菅浩江 (すが・ひろえ)

「おまかせハウスの人々」 (2006年1月)

掃除・洗濯・買い物まで、目配りの利いた全自動住宅<おまかせハウス>。 そこに住むモニターたちは、設定さえ自分で行えば、“おまかせ”で幸せを手に入れることができる。 しかし、その設定の仕方が問題で……(「おまかせハウスの人々」)。 菅マジックが冴え渡る、近未来の日常を描く短編集。

「こんな家があったら便利だな」と思う反面、設定が難しいのは考えるまでもありません。 一人暮らしなら、たいした問題はないと思いますが、二人以上いたら、どう考えても揉めますって。 お互いが譲歩したりすることで揉め事を乗り越えて、“幸せ”を手にできればいいのですが、私は住みたくありません。 楽をするために苦労しなければならないなんて、ズボラな私には向いていません(笑)。 一番印象に残ったのは「純也の事例」。 里親制度で児童ロボットを育てる女性のお話ですが、なんだか怖い……。 ア○ボの人間版という感じ。 愛情が湧くのは当然でしょうし、別れるのが辛くなるのも当然。 それなら最初から関係を持たないほうがいいと思うのは、間違っているかもしれませんが……。

 

「永遠の森 博物館惑星」 (2007年1月)(Library)

地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館“アフロディーテ”。 惑星まるごとが博物館となっており、全世界のありとあらゆる美術品や工芸品、動植物が収められている。 データベース・コンピューターに直接接続された学芸員・田代孝弘は、総合管轄部署に属し、日々搬入されてくる物品に絡む様々な問題に対処している。 そんな中、芸術にこめられた人々の想いに触れていく。 美をめぐる9つの連作短編集。

日頃読み慣れていないSF作品ということで、なかなか読み進めませんでした。 SFということを意識せずに読もうとしても、「難しい」「わからない」という先入観があってそれを払拭できないまま読み終えてしまったという感じです。 一番印象に残ったのはタイトルにもなっている「永遠の森」。 アダムとロザリンドの気持ちはわかりやすかったのに、孝弘やタニアがそれに思い至らなかったのは意外でした。 それにしても新人直接接続学芸員・マシューにはびっくり。 こんな同僚がいたら絶対嫌ですね。 本書の最後には、少し成長のあとが見られるのでホッとしましたが。 孝弘の妻・美和子がこれからどんな仕事をしていくのか、そちらのほうも気になります。

 

「夜陰譚」 (2007年2月)(Library)

三十歳を越え、肥満した身体を持て余しているOLの“私”は、職場では笑い物にされている。 苛立ちを抱えながら彷徨い、迷い込んだ露路で見つけたものは変な傷痕のついた電柱たちだった(表題作「夜陰譚」)。 女性の胸の内に日常的に渦巻く闇を描く、幻想と恐怖の短編集。

幻想ホラー小説と銘打ってありますが、よく考えたら私のあまり得意ではない分野でした。 全9編中、幻想っぽさが一番少なかったかなと思えたのは「つぐない」。 ホラーではあるけれど、そんなに幻想色は感じませんでした。 津和子は、○○を受けたから“こう”なってしまったというより、“こう”だったから○○を受けたのですが、確かにこんな女性が身近にいたら怖いです。 ○○は絶対許せませんが、そうせざるを得なかった気持ちはほんの少しだけわかる気もします。 親子、夫婦、友だち、どの関係でも怖いけど、解消できない分親子が一番ツライかも。 でも、その原因を作ったのが身内だったりするわけだから、堂々巡りというかもうどうしようもない感じ。 強い精神を持っていれば“こう”はならないのかもしれませんが、自分が体験したことのない境遇や環境は、想像でしか語れないので偉そうなことは言えませんね。 典恵があさはかだったとは言いませんが、やはり生半可な気持ちでは“人は○けられない”ということでしょう。

 

「末枯れの花守り」 (2007年2月)(Library)

