矢口敦子 (やぐち・あつこ)

「証し」 (2008年4月)(Library)

木綿子は、癌で子供を持てないと知ったとき、過去に金のために卵子を売ったことを思い出し、その子供がどうしているか探偵を使って突き止める。 しかし、16歳になっていたその子供・恵哉は、ある事件を起こし自殺してしまう。 だが、木綿子は息子の無実を信じ、真犯人探しに乗り出す。 そのため恵哉の母親・絹恵に近づくが……。 殺害現場に残された“VS”というメモは何を意味するのか―。

重い……。 なんとも言えない読後感でした。 木綿子がああまでして“息子”にこだわる理由も、絹恵がああまでして子供を欲しがった理由も、わかるようなわからないような。 自分に子供がいるかいないかで、感想も変わってくるかもしれません。 真犯人の犯行の動機は共感できなくもありませんでしたが、「他にも方法があったのでは」と思うとなんともやり切れません。 私が諸悪の根源だと思うのは○○ですが、プライバシーが“あんな”ところから漏れるなら、他人は信用できないということになりますね。 そうなると、○○の行方を探そうとした人物も同罪ということになってしまいますが。 人には、知らないほうがいいこと、知らなくていいこともあるということですね。

 

「人形になる」 (2008)(Library)

人工呼吸器なしでは生きられず、ずっと病院で生活している夏生(なつみ)。 る日、隣のベッドに入院してきた瑞江と、その恋人・双一郎との出会いが彼女の人生を大きく変えることに……(表題作「人形になる」)。 35歳独身、両親と実家に暮らす杉原今日子は、高校のクラス会に出席し、かつての美少年で今でもその面影を残すFと同じホテルに泊まることになり……(「二重螺旋を超えて」)。「人形になる」は、1997年度女流新人賞受賞作。

解説で萩尾望都さんがおっしゃっていますが、私も「そんな〜」と叫んでしまいました。 夏生の立場になってみなければわからないことかもしれませんが、「“それ”は“生きている”ということにはならないんじゃないの?」と思ったからです。 本人がそれでいいと言うならどうしようもありませんが、私だったらいやだなあ。 でも実際、自分ひとりでは何もできないとなれば、“ああいう”ふうになってしまうこともあり得るのかもしれません。 気の毒だったのは瑞江。 あんな男のために……。 でも、身近にいても止めることはできなかったかもしれません。 瑞江の気持ちは瑞江にしか、夏生の気持ちは夏生にしかわからないのだから。 それにしてもなんというエンディング。 これしかないと言えばそうですが、○○があるようなないような……。 本人がいいならいい、としか言いようがありません。

 

薬丸岳 (やくまる・がく)

「闇の底」 (2006年9月)(Library)

幼女が拉致され性犯罪の被害に遭い、挙げ句の果てに殺害された。 一方、公園で男の首が発見されたが、一緒に捨てられていた保険証からアパートを訪ねると、そこには首なし死体があった。 調べが進むうち、殺された男には性犯罪の前歴があることがわかった。 捜査が難航する中、サンソンと名乗る真犯人から犯行声明が届く。 その内容は、“幼女に対する性犯罪が起こるたびに、同様の前歴を持つ人間を殺害する”というものだった。 その捜査陣の中には、かつて妹を性犯罪の被害で喪った刑事・長瀬がいた。 日本中を巻き込んだ劇場型犯罪の行方は……。 真犯人はいったい誰なのか。

確かに、犯罪を抑止するために別の犯罪を利用するというのは、本末転倒というか間違った考えだとは思いますが、そうしたくなる気持ちはわかります。 復讐や憎しみからは同じものしか生まれない、というのも理屈ではわかりますが、それは自分が被害に遭っていないから言えることで、もし被害を受けた立場になったらそんなことは言えないと思います。 復讐されたり憎まれたりするのは、自分がそうされても仕方のないことをしたからなのだから自業自得であって、復讐した側に仕返すなんてもってのほかです。 長瀬が「自分の中にもサンソンはいる」と言ったのは、正直な気持ちで間違いではないと思います。 確かに、警察官がそんなこと言ってはいけないかもしれませんが、警察官である前に一人の人間なのだから。 サンソンの正体は途中からなんとなくわかりましたが、実際そうだとわかるとちょっと驚きました。 そして何より驚いたのは最後に○○の取った行動。 当然のことだと思いながらも、どこかで思い留まってくれるのではないかという気持ちもありました。 これから○○が背負っていくものを思うと、他に選択肢もあったのに、と悔やまれます。 世の中から犯罪がなくなることはないのでしょうか……。

 

「虚夢」 (2008年5月)(Library)

三上の妻・佐和子と娘・留美は、自宅近くの公園で通り魔に刺されて負傷、死亡した。 しかし、その時の犯人・藤崎は“心神喪失”状態であるとして、刑法39条に守られ裁判すら行われなかった。 それから4年、別れた妻から三上のもとへ「あの男を見た」と電話があった。 その後、佐和子の精神は追い詰められ、三上は元妻を助けるべく行動を起こすが……。

既刊「天使のナイフ」「闇の底」も重いテーマを扱っていますが、今作もまた重いです。 私も常々「刑法39条はなんのためにあるのか」と疑問に思っていました。 病気に罹ってしまったことは気の毒だと思いますが、何をしてもかまわないということにはならないのではないでしょうか。 何でもかんでも“心神喪失”“心神耗弱”などと言えば免罪されるなら詐病する人も増えてしまうような気がします。 佐和子の取った行動は哀し過ぎます。 確かに、“ああ”することで世の中に訴えることはできるかもしれませんが、そこまでしなければわかってもらえないなんて。 被害に遭った人の気持ちはわかるつもりでも、本当に理解することは不可能なのかもしれません。 ゆきも気の毒でした。 何かあるとは思いましたが、“あんな”過去があったなんて……。 病気を治すことが必ずしもいいことではないというのも辛い話です。 三上が最初に“ああいう”決断を下していれば、こんなことにはならなかったかもしれないと思うと残念ですが、少しでもいい方向に向かうためにもがんばって欲しいと思います。

 

柳広司 (やなぎ・こうじ)

「漱石先生の事件簿 猫の巻」 (2007年4月)

ひょんなことから英語の先生の家で書生として暮すことになった探偵小説好きの少年<僕>。 先生はあきれるほどの“変人”だが、この家に集まってくる客人は、揃いも揃って“変人”だらけ。 そんなある日、隣家の車屋の亭主がどなりこんできて……。 夏目漱石「吾輩は猫である」をモチーフに描かれた連作短編集。

実は私は「我輩は猫である」を読んでいません。 オトナとしていかがなものか……。 まあ、いずれそのうち……。 それはさておき内容ですが、時代が少し前なので、ちょっと難しかったかも。 近未来も想像するしかない時代ですが、現代でないなら過去も同じこと。 10年や20年前というならまだしも、それ以前となると昭和も明治も一緒というか。 それにしても<僕>は“できた”人間ですねえ。 先生も奥さんも友人たちも本当に変な人たち(笑)。 「よくこんな家で暮せるなあ」と感心しました。 もちろん、変とはいえ悪い人たちではないのですが、「そんな理不尽な!」と思うことも多々あるし。 こういう人間の間で育ったり暮したりすると、反面教師として考えれば“できた”人間になるのかな、と思いました。 身近に起きる事件としては結構シビアなものもあって「本家はどうなんだろう」と興味を持ちました。 「猫の巻」となっているからには続編もあるのでしょう、そちらも楽しみです。

 

山口雅也 (やまぐち・まさや)

「ステーションの奥の奥」 (2006年12)

将来何になりたいかという作文に、“吸血鬼になりたい”と書いた小学6年生の陽太。 一緒に暮らしているのは父母の他に、父の弟・夜之介という一風変わった叔父。 ある日、夏休みの宿題で東京駅を調べることにした陽太は、夜之介と一緒に出かけるが、迷路のような駅構内で死体を発見してしまい……。 第二の殺人事件も発生し、陽太は、名探偵志望のクラスメイト・留美花と二人で事件の謎を解こうとするが……。

途中までは、普通のミステリーだと思っていましたが、まさか“あんな”真相だなんて。 正直言うと、夜之介が○○○だったという段階で私の興味はかなり削がれました。 頭では理解していても精神が受け付けないものがいくつかあって、こういうパターンもそのひとつでした。 ○○○の存在を信じないとかそういうことではなく、小説の中には出して欲しくないというだけのことですが。 でも、夜之介が陽太に偏見云々について語ったあたりは、どういう存在でも関係なく万人に当てはまる考えだと思いました。 ミスエリーランドという括りの中で、子供たちに対してこれが言いたかったのかなあ、と。 陽太と留美花には、大人になってもこの頃の出来事や気持ちを忘れないでいて欲しいと思いました。 ちなみに、私は東京駅で降りたことは23度しかなく、外観を見たのも1度だけなので、あんなふうに探検してみたいなと思いました。

 

山田真哉 (やまだ・しんや)

「女子大生会計士の事件簿 DX.2 騒がしい探偵や怪盗たち」 (2006年4月)(Library)

新米会計士補・柿本一麻は、監査法人の先輩公認会計士にして現役女子大生・藤原萌実とともに<足利進学スクール>の監査に携わる。 その頃、ネット上の掲示板で“株式探偵”名乗る者が<足利進学スクール>の新規事業に関する書き込みをし、それに伴い株価が上がった。 “株式探偵”とは誰なのか、書き込みの目的とはいったい……(「<騒がしい探偵や怪盗たち>事件」)。 シリーズ第2弾。

ニュースや新聞で聞いたことはあるけれど、実は意味はよくわからない難しい専門用語がたくさん出てきますが、解説もついているので理解はしやすいです。 領収書偽造、原価率操作、インサイダー取引、クレーム処理に潜む罠などを解き明かす萌実の洞察力はすごいです。 多少、漫画チックなのは仕方ないとしても、知らない世界を覗いたような感覚で楽しめました。

 

「女子大生会計士の事件簿 DX.3 神様のゲームセンター」 (2006年4月)(Library)

1983年当時、斎(いつき)の父はゲーム喫茶を経営していた。 その父に後を継いでほしいと言われた斎は、不良の溜まり場ではない、普通の人も楽しめるようなゲームセンターを経営したいと考えていた。 そして月日は流れ、斎の経営するゲームセンター運営会社に、柿本と萌実が監査にやってくる。 ところが、経理部長・課長・係長が揃って退職してしまっていた……(「<神様のゲームセンター>事件」。 シリーズ第3弾。

株式上場準備中の映画会社を蝕む不正、ネット予約だとホテルに格安で泊まれるわけ、ゲームセンターに潜む利益隠しの意外なトリックなど、身近なようであまり気にしていない事柄を、萌実が教えてくれます。 軽めの文体にも慣れたし、そもそもわかりやすく解説もされているので、すらすら読めました。 

 

「女子大生会計士の事件簿 DX.4 企業買収ラプソディー」 (2006年4月)(Library)

柿本と萌実は、ある製薬会社の監査に出向くことに。 その仕事は、大阪の監査法人との合同作業だった。 そこには、萌実の幼馴染・山部がいた。 萌実を密かに思う柿本は心中穏やかでなく……(「企業買収ラプソディー」)。 シリーズ第4弾。

“企業買収”と言えば、比較的最近よく耳にした言葉ですが、「こういう目的もあるのか!」とびっくりしました。 世の中には、“いらない仕事はない”と言いますが、「自分のためだけにお金儲けをしようとするといつか破綻するものなのかなあ」と思いました。 「しごとライブラリー」という、いろいろな仕事の内容などを解説している本がありますが、それには“その仕事がどう世の中の役に立つか”ということも書かれていました。 もちろん、自分の生活のために働くのは当然ですが、自分がこの仕事をして、どう世の中の役に立つか、どう人が喜んでくれるかを考えることも大事だと思いました。

内容とはあまり関係ありませんが、このシリーズを通して「信じられない」「我慢できない」「あり得ない」と思ったのは、仮にも公認会計士という資格を得て仕事をしている人たちが、クライアントの前でも「カッキー」「萌さん」など普段の呼び名を使っていることです。 わかりやすくするためなのでしょうが、もう少し配慮が欲しいと思いました。

 

山田宗樹 (やまだ・むねき)

「ジバク」 (2008年4月)

外資系投資会社のファンドマネージャーとして年収2千万円を稼ぎ出す42歳の麻生貴志。 美しい妻・志緒里との間に子供はまだなかったが、現在の生活に概ね満足していた。 しかし、郷里で行われた同窓会に出席し、かつて憧れていたミチルに再会してから、貴志の運命が狂い出す―。

「嫌われ松子」男性版ともいえる内容ですが、決定的な違いは、松子は死んでしまっていますが、貴志は生きているということ。 どんなに堕ちても生きている限り這い上がることはできる、ということですね。 貴志の場合、“こう”なってしまったのは自業自得だと思いますが、同性として「志緒里もすごいな」と思いました。 まったく理解できない、と思いませんが、「そこまでするか」というのが正直な感想です。 ミチルもすごい。 こちらのほうは共感できる部分はありませんでした。 彰子はもっとすごい。 志緒里とは違う意味で「そこまでするか」という感じ。 こんな女たちと関わってしまったのは悲運ですが、それも運命と言ってしまえばそれまでですね。 途中、貴志が「そうまでしてなぜ○ていかなければならないのか」と嘆いていますが、それはなんとなく理解できます。 「そこまでするくらいなら○んでもいいんじゃないか」と思うのは仕方ないことだと思いました。 でも、貴志は最後にはやはり○きていくことを選びました。 「がんばれ」というのは無責任な応援の言葉かもしれませんが、それしか言いようがありません。 がんばれ、貴志。

 

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