシャ(死後?)でまさに一石二鳥の素晴らしい結末。 伊達に夜の街でおかまをやっていませんね(笑)。 ナンバーワンホスト・雪夜(ゆきや)や、店の常連客・ナナ、ハチさん便のボスやその他の人々、登場人物がみんないい人でホッとします。 悪意なんてこれっぽっちも存在しない、あり得ないけどそうであって欲しい世界。 坂木ワールドは私にとって理想郷であると同時に避難場所でもあるかもしれません。 ミステリーと言える内容は第4話「代金引換」くらいですが、こういう内容でぜひ続編も読みたいです。 「切れない糸」の新井クリーニング店が、近所らしいこともこれからの展開に期待を持たせますね。

 

「ホテルジューシー」 (2007年10)(Library)

大家族の長女として長年家事をがんばってきた柿生浩美(通称ヒロちゃん)は、大学2年の夏休みを自分のために過ごせることになった。 とはいえ慣れない自由にかえって戸惑ってしまうが、親友・サキと旅行をするための旅費を得るためバイトに励むことにした。 浩美が選んだバイト先は沖縄のプチホテル。 しかし、とんでもない出来事が待っていた!

浩美の“もったいない病”はわかる気がします。 私もまず「あれをしながらこれをすれば時間の無駄にならないよね」と考えてしまいます。 私の場合は、簡単に言えばケチなのかもしれませんが(笑)。 と言いつつ、本を読むだけの贅沢な時間も享受していますが。 「シンデレラ・ティース」には少ししか登場しなかったヒロちゃんがメインの本作も連作短編ですが、少しずつ成長していく様子が微笑ましいです。 残念ながらサキのようなロ○○スはありませんでしたが、ホテルジューシーの従業員さんたちはみんないい人で、宿泊客や地元で知り合った人たちとの交流を経て、明らかに浩美は大人になりました。 家事を切り盛りすることも成長過程には大事ですが、家の外でしかできない経験もあるので、それができたこの夏休みは彼女にとって有意義だったはずです。 一番印象に残ったのは2話目の「越境者」。 アヤもユリも、事情を知ってみれば悪い子たちではなかったのでホッとしました。 意外と言ってはなんですが、外見だけで人を判断してはいけないのだな、と改めて思いました。 6話目の「≠(同じじゃない)」でもそうでしたが、“見えることだけが真実ではない”ということを肝に銘じていないと、とんだ失敗をやらかしそうです。 正しいか正しくないかは人それぞれの判断によるものなので、自分だけの基準でものを考えてはいけないということですね。 もちろん、法律に違反することなどは別ですが。 浩美が成長したように、私自身も少しは成長できたかもしれません(年齢の問題ではなく、精神的に、という意味で)。

 

「先生と僕」 (2007年12)(Library)

大学入学のために地方から上京してきた伊藤双葉が、入学して初めてできた友人・山田順次に無理矢理入部をさせられたのは推理小説研究会。 怖いものが苦手の双葉は、推理小説も苦手なのだが、とある公園で渡された文庫を読んでいると、一人の少年・瀬川隼人に声を掛けられた。 それは、「僕の家庭教師になって」という内容だったが、果たして彼の真意は……? (こわがりな大学生+ミステリー大好き少年)×謎=名探偵! 全5編の連作短編集。

双葉の気持ち、よ〜くわかります! 私も怖いものは苦手です。 ミステリーは読みますが、猟奇的な描写などはこっそり読み飛ばしています……。 何より○の方向へ想像が働いてしまうのが同じです。 私もエレベーターには極力乗りません(笑)。 隼人が双葉に目をつけたのは極めていい選択でした。 坂木作品の中でもピカイチのコンビかもしれません。 ただ、出てくる犯罪は軽微なわりには悪質で、特に第1話「先生と僕」で取り上げられた犯罪は元○○員としてはムカつく限りです。 鳥井×坂木のように、続編も期待できそうなので楽しみです。

