東野圭吾 (ひがしの・けいご)

「探偵倶楽部」 (2005年11)(Library)

VIP専用の会員制調査機関<探偵倶楽部>。 冷静かつ迅速。 秘密厳守。 彼らが難事件を鮮やかに解決! 

ということですが、収録5作品とも、それなりに楽しめましたが、あまり“鮮やかに”という感じではなかったような……。 一番納得できたのは「依頼人の娘」ですが、○○犯にされそうな中野は気の毒です。 その他の4作品は、殺人や犯罪の動機が共感を得るものではなかったですねえ。 探偵の二人も、わざと謎めいた感じにしているのでしょうが、あまり生かされていないというか……。 私の、東野作品を読む力が足りないからかもしれませんが、長編のような感動は残念ながら得られませんでした。 

 

「容疑者Xの献身」 (2005年12)(Library)

大学時代、数学を究めようとしていた石神は、さる事情からそれを断念し、高校の数学教師として働いていた。 アパートの隣の部屋に住む花岡母娘を、殺人事件の容疑者という立場から救おうと、その頭脳を駆使して奔走するが……。 ガリレオ探偵・湯川学シリーズ長編。

恋愛小説とも言える内容で、最後のほうは泣かずには読めませんでした。 石神の仕掛けたトリックは途轍もなく、それを見抜いた湯川もすごいとしか言いようがありません。 でも、できれば見抜かないで欲しかったかも……。 もちろん、法的にはそれでいいはずはありませんが、心情的には許してあげてほしいというか。 母娘のこれからのことを考えれば、償いは必要かもしれませんが、そもそも悪いのは富樫なんだし。 ○されていい人間はいないかもしれませんが、○きていないほうがいい人間はいると思います。 『技師』は気の毒だったかなあ、とは思いますけど。 

それにしてもすごい内容。 賞を取れるなら取ってほしいとも思いますが、そんな次元は超えているとも思います。

 

「さいえんす?」 (2005年12)(Library)

雑誌「ダイヤモンドLOOP」「本の雑誌」に掲載されたエッセイを文庫化。 理系作家・東野圭吾が独自の視点で語っています。

どの内容も、私にとっては耳や胸に痛いもので、特に痛かったのが“少子化対策”と“本は誰が作っているのか”。 子供も産まず、図書館で働いている身分としては、「ごめんなさい」と言うしかありません。 もちろん、東野さんが悪いわけではなく、私個人の問題ですが、泣けてきたのは事実です。 その他にも、いろいろ考えさせられる内容ばかりで、「東野さんって、すごいな」と思いつつ、本を閉じました。 基本的に、私の脳は理数系を受け付けないらしく(笑)、面白いと思ったのは、証明と連立方程式くらい。 高校時代に物理で赤点を取って追試を受けた苦い思い出がまざまざとよみがえりました(泣)。

 

「探偵ガリレオ」 (2006年5月)(Library)

突然燃え上がった頭(「燃える」)、池に浮かぶデスマスク(「転写る(うつる)」)、心臓だけ壊死した死体(「壊死る(くさる)」)、海上で爆死した女性(「爆ぜる」)、幽体離脱した少年(「離脱る(ぬける)」)。 警視庁捜査一課の草薙俊平は、説明のつかない難事件にぶつかった時、学生時代の友人で、帝都大学理工学部物理学科助教授・湯川学を訪ねるのだった。 常識を超えた謎に天才科学者が挑む、連作ミステリーシリーズ第1弾。

犯行の動機で、一応納得ができたのは「燃える」。 確かに、ああいう奴らがいたら○したくもなるかもしれません。 もちろん、実際にはできそうもありませんが、考えるだけなら何回でも○してしまうかもしれません。 結構、身勝手な動機が多いですねえ。 それだけのトリックを考えられる頭脳があるなら、もっとほかの事に使えばいいのに、と思ってしまいます。 それにしても、湯川は凄いです。 私には理数系の能力がかなり欠けているので、説明されても「は?」という感じですが(笑)。 草薙とのコンビもいい感じ。 もっと難事件を解決して欲しいです。

 

「余地夢」 (2006年5月)(Library)

17年前から“運命の人”を知っていたという男性(「夢想る(ゆめみる)」)、恋人が殺されたと思われる時間に、友人のアパート近くで彼女を見たという男性(「霊視る(みえる)」)、行方不明の夫を探すうちに、辿り着いた老婆の家で起こる怪現象(「騒霊ぐ(さわぐ)」)、町工場の主人は自殺か他殺か(「絞殺る(しめる)」)、愛人が自殺を図ることを予知していた隣家の少女(「予知る(しる)」)。 常識ではあり得ないような事件を、天才科学者・湯川学が解明する、シリーズ第2弾。

一番印象に残ったのは「絞殺る(しめる)」。 動機が哀し過ぎます。 確かに、ルールは守られなければなりませんが、「無事に○○金が〜」という湯川の言葉には暖かさを感じました。 もちろん、犯罪には違いなく、許されることではないのでしょうが、あくどいことをしてボロ儲けしている人たちがいる一方、真っ直ぐ生きてきて苦しまなければならない人がいることも事実だと思います。 「騒霊ぐ(さわぐ)」も、犯行の動機は短絡的で、巻き添えを食った被害者は気の毒でした。 ポルターガイストの真相は、「なるほど」と思うものでした。

 

「超・殺人事件 推理作家の苦悩」 (2006年6月)(Library)

小説家になって10年、「氷の街の殺人」を連載中の“俺”は、会計事務所を経営する高校時代からの友人・浜崎に、いつになく収入の多かった今年の確定申告の相談をした。 莫大な金額の税金を払わずに済むよう、浜崎が提案したのは提出した領収書に正当な理由をつけるということだった。 つまり、連載中の作品にハワイ旅行に行ったことやゴルフをしたことなどを盛り込めということ。 無理矢理作品を書き換えた“俺”に待っていたのは……(「超税金対策殺人事件」)。 推理小説誕生の舞台裏をブラックに描いた、全8編の激辛クール作品集。

とにかく面白い! 笑っちゃいました。 一番印象に残ったのは「超高齢化社会殺人事件」。 笑うやら泣けるやら、実際にあり得そうだからよけい怖いというか。 小谷と藪島の会話は、コントか漫才のようでした。 それも金子に言わせると……、というのがまた怖い。 現実味があるからなおさらです。 「超長編小説殺人事件」もすごい。 「○○を増やすためにそこまでするのか!」と思いますが、実際そうしていると思われても仕方ない作品を目にしているので、あまり驚きはしませんでしたが。 最後のオチには、「そんなの買わないよ!」とツッコミましたが(笑)。

 

「美しき凶器」 (2006年6月)(Library)

かつて世界的に活躍したスポーツ選手だった拓馬・潤也・有介・翔子。 彼らには、葬り去らなければならない過去があった。 その過去を知る唯一の人物・仙堂を殺害、いっさいのデータを消去し、すべてはうまく運んだかに見えた。 しかし、タランチュラのように忍び寄る影が次々と彼らを襲う。 その正体は……。

翔子を含め3人の女性が登場しますが、それぞれに強さや優しさやしたたかさを持っていて、その描き方がすごいと思いました。 翔子が、自分を体操の世界へ導いた母親を○したのではなかったことは、せめてもの救いでした。 結局、母親の気持ちは届かなかったわけですが。 翔子と有介が○○していたら、こんなことにはならなかったかもしれないと思うと、少し残念です。 有介の妻・小夜子が、唯一“普通の”女性ですが、彼女が○○していたことが、最後にあんなふうに効いてくるなんて! タランチュラが本当の○○性を取り戻してよかったと思います。 それにしてもタイトルの付け方が素晴らしい! 確かに「これしかない」という感じ。 表紙のイラストや写真は内容を連想させることが多いですが、文庫版のそれはそのものずばり。 お見事です。

 

「犯人のいない殺人の夜」 (2006年6月)(Library)

男子中学生・孝志の密かな楽しみは、毎週水曜の夜、塾帰りの道の女子高の体育館で新体操の練習をする少女をそっと見つめることだった。 なんとか友達になれないかと思い、家庭教師・黒田に相談する。 なかなか進展しない中、いつしか少女は練習に来なくなってしまった。 孝志は、その理由を黒田に探ってもらうよう頼んだ。 その依頼を引き受けた黒田が辿り着いた真相は……(「踊り子」)。 全7編の傑作短編集。

一番印象に残ったのが「踊り子」。 黒田が探り当てた真相は、あまりにも重く残酷です。 確かに、伝えたほうがいいとは言えませんが、知らないままでいいのかなとも思います。 でも、自分を責めるあまり少女と同じ道を辿ってしまわないとも限らないし。 知らないほうがいい真相もあるということでしょうか。

「白い凶器」も心に残りました。 女性のほうが、より共感できる内容かもしれません。 自分が由希子の立場だったら、と思うと切なくなります。 あそこまではできないと思いますが……。

 

「卒業 雪月花殺人ゲーム」 (2006年7月)(Library)

加賀・若生・藤堂・沙都子・波香・祥子・華江の7人は、卒業を控えた大学4年生。 波香が剣道の試合で敗戦を喫した約1ヵ月後、アパートの自室で祥子が死んでいた。 自殺か、他殺か。 加賀、波香、沙都子が真相を追究する最中、今度はお茶の会の途中で波香が死んだ。 またしても浮かび上がる自殺か他殺かという疑問。 加賀と沙都子が辿り着いた真相とは……。 

青春小説ともとれる本作は、後に活躍する加賀恭一郎の大学時代の話。 ○○の試合、卒業後の○○、夏の○○、いろいろなことが重なって2つの事件は起きましたが、一番納得がいかないのは藤堂の態度。 確かに、自分の恋人が“そんな”ことをして喜ぶ人はいませんが、だったら別れれば済むだけの話なのに、“あんな”ことを言うなんてあんまりです。 波香が○○しようと思った気持ちは分かります。 自分の○○のために友人を○○るなんて、とても哀しいことです。 みんなの高校時代の恩師・南沢雅子がお茶会のあと取った態度はどうなのでしょう。 真相は、暴かれることだけがいいことだとは言い切れませんが、それが結局“ああいう”事態をも招いたのではないかと思います。 やはり、悪いことはできない、ということでしょうか。

 

「眠りの森」 (2006年8月)(Library)

高柳バレエ団の事務所に忍び込んだ男が、その場に居合わせた女性団員によって殺害された。 正当防衛を主張するが、男の身元がわからず捜査はなかなか進展しない。 公演を間近に控え、今度はバレエ・マスターである梶田が殺害される。 先の事件との関連は? 真犯人は? 

加賀恭一郎が登場する前作「卒業」では、剣道と茶道が重要なファクターとなっていましたが、今作ではバレエがその役を担っています。 一般人からすれば「そこまでするか?」と思われるようなことも、それに情熱を傾ける人にとっては重要なことなんですね。 そこに男女間の愛情が絡んだりすればなおさら。 ○○られたときのショックは大きいと思います。 勝手に思っていただけと言えばそれまでですが、一人のプリマを守るために自分が○○になったと知ったら、○したくもなるかも。 事件の真相は哀しいものでしたが、加賀と未緒はどうなるのでしょう。 次作「悪意」で何か進展があるのか、それともこのまま終わってしまうのか、読むのが楽しみです。

 

「悪意」 (2006年8月)(Library)

人気作家・日高邦彦が、バンクーバーへ旅立つ前夜、自宅で殺害された。 発見者は、彼の妻・理恵と、日高の幼馴染みの野々口修。 捜査に当たるのは、加賀恭一郎。 彼の推理により犯人は逮捕されるが、頑として動機を語らない。 その理由はなぜか、そして真の動機とは。 

“手記”や“記録”という形で事件が解明されていく、面白い書き方。 さくさく読み進みました。 いろいろなところにブラフが仕掛けてあって、後になって「なるほど!」と気づく次第でした。 「ここは怪しいんじゃない?」と思っても、何がどう怪しいのかはわからなかったです……。 短編集ではありませんが、一番印象に残ったのは“過去の章その二 彼等を知る者たちの話”で、同じ事柄でも、見る角度が違うと見え方も違ってくるのだな、と思いました。 行動を起す側と受ける側で、感じ方が違うということも実感しました。 林田順一が言っていた「昔のいじめは〜」という言葉は特に印象的でした。 加賀が教師を辞めた理由も明らかになりましたが、そこから得たものを、刑事という職業に生かしていって欲しいと思いました。 そう言えば、○○は登場しませんでしたね……。

 

「嘘をもうひとつだけ」 (2006年8月)(Library)

バレエ団の事務員が転落死した謎を追う(「嘘をもうひとつだけ」)。 強盗に殺されたらしい妻は、本当は……(「冷たい灼熱」)。 器械体操に励む小学生・理砂の母親・真智子の恋人を殺した真犯人は……(「第二の希望」)。 交通事故で死んだ夫・隆昌は、妻・奈央子の行動を縛りつけていた(「狂った計算」)。 運転中に眠気を催した萩原は、その前にビタミン剤とドリンク剤を服用していた(「友の助言」)。 加賀恭一郎が、事件の真相に迫る。

一番印象に残ったのは「狂った計算」。 隆昌は、本当に奈央子を愛していたのかもしれませんが、ああいう態度に出られては、女性としては(少なくとも私には)それは信じられません。 そういう態度でしか表現できない愛情なら、要らないとさえ思います。 だからといって、奈央子が○○をしていたことの言い訳にはなりませんけど。 事件の真相はちょっと意外で、さすがの加賀もそこまでは見抜けなかったようですね。 自分が奈央子の立場だったら、中瀬の○○を発見したときに、後を追うことを考えたかもしれません。 実際にできるかどうかはわかりませんが。 どの作品も、結果的には嘘が見抜かれていくわけですが、加賀が事件の真相に迫っていく様子は見ごたえがありました。

 

「赤い指」 (2006年8月)(Library)

真っ直ぐ帰宅したくないと思っていた昭夫のもとに、妻・八重子からの電話が鳴った。 とにかく早く帰ってきてくれというばかりで何があったのかも説明しない。 仕方なく帰宅した昭夫が目にしたのは庭に放置され、動かなくなった少女だった。 身内の引き起こした犯罪にどう対処するか。 昭夫は、八重子は、息子・直巳は……。 嘘をつきとおそうとする家族に、加賀恭一郎が立ち向かう。 直木賞受賞後第1作。 構想6年の書き下ろし。

個人的にはちょっと微妙……。 もう少し書き込んで欲しかったです。 もちろん、これだけの内容をこれだけの量に収めたのが東野さんの力というか技なのでしょうが、個人的にはもう少し膨らませて欲しかったかな、と思いました。 むやみに長いだけの作品はうんざりしますが、もう少し深く掘り下げて書いて欲しかったな、とも。 犯罪の被害者である少女側の状況をもう少し読みたかったです。 それだと、「○○○○○」と似てしまうかもしれませんが。 ○○症に罹った老人の介護や○○○の犯罪など、昭夫一家の抱えた問題はとても大きく、どう対処するかでこれからの人生が大きく変わっていくものですