上田早夕里 (うえだ・さゆり)

「ラ・パティスリー」 (2006年5月)

製菓学校を出たての新米パティシエ・夏織が働くのはフランス菓子店<ロワゾ・ドール>。 ある朝、いつものように出勤し、鍵を開けて店内に入ると見知らぬ男性が。 恭也と名乗るその男性は、そこを自分の店<ロワゾ・アルジャンテ>だと言い張る。 彼の正体はいったい? 小松左京賞受賞作家が贈る、甘く切ないパティシエ小説。

前2作がSFなので、「これももしかして」と思いながら、恭也がどこからやってきたのか考えながら読んでいましたが、はずれでした。 でも、徐々に明かされていく彼の過去は、ちょっと哀しいものでした。 いろいろなパティシエが登場し、どの人たちも自分の考え方をしっかり持っていて、そういう生き方ができることを羨ましいと思いました。 手に職を持つことだけが素晴らしいとは思いませんが、美味しいお菓子を作ることができる、というのは素敵な才能だと思います。 登場するケーキの数々がまた美味しそうなこと! 想像するだけでうっとりします(笑)。 恭也と夏織がこの先どうなるかはわからないけれど、いつか二人でパティスリーを開けたらいいのに、と思いました。

 

歌野晶午 (うたの・しょうご)

「ハッピーエンドにさよならを」 (2007年9月)

姪の理奈から家族に関する相談を受けた美保子は……(「おねえちゃん」)。 常磐芙美子は、なけなしの給料をやりくりして息子に大学受験をさせるが……(「サクラチル」)。 水内真智子は、娘・由佳里にお受験を課すが……(防疫))。 事件の裏には多種多様な殺意が存在する―。 全11編のアンチ・ハッピーエンド・ストーリー。

恐ろしい……。 殺人事件が起きるとすれば、それはハッピーエンドで終わるわけがないとわかっていても、心が凍るような恐ろしさを感じました。 一番印象に残ったのは「おねえちゃん」で、“ああいう”真相は想像していなかったのでちょっとびっくりしました。 残念なのは、最後の美保子の態度。 途方に暮れてしまうのはわかりますが、理奈のためを思うなら「叔母さんにも〜」じゃなくて「お○さん〜」と言って欲しかったと思いました。 どうせ○をつかなければならないなら、理奈は自分の○ということにして欲しかったです。 「サクラチル」もスゴかったです。 「そんなバカな!」と言うしかありません。 芙美子は気の毒だと思いますが、なぜそこまでずるずると行ってしまったのでしょう。 自分の息子なので仕方ありませんが、もっと早くなんとかできなかったものかと思うと残念です。 「尊厳、死」のラスト1行はとても印象に残りました。 これはスゴイ! こういう真相は、まったく想像もしていませんでした。 この作品を最後に収録したのもスゴイ。 大正解です。 内容としては、ムラノと同じく、フジエダにも中学生たちにもムカつきました。 望んでいないことを押し付けられたり、何の関係もないのに暴力を振るったりすることはまったく理解できません。 自分がされたら嫌なことは人にもしない、というのが生きていくうえでのルールではないでしょうか。 

 

内田康夫 (うちだ・やすお)

「悪魔の種子」 (2006年2月)

秋田県・西馬音内(にしもない)で、盆踊りの最中に変死事件が起きた。 さらに、茨城県・霞ヶ浦で溺死体が発見された。 被害者の身元にある共通点が見出され……。 遺伝子操作という、神の領域に手を染めた人間が辿る運命を、浅見光彦が追いかける。

「我が茨城県が舞台に!?」ということで、不謹慎とは思いつつもわくわくしながら読み始めましたが、ちょっと想像していたような内容ではありませんでした。 別に、茨城県が主な舞台ではなかったことが不満ということではなく、いろいろな“説明”が多いなあ、というのがまず感じたことでした。 内田作品を読むのは実は初めてで、読みなれていないせいもあるのかもしれませんが、盆踊りやら遺伝子操作やら農林何号やら、よく言えば勉強になる、というところですが、好みによっては少々くどいようにも受け取られそうです。 ご本人やファンの方には申し訳ありませんが、テレビで観るほうが面白そう、というのが正直な感想です。 

 

海月ルイ (うみづき・るい)

「プルミン」 (2006年5月)(Library)

公園で遊んでいた4人の小学生のもとへやってきたのは、乳酸飲料・プルミンを配るプルミンレディー。 その人物がくれたプルミンを飲んだ子供・雅彦が血を吐いて死んだ。 雅彦は小学校で他の児童に暴力を振るったり玩具などを取り上げたりしていた。 その母親・佐智子も周囲の人間からは疎まれていた。 雅彦が死んだのは、彼ら母子に対する復讐なのか。

こんな子供や母親が身近にいたら、本当に嫌ですね。 ○してやりたいとまでは思わなくても、○んでほしいとは思うと思います、正直な話。 PTA役員の文代も側にいてほしくない人物のひとり。 悪気はなくても、悪気がないからこそ始末が悪いという感じ。 雅彦が死んだ理由(復讐なのかそうではないのか)は、わかってみれば「え、そういうこと?」という感じで、個人的にはちょっと残念。 まあ、○○って○されたわけだけれど、雅彦にも佐智子にも同情は覚えませんでしたけど。 自業自得というか身から出た錆というか。 人の生死がかかっているので、そこまで言っては言い過ぎかもしれないけれど、自分がしたことで周りの人がどういう思いをしているか、考えなければいけないな、と思いました。

 

「ローザの微笑」 (2007年7月)

現役女子大生としてAVに出演し、時代の寵児ともてはやされたAV女優・千石ローザ。 同棲していた監督兼恋人・兵藤に新しい愛人ができたことから、ローザの運命の歯車は狂いだした。 自分をすり減らしながらも愛を求め続けたローザの一生は幸せだったのか、それとも……。 著者渾身の書き下ろし。

今までの海月作品を連想して読み始めたら、官○小説のような描写がたくさんあって困りました。 「ミ○○○ーじゃないじゃん!」と思い、読み続けるかどうか迷ったのは事実ですが、最後まで読み通してよかったと思います。 結末としては、必ずしもいいものではなかったと思いますが、ローザの生き様は凄いものがありました。 彼女のような生き方は絶対しないしできないと思うし、羨ましいとも思いませんが。 兵藤にもトミタにもムカつきますが、私が一番嫌いなのはしんじ。 あいつは最低です。 それに気付かなかったのはローザの失点とも言えますが。 ス○○ッ○小屋の支配人が存外に(と言っては失礼ですが)いい人でよかったです。 仔猫と老犬が出てきたシーンではなぜか涙が止まりませんでした。 ジローに会えたことはローザにとって幸せなことだと思います。 たとえ最後に“ああ”なってしまったとしても……。

 

海野碧 (うみの・あお)

「水上のパッサカリア」 (2007年4月)

腕のよい自動車整備工として働く大道寺勉は、翡翠湖という湖のほとりの借家に一回り近く年下の奈津と、彼女が拾って育てていた飼い犬とともに穏やかに暮していた。 しかし、半年前、交通事故に巻き込まれ奈津は死んだ。 ある日、帰宅した勉を迎えたのは昔の仲間だった。 彼らが伝えた事実とは……。 日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

勉の過去は、聞けば聞くほど信じ難いもので、「そんな人生がこの世にあるのか」と疑問にも気の毒にも思えるものでした。 奈津は奈津で、別の意味で気の毒な人生を歩み、出会うべくして出会ったふたり、ということになるのでしょうか。 そのまま年を重ねて平穏な人生をまっとうできればよかったのですが、それでは小説にならないのでしょうね(笑)。 奈津は○○になり、事故に遭わなくても○ぬ運命だったし、勉は○に目が眩んだ元・仲間に○されそうになるなんて。 悪党ばかりなのかと思いきや、救いはいろいろなところにあって、岡野が○好きなことや、ヒデは心から○を慕っていたことなどはホッとするものでした。 斯波と冴子の関係は想像していませんでしたが、そう言われればそれしかないかな、と納得しました。 続編もありそうな終わり方だったので、次作が楽しみです。

 

「迷宮のファンダンゴ」 (2007年11)

東京・調布に自動車整備工場を構えた大道寺勉は、ある日テレビ画面の中に知人の顔を見つけた。 それは、23年前、アメリカのサバイバルキャンプで過ごしていた際に、初めて愛を交わした女性、マリアン・ドレイパーだった。 彼女は来日中のハリウッドスター、マーシャ・ゲイルのボディガードを務めていたが、交通事故に巻き込まれて入院中だということだった。 見舞いに訪れた勉に、マリアンはあるものを渡す。 しかし、数日後、彼女は忽然と姿を消した……。 第10回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作「水上のパッサカリア」続編。

待望の続編ですが、実は前作の内容をあまり覚えていませんでした……。 自分の感想を読んで「ああ、そういえば」と思い出した次第です。 どんな記憶力だ……。 内容よりもまず気になったのは、ワンセンテンスがと〜っても長い、ということ。 読点で繋ぎに繋いで、3〜4行でワンセンテンスというのがザラ。 最初はそれがとても気になりましたが、そのうちどれくらいの長さで句点がくるのか、楽しみになっていましたが。 肝心の内容ですが、どちらかというと前作のほうが好みだったかも。 勉と奈津の関係が、マリアンとのそれより好ましいから、というのが理由です。 でも、マリアンも気の毒な女性で、確かに“あんな”世界にいたら、○を見るしか生きる術はなかったかもしれません。 過去のことを「ああしていれば」とか「あんなことしなければ」とか、いくら考えても仕方のないことですが、そう考えることでしか感情を整理できない場合もあるというのは実感できます。 マリアンは“ああ”なってしまいましたが、勉には平凡な日常を与えてあげて欲しいと思いました。 マイクが○きていたら、いい相棒になったかもしれないのに、と思うと残念です。 次作は、ケイトを介して素敵な女性と巡り合う、というのはどうでしょう。 期待しています。

 

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