 

朔立木 (さく・たつき)

「死亡推定時刻」 (2006年10)

山梨県で、地元の有力者・渡辺恒蔵の一人娘・美加が誘拐された。 警察の指示に従った結果、身代金受け渡しに失敗、美加は遺体となって発見された。 県警は遺留品についていた指紋から、地元の青年・小林昭二を逮捕する。 財布から金を盗んだものの、誘拐・殺人はやっていないという小林を、執拗に攻め立て自白を強要する刑事・平井。 小林の有罪は確定してしまうのか? 冤罪を確信した弁護士・川井倫明は、冤罪を証明できるのか?

第1部は、事件発生から真犯人(と思われる人物)の逮捕・取り調べ・判決が、第2部は、国選弁護士が調書から冤罪に気付き、それを証明するところが描かれていますが、第1部は特に読んでいて気分が悪かったです。 冤罪が作られる見本のような取り調べで、警察がこんなことをしているとは信じたく内容でした。 もちろん平井も、悪気があってやっているわけではないと思いますが、こんなやり方はあんまりです。 鑑識官・沖田にもがっかりしました。 確かに、組織に属している以上守らなければならないこともあるとは思いますが、良心があったら裁判であんなことはできないはずです。 それまでにしてしまったことは仕方ないとしても、裁判の時には人間としての良心を取り戻してほしかったです。 第2部で、川井が調書の矛盾点や疑問点を書き出していますが、こんな調書で判決が出せるのかというほどお粗末な内容で、そんな警察官がいるとはとても思いたくありません。 読者は、冤罪であることは最初から分かっていますが、真犯人は分かりません。 川井がどこまでやってくれるのか期待していたのですが、結局……。 ちょっと、というより全然すっきりしないエンディングでした。 続編というか後日談というか、川井・小林・渡辺・平井・沖田、その他事件に関わった人々のその後をぜひ書いて欲しいと思いました。

 

佐々木譲 (ささき・じょう)

「制服捜査」 (2006年4)

警察官になって25年、北海道警察の不祥事をめぐる人事異動のため、強行犯係の捜査員から単身赴任の駐在勤務となった巡査部長・川久保篤。 ところが、赴任先の“犯罪発生率管内最低”の健全なはずの田舎町には、ある秘密があった……。 北海道・志茂別駐在所を舞台にした、連作短編集。

“キャリアも所轄も、現場のことなど分かっちゃいない―これが本物の警察小説だ!”という帯の惹句は凄いです。 駐在所の警察官の方々がこれほど大変な任務を負っているとは知りませんでした。 まさしく地域密着の見本のよう。 駐在所の警察官が主人公の作品と言えば、同じく新潮社刊の乃波アサさんの聖大シリーズを思い出しますが、それよりもっとリアルな感じがします。 何より凄いのは、収録5作とも長編になり得る内容だということ。 と言うか、少なくとも私はどれも長編で読みたいと思いました。 しかも、○○が明かされないままだったり、川久保自ら新たな○○を蒔いたり、「実はどうなの?」「その後どうなるの?」と思わせるような終わり方がいいです。 一番印象に残ったのは「逸脱」。 川久保の行為は、警察官としてまさしく逸脱していると思われますし、それは○○だろうとも思われますが、個人的には好きなタイプ。 まあ、ああなってしまったのは、最初の通報に対する川久自身の対応のまずさからだとも言えますが。 長編だったらもっとよかったのに、と思いました。 “犯罪発生率管内最低”の理由も凄いものでした。 発生率最低ではなく、○○率最高と言えそうです。 田舎の有力者とはそうしたものなのでしょうか。

 

「うたう警官」 (2007年1月)

とあるマンションで女性の死体が発見された。 調べてみるとそれは婦人警官・水村だった。 同僚で恋人と目される津久井の犯行と断定されるが、佐伯を始め有志数名が彼の潔白を証明するために極秘に捜査を開始する。 果たして真相は……。 北海道を舞台に描く警察小説。

本当にこんなふうに裏金が作られているのだとしたら、一般市民は警察を信用しなくなってしまいそうです。 地道に真っ当に働いている警察官のほうが多いとは思いますが、一握りの悪人のせいで機構全体が悪く思われるのは気の毒ですね。 津久井に射殺命令が下された本当の理由が“あんな”ことで、水村が殺された理由が“あんな”ことで、その真犯人が“あんな”人物で、それだけを見ていると警察官というより人間としてどうなのか、と思ってしまいますね。 そもそも不正を行うほうが悪いのであって、“うたう”警官をどうこうしようとするほうが間違っています。 一般企業でも病院でも警察でも、その機構の中に入ってみなければわからないことはたくさんあると思いますが、まず人間として間違いを犯さないことのほうが先決なのではないでしょうか。

私が読んだのは200612月付けの初版ですが、間違いを3ヵ所発見しました。 1・名前の取り違え、2・状況の齟齬、3・単なる誤植。 3はともかく、12は「ええっ!?」とびっくりするような間違いで、作家さんはもとより編集の方が気付かなかったのが驚きです。 重版されているのか、されているとしたら訂正されているのか、確認はしていませんが気になります。

 

「警察庁から来た男」 (2007年1月)

北海道警察本部へ警察庁から藤川警視正が特別観察にやってきた。 彼は、半年前裏金問題で“うたった”津久井に協力を要請した。 一方、札幌大通署の佐伯はホテル荒らしの件で捜査に向かうが、被害者は以前薄野の風俗営業店で転落死した男の父親だった。 話を聞くうち転落事故に疑問を持った佐伯は、部下の新宮とともに捜査をしなおす。 観察の目的は、転落事故の真相は。 「うたう警官」に続く北海道警シリーズ第2弾。

シリーズ第1弾「うたう警官」で活躍した佐伯・新宮・小島百合がまたしても“いい仕事”をします。 もちろん津久井も。 腐った警察官もいるでしょうが、やはり真っ当な警察官のほうが多いと信じたいです。 それにしても、“ああいう”繋がりを不正の方向で大事にするというのはどうでしょう。 真剣に○○をしている人たちに対する冒涜ではないでしょうか。 きちんと処分して欲しいと思います。 藤川は道警の人間ではありませんが、また登場して欲しいです。 彼が登場するということは、監察が入る=よくないことが起きているということなので、道警にとってはいいことではありませんが。 今作で一番ショックだったのは転落事故の目撃者・中野亜矢が○されてしまったこと。 新宮も佐伯も、少し軽率だし注意が足りなかったと思います。 続編では、道警がきちんと浄化されることを望みます。

 

「屈折率」 (2007年1月)

元商社マンで独立して仕事をしていた安積啓二郎は、経営状態の思わしくない実家のガラス工場の社長になるよう叔父・徹治に説得される。 工場売却を目論み社長に就任した啓二郎だったが、ガラス作家・透子に出会いガラスの世界に魅せられるようになる。 工場再建のために元商社マンの腕を使って啓二郎が次々と手を打つ。 モノ作りに人生の再起を懸けた男の勇士を描く。

不況を打開するべくがんばる大田区の工場再生物語、という思い込みで読み始めてびっくり。 それはそれ、企業小説ということで間違ってはいませんが、読了後確かめたらご本人としては恋愛小説として書かれたということでした。 とは言え、啓二郎の恋愛は、世間で言うところの不○ですからね。 既婚女性である私としては、あまり気分のいいものではありませんでした。 企業再生物語としては、啓二郎の発想や手腕は認めますが、私生活はどうでしょう。 私が安積ガラスの社員だったらちょっと納得いかないかも。 兄であり前社長の耕一郎よりははるかにマシですが、やはり透子との関係は歓迎できかねます。 恋愛小説として書かれたのだから仕方ありませんが、啓二郎と透子の関係がただの社長とガラス作家というだけに終わっていれば、私としてはそちらのほうが気分よく読めたと思います。 最初にこれを読んでいたら警察小説にも手を伸ばさなかったかもしれない、と思うと、順序が逆でよかったと思いました。

 

「警官の血」(上)(下) (2007年11)

昭和23年、復員後の職として警察官を選び、駐在所勤務に就いた安城清二。 その息子・民雄も警察官を志し、父と同じ駐在所勤務となる。 民雄は、清二が気に掛けていたふたつの事件の真相を探ろうとしていたが、立て籠り犯に殺されてしまう。 さらにその息子・和也も警察官となり、祖父の死、父の死の真相を知ることになるが……。 戦後闇市から全共闘、そして現代まで、親子三代の警察官の人生を描いた警察大河小説。

第一部・清二は、時代が古くてあまりなじみのない言葉が多く、さらには自分の勉強不足もあってなかなか理解しにくかったです。 でも、清二が“町のお巡りさん”であろうとした姿は立派だと思うし、尊敬もしました。 男娼殺害事件と国鉄職員殺害事件を調べようとし、実際“何か”を突き止めたところでの転落死は気の毒でした。 第二部・民雄が一番長く読み応えもありましたが、またしてもよくわからない時代で、「全共闘、過激派、ブント、赤軍派と言われても……」というていたらくでした(恥)。 でも、民雄がどれだけ大変な思いをして警察官としての任務を果たしていたかということは想像できたつもりです。 その後、念願の駐在所勤務に就いてからも、自分も、そして家族も大変な思いをしたと思いますが、父の死の真相にほぼ辿り着いたところであんなことに……。 辿り着いたからこそ“ああ”なった、とも言えますが、こちらも気の毒と言えると思います。 そして第三部・和也は、時代が現代ということもあって一番理解しやすかったですが、和也自身に共感できたかというとそれは微妙です。 民雄と同じように特命捜査員となりますが、その仕事はやりがいのあるものとは思えませんでした。 もちろん、“ああいう”仕事も必要なのでしょうが、一捜査員がどうこうという問題ではなく、警察という機構全体の問題だと思うので、虚しさは残るのではないかと思います。 残念なのは、そもそもの発端であるふたつの殺人事件と清二の死の真相です。 真犯人の告白を聞けば、戦争を知らない私には「そんなことで……」と言う権利も資格もありませんが、半世紀を経た現代で聞かされても何か飲み込めないものが残る感じがしました。 和也の態度もすごい。 そうでなければ今の世の中は渡って行けないのかもしれませんが、清二が目指した“町のお巡りさん”とは程遠いところにいってしまったなあ、というのが正直な感想です。 和也は和也なりに信念を持ってやっていることなので文句を言う筋合いではありませんが、せめてホイッスルの意味を忘れずにいて欲しいと思いました。

 

佐々木丸美 (ささき・まるみ)

「崖の館」 (2007年1月)(Library)

哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に建つ白い洋館。 そこに住まう資産家のおばのもとを、涼子やいとこたちが冬休みを過ごすために訪れた。 おばの愛娘・千波が2年前に崖から転落死したことと関係があるのではと思われる絵画消失事件が、到着して早々に起きる。 雪に閉ざされた館で、様々な凶事が続く中、いとこたちはその中にいる“真犯人”を探そうとするが……。 <館>三部作第一弾。

“真犯人”はあの人かなあ、というのは何となくわかりましたが、自ら語った動機にはちょっと共感はできませんでした。 もっと生々しいというか、どうせなら「これこれこういう理由で千波が○かった」というほうがまだ納得できたかも。 まあ、それでは“美しさ”が損なわれてしまうのかもしれませんが。 いちばん気の毒だったのは由莉。 小さいころから“あんな”目に遭って、結局○されてしまうなんて。 千波が生きていたら、もっと違う展開になったはずなのに、と思うと残念です。 “真犯人”の最後はあれしかなかったと思いますが、これからも残ったいとこたちが館を訪ねてくれることを願います。

 

「水に描かれた館」 (2007年3月)(Library)

三人のいとこが命を落とした<崖の館>。 財産目録作成のため再び集まった涼子たち。 しかし、やってきた美術鑑定家は予定よりひとり多い5人だった。 招かれざる客は誰か、目的は何か。 人知を超えた出来事が繰り広げられる中、真相が明らかになっていく……。 <館>三部作第二弾。

“真犯人”の動機・目的には納得がいきませんし、最終的には“ああ”するしかなかったというのも残念です。 結局“真犯人”の一人勝ち。 だったら最初から“そう”していれば、“人知を超えた出来事”なんて起きずに済んだのに。 まあ、それは結果論なので言っても仕方ありませんが。 せめて○○と○○の関係が発展してくれることを願います。 津原泰水さんの解説を読んで図書館で「忘れな草」を確認したら、確かに○○が書かれていました。 びっくりです……。

 

「夢館」 (2007年5月)(Library)

4歳の少女・千波は、迷い込んだ邸の主人・吹原に保護され、彼の教育のもとで成長していく。 そんな中、吹原に思いを寄せる女性たちが心を病み死の縁まで追いやられていく。 その様を目の当たりにしながらも千波は自分の気持ちを抑えられず……。 少女と館を巡る<館>三部作完結編。 単行本未収録「肖像」併録。

シリーズ3作品の中では一番読み易かったです。 千波と吹原の間に、“あんな”過去があったなんて! こういう設定は意外と好きです。 単行本刊行当時は私は10代半ばの多感な時期で、リアルタイムで読んでいたら読書暦にもっと深みが持てたのに、と残念な限りです。 執事や乳母など、主人を○○○として敬愛するあまり異常な行動に出てしまうのも妙に納得できるし。 <館>シリーズは完結ですが、リンクしている別作品や他の作品も読んでみたいです。 図書館本で読むか、ブッキングで復刊本を購入するか、古書店で探すか、それが問題です。

 

笹本稜平 (ささもと・りょうへい)

「不正侵入」 (2006年12)

警視庁組織犯罪対策部第四課の刑事・秋川は、旧友・有森の不審死をきっかけに“権力”の闇に踏み込んでいく。 何かを隠したまま事件後失踪した有森の妻・亜沙子、不可解な行動で捜査を混乱させる謎の青年、秋川や捜査一課刑事・寺沢の突然の異動など、あらゆる捜査妨害を乗り越えて、真相に辿り着くことができるのか。 哀切なラストが胸を打つ警察小説。

有森の不審死から導き出された真相は驚愕と言うべきもので、実際に“こんなこと”があるなら世の中何を信じて生きていけばいいのかわからなくなるほどです。 ここまではいかなくても、似たような事件はテレビや新聞で目や耳にしますが、こんな腐った人間ばかりだとは思いたくないし、たぶんそういうやつらのほうが数は少ないはずです。 それなのに、真面目にきちんとやっているのは当たり前で、そういう人たちまで同じ穴の狢のように捉えられてしまうとしたらあまりにも気の毒です。 作中、一度は○○るような行動を取る仲間もいますが、やはり人間としての本質を守るために最終的に警察を○めていきます。 新聞記者・毛利をはじめ、彼らだけで何かができるかと言えば難しい問題だと思いますが、少しでも世の中が生き易くなるようがんばってくれることを期待しています。

 

「越境捜査」 (2007年10)

警視庁捜査一課特別捜査一係で継続捜査扱いの事件、いわゆる“迷宮入り”の事件のうち、14年前に自分が手がけた森脇康則殺害事件を紐解いた鷺沼友哉は、本牧埠頭で三人の男たちに襲われた。 それは森脇事件に繫がるものなのか? 大藪賞受賞作家が放つ長編警察小説。

警察関係者が読んだら、「こんなことは有り得ない」と怒るか「なぜここまでバレているんだ」と震撼とするかのどちらかしょうか。 「こんなこと書いて大丈夫なのかしら」と思うほどスゴイ内容でした。 警察がここまでヒドイとは思いたくありませんが、まったくのフィクションだとはとても思えません。 鷺沼も、○○感や○○心だけで動いているわけではありませんが、森脇事件の背景を思えばそれもアリかなと思います。 宮野も、ふざけたヤツだと思う反面なぜか憎めない感じでした。 もちろん、係わりたくはありませんが(笑)。 一番カッコよかったのは韮沢の妻・千佳子かもしれません。 あのくらいでないと警察官の妻はつとまらないのかも。 だとしたら大変ですね……。

 

「許さざる者」 (2008年1)

ある日、フリーライター・深沢秋人のもとを、弁護士・楠田が訪れる。 用件は、6年前に死亡した兄・雄人の件で、依頼人は深沢朱実、雄人の妻だということだった。 自殺と断定されていた雄人の死に、不審な点があるという。 秋人は、楠田や朱実と結託して真相を探ろうとするが……。

○○がないと言えばないような、まったく○○がないわけではないと言えばそうも言えるような、なんとも言えない結末でした。 朱実や幸人の存在は○○だったと思いますが、雄人が結果的に○○してしまったことは残念です。 事件の真相については、「そこまでするのか」と信じられない思いですが、真犯人は○されても仕方ないと思います。 こんな生活を続けていれば、今じゃなくても、いずれ誰かに○されていたに違いありません。 それに巻き込まれた人たちは気の毒ですが、秋人には幸せになって欲しいと思います。 楠田がいい人でよかった。 もしかしたら「○○と組んで実は悪いことを企んでいるのでは?」と思っていたので、その読みがはずれたことにはホッとしています。

 

笹生陽子 (さそう・ようこ)

「ぼくは悪党になりたい」 (2006年1月)

ぼく・兎丸エイジは、17歳の高校生。 未婚で2人の子供を産んだ自由奔放な母親・ユリコと、異父弟・ヒロトと3人暮らし。 母親が仕事で海外に行っている間、修学旅行とヒロトの病気が重なって、母親の元恋人に看病を依頼するが、実はその人物は……。

3分の2くらい読むまで、ずっと児童書だと思っていたので、「それにしては結構過激だなあ」とびっくりしてました。 一般書だったので、不○やらセ○○スやら○子提供者なんて言葉が出てきても、まあ仕方ないのかな、と(苦笑)。 それにしても、今時の高校生は“こんなこと”を普通にしたり考えたりしているのでしょうか。 ちょっとびっくり……。 エイジの身の上は、確かに同情すべき点が多々ありますが、アヤみたいな女に関わりあってしまったのは勉強だと思って、しっかり前向きに成長して欲しいと思います。 杉尾さんとは、どうなるのでしょうか。 大学生や社会人になったエイジを見てみたい気もします。

 

「サンネンイチゴ」 (2006年3月)

主人公・森下ナオミは、中学2年・文芸部所属・おとなしい(と思われている)女の子。 心の中には言いたいことが山ほどあるのに、それを口にすることはほとんどない。 隣の席の清水くんが、理科の教師・南に目をつけられても助けてあげることができない。 ある日、文芸部の原稿をバッグごと盗まれたナオミは、となりのクラスの手塚くんと知り合う。 手塚くんはド金髪の問題児・柴咲アサミの友人で、その兄・シュウスケとも既知の間柄。 みんなに助けられて、無事バッグは見つかるが、そこから新たな問題が発生する。 臆病で内弁慶だったナオミの、成長物語。

「そんな教師はやめちまえ!」と言いたくなる教師がふたりも登場する。 ナオミの小学時代の音楽教師と中学の理科教師・南。 ナオミたちが音楽の授業をボイコットした気持ちはわかります。 ただ、誰かひとりでも、音楽教師や学年主任にきちんと理由を説明できる人がいれば、問題は違う方向へ向かったような気がします。 南にしても、教師という職にありながら、生徒をねちねちいじめるなんて最低です。 手塚くんやアサミと仲良くなって、ナオミが家族や友人に言うべきことをちゃんと言えるようになったのは、とてもいいことだと思いました。 世の中は理不尽なことでいっぱいで、立ち向かってもどうにもならないこともたくさんありますが、気持ちは前向きで成長して欲しいと思います。

 

「楽園のつくりかた」 (2006年3月)

都内に住み、エリート中学に通っている少年・優に、ある日晴天の霹靂が。 父の故郷のド田舎に引っ越すというのだ。 しかも海外赴任中の父はおらず、母と父方の祖父(少しボケ気味)の三人暮らし。 しかも通うことになった中学は分校。 同級生はバカ丸出しのサル男・山中、いつもマスクをしている根暗女・まゆ、アイドルも顔負けの美少女(?)・ヒカル。 優にとって、ここは地獄のような場所だった。 果たして優にとっての楽園とは……。

都会の真ん中からド田舎へ引っ越したら唖然とするのも無理はないと思います。 しかも、行きたくて行ったわけではなく、いやいやならなおさら。 でも、子供は大人の言うとおりにするしかない。 理不尽だとは思っても、仕方のないことなんですよね。 私も数回引越しをしたので、気持ちはわかるつもりです。 私の場合は田舎から田舎でしたけど(笑)。 確かに、優がみんなに取った態度はよくないと思うし、そこに住んでいる人たちに対して失礼だとは思いますが、山中が我慢し切れずに優に放った言葉はちょっとひどいな、と思いました。 まあ、言われるほうに原因があったのし、お互い子供なので仕方ないとは思いますけど。 まゆが優に宛てたメールも、どきっとさせられる内容でした。 自分の過去に照らし合わせると、似たようなことがなくもないかな、と。 さすがに、ああいう手紙はもらったことはありませんけど。 もういい大人なんだし、気をつけないといけないな、とと思いました。 最後には、優もちゃんと“楽園のつくりかた”を見つけたよううでほっとしました。 続編というか、後日談のような作品も読んでみたいと思いました。 

 

佐藤多佳子 (さとう・たかこ)

「黄色い目の魚」 (2006年2月)

似顔絵が得意で、サッカー部でサブのGKを務める木島悟。 イラストレーター兼漫画家の叔父の世話が唯一の楽しみの村田みのり。 自分の居場所を見失いかけた二人の高校生が織り成す、鎌倉を舞台とした恋愛グラフィティ。

著者の佐藤多佳子さんは、大学時代に児童文学サークルに所属していたという方で、表題作「黄色い目の魚」の原型は、その頃に書かれたそうです。 連作短編の形をとった長編なので、どの短編が一番好きとは言えませんが、やはりインパクトが強かったのは「黄色い目の魚」でしょうか。 「自分がみのりのような立場だったら、どう思うかな」と考えました。 幸い、親きょうだいにそんな目で見られたことはない(と思う)ので、共感できるとは言い切れませんが、叔父のところに入り浸るようになったみのりの心情はわかったつもりです。 大人になっていく過程で、もっといやなことや辛いことも経験すると思いますが、できれば木島と○○するといいな、と思いました。

 

佐野洋 (さの・よう)

「葬送曲」 (2005年10)

死や葬儀にまつわる短編集。 収録9編のうち、一番気に入ったのは『空想力』。

友人から預かった犬を散歩させているとき、近所に住む少年・幹夫と知り合った瀬川。 幹夫は犬が大好きだった。 預かった犬だということを打ち明けられないまま、友人が犬を引取りに来てしまう。 考えた末、犬を死んだことに。 それを聞いた幹夫は、自分の祖父にある願いをするが、祖父が亡くなり、それを自分のせいだと思ってしまう。 最後に、瀬川が取った行動とは……?

どの作品も、大事件が起きるわけではなく、しかもほとんどの場合、○○が明かされないんです! “こういうことではなかったか”と○○はされていますが、それは作者にしかわからないこと。 ……すごいです。奇抜なトリックなどはありませんが、やはり、大御所の作品はいつ読んでも安心します。

 

「選挙トトカルチョ」 (2008年2)

高校生の息子と喧嘩をし、「死んでやる」と言って父親が家を飛び出したという記事が新聞に掲載された。 程なくして県議会選挙が行われるが、なんの後ろ盾もない男がトップ当選する。 その議員の応援演説をしていたのが「死んでやる」事件の父親だったことから、ある女性新聞記者が驚くべき関連性を指摘するが……(表題作「選挙トトカルチョ」)。 作家生活半世紀の著者が贈る、全6編の短編集。

結果だけを言えば、残念ながら「これがよかった!」という作品はありませんでした。 内容がよくないということではなく、単に自分の好みに合わなかったということです。 謎の提示の仕方や解かれ方などは面白いのですが、その真相が共感や納得、同情できないもので、強いて言えば「蝶の写真」は、真相や結末としては納得できたかな、という感じ。 「選挙トトカルチョ」の女性記者のような人は、私は好きではありません。 「ペンギン体験」の野瀬夫人も怖い人ですねえ。

 

澤木喬 (さわき・きょう)

「いざ言問はむ都鳥」 (2006年1月)(Library)

“ぼく”こと沢木敬(さわき・たかし)は、地方都市の大学で植物学科の助手を務め、趣味でヴァイオリンを弾いている。 そんなぼくが出会った数々の謎―道路に散る花びら、子供料金の切符を大量に買う釣り人、植木もないのに高枝切り鋏を購入する人、咲くはずのないサザンカ―を、“ぼく”の友人・樋口が解き明かす。 それは真実なのか……。

植物に関するかなり専門的な単語が頻出していますが、「難しい」というよりは「勉強になるな」と思いながら読み進めました。 学生時代、こういう分野に興味を持っていたら、違った視点でモノを見ることができたのかなと思いました。 内容は、若竹さんと似た雰囲気もあって(澤木さんは若竹さんの大学時代の先輩)、日常の謎かと思いきや結構ハードな面を押し出していて、ケシから○○を作るとか、入水○○をしたとか、一家○○をするかもとか、化け猫が出たとか、あまり日常的ではない事件が起きます。 結果的に事件は○○しませんが、それはそれでいいのかな、と。 気になることがあるとすれば、それは事件の真相よりも、“ぼく”と梅咲さんがどうなるか、のほうかもしれません。

 

沢木冬吾 (さわき・とうご)

「天国の扉 ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドア」 (2006年3月)

11年前、末の妹・綾が放火により焼死するという悲劇が、抜刀術・名雲草信流本家を襲った。 捜査により犯人は逮捕されるが、名雲家に恨みを持つその男・飯浜は、長兄・修作の交際相手・奈津の父親だった……。 愛する者との絆を問う力作ミステリー。

個人的には残虐とも言えるシーンが結構出てきて、その辺りは想像すると恐ろしいので斜め読みしてしまいました。 それ以外は、思うところのある内容でした。 一番の黒幕は意外な人物で、気持ちはわからなくはありませんが、手段は間違っていると思います。 無関係の人間を○させるなんて言語道断。修作の父・和也の、○○したいという気持ちを利用したのも許せません。 関係者とは言え、巻き込まれた修作たちも気の毒です。 修作と奈津が、奪われた時間を取り戻せることを願っています。

 

Books  Top

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送