花を愛で、花に想いを託す人々がいる。 そんな人々の心につけ込み、「永遠の命を与えよう」と言い寄る永世姫・常世姫姉妹にはある企みが……。 しかし、彼女たちの誘惑に負けそうになった人々を救うため現れたのは花守り・青葉時実。 朝顔、曼殊沙華、寒牡丹、山百合、老松にそれぞれ想いを託した人々の心を救う、青葉時実の美しくも儚い幻想の物語。

幻想小説というのは個人的には苦手なジャンルで、進んで読むほうではありませんでしたし、読んでもぴんと来ない場合が多かったのですが、今作は結構ほろりとさせられました。 特に印象に残ったのは曼殊沙華の章。 自分が○んでいることにも気付かないほどある人を思う、というのに泣けました。 別の意味で、山百合の章も気になりました。 主人公・百合依は、正直言えばいやなタイプの女性だと思います。 その名前ゆえにいやな思いもしてきたのでしょうが、ああいうやり方で周りの人々を○るなんて、たとえそのつもりがなくてもいやな感じです。 実際、彼女の立場に立つことはできないし、その気持ちは想像するしかありませんが、もっと違うやり方があったのではないかと思いました。

 

「プレシャス・ライアー」 (2007年2月)(Library)

金森請子の従兄・谷津原禎一郎は次世代コンピュータの開発者。 彼に依頼されてVR(ヴァーチャルリアリティ)世界で“あるもの”を探していた請子は、<ソルト>と名乗る存在から突然攻撃を受ける。 現実世界に戻ると、今度は<ペッパー>という存在が目の前で消失した。 彼らの謎を探るため、請子は再びVR世界へ。 果たして彼らの正体は……。 「週間アスキー」で連載された長編近未来小説。

坂村健さんの解説を読むと、今作のネット上の書評はどちらかというとあまり好意的でないものが多いようです。 他の作品と比べてどうこう言えるほど菅作品を読んでいない私は結末には単純に驚きましたが、コンピュータに詳しい人や菅作品を多数読んでいる人にはウケがよくなかったということでしょう。 VR世界の描写には「次世代コンピュータではこんなことができるのか!」と単純に驚き、請子が老婦人に会ってからの展開には「何かが起こりそう」とハラハラし、結末には「おおっ!」と唸りました。 専門用語はあまりよくわかりませんでしたが、近未来な感じは掴めたつもりで読んでいました。 この結末を踏まえた上で再度すれば、もっとしっくりくるのでしょう。 どちらかといえば苦手分野になりますが、だからこそいつかじっくりと再読したいです。

 

「アイ・アム I am.」 (2007年4月)(Library)

円柱形のボディに特殊ラバーの腕。 ホスピス病院で目覚めた“私”は、<ミキ>と名付けられ、難病の子供たちや末期癌患者たちを介護するべく活躍する。 生と死が隣り合わせの現場で、なぜか甦る奇妙な記憶。 「私は本当にロボットなの……?」 “自分探し”をするミキが“人間とは何か”を問う、近未来小説。

“人間とは何か”、非常に難しい問題です。 ミキが辿り着いた真実は、あまりにも哀しいものでした。 彼女はそれを受け入れましたが、自分だったらどうかと思うと素直に「ありがとう」とは言えないかもしれないと思いました。 もちろん、そうしなければならなかった、そうしたかった、という○○の気持ちはわかるつもりです。 自分がその立場だったらそう願うかもしれません。 ただ、逆の立場だったら……。 自分がミキの立場だったらそうして欲しいとは願わないだろうと思います。 本当に難しい問題です。 近未来なのでロボットという形で表されていますが、現実にもそれに近いような形で技術が進んでいるのかもしれません。 ただ、利用の仕方は異なるかもしれませんが。 裏表紙には“感涙の近未来小説誕生!”と書かれていますが、“感涙”も“!”も必要だなと思いました。 ミキはこれから○○○○として生きていくわけですが、○○がいなくなった後も自分の使命を全うすべくがんばって欲しいと思いました。

 

「ゆらぎの森のシエラ」 (2007年5月)(Library)

塩の霧で立ち枯れた木々と、凶暴化した動植物に囲まれた地・キヌーヌ。 そこで、創造主・パナードによって化け物に姿を変えられた青年・金目(きんめ)は、彼を騎士と呼ぶ不思議な少女・シエラと出会い……。 著者初の長編SFファンタジー。

どうしても苦手意識が出てしまいなかなか読み進みませんでしたが、半分を過ぎたくらいからは映像が浮かび出し、結構さくさく読めました。 パナードが“ああ”なってしまったのもシエラが“ああ”なってしまったのも仕方のないことだと言えなくもありませんが、どちらも極端で、もう少し違う道を選んでいれば、あんな哀しい思いをしなくて済んだのに、と思うと残念です。 金目も気の毒でしたが、シエラと出会えたのでよかったのでしょう。 ラッキーだったのはラチータかな。 末永くお幸せに。

 

「そばかすのフィギュア」 (2007年11)(Library)

新作アニメ「ダグリアンサーガ」のキャラクターコンテストで最優秀賞を受賞した靖子。 彼女のもとに届いた、村娘アーダのフィギュアは、最新テクノロジーで自在に動き、設定に応じた感情まで持っていたが……。 少女とフィギュアの優しく切ない交流を描き、星雲賞を受賞した表題作「そばかすのフィギュア」他、著者が高校在学中に発表されたデビュー作「ブルー・フライト」、文庫初収録のファンタジー「月かげの古謡」など、初期の作品を収録した全8編の短編集。

菅作品は、そんなに読んでいませんが、一番切なかったです。 8編全てが切ない……。 その切なさを和らげるというか、逆に煽るというか、菊池健さんのイラストがまた素敵ですが。 一番印象に残ったのは「月かげの古謡」。 “こんな”エンディングは想像していなかったので、あまりのことに泣けてしまいました。 領主の息子には、せめてこの出会いを無駄にしないで欲しいと願うばかりです。 「雨の檻」も哀しい内容でした。 “こういう”エンディングはSFの世界ではお約束のひとつなのかもしれませんが、「そんな……」と絶句してしまったほどです。 哀しい内容でしたが、既読の菅作品の中では「アイ・アム」と同じくらい好きになりました。

 

「プリズムの瞳」 (2007年12)(Library)

かつては最先端機種として、期待を一身に集めていた人型ロボット<ピイ・シリーズ>だが、現在ではその役割を終え、絵を描くだけの無用の“残存種”と呼ばれ、各地を放浪している。 恋人との仲に悩む七奈美(「リレクト・クリムゾン」)、“心情刑”に服している高梨と、彼が訪れた地に住む守寿(「クラウディ・グレイ」)、ある目的を持って老人ホームで働くようになった澄人(「メモラブル・シルバー」)など、ピイと出会った人々は、人間と姿だけを同じくするロボットの瞳に何を見出すのか―。 全9編の連作短編集。

SFには不慣れな私ですが、難しいことを考えずに読めました。 人型ロボットが人間と共同生活をしたり、専門的な職に就いたりする時代はまだ訪れそうにありませんが……。 特に印象に残ったのは「ミッドナイト・ブルー」。 ちょっと不良の中学生・鷹文が属するグループのリーダー・ヨシキが、最後に“ああ”いうことをするとは思いませんでした。 ○○の証ですね。 それまでの描写は少し暴力的だったりして嫌な感じがしましたが、最後で救われた気がします。 「エバー・グリーン」の好太郎も同じように○○します。 彼の気持ちはわからなくはありませんが、人間とロボットの違いを忘れてはいけません。 もちろん、感情を持たないロボットになら何をしてもいいというわけではありませんが。 自分の身近にピイやフィーがいたら、と思うと恐れよりは楽しみを感じます。 そんな時代はやってくるのでしょうか。

 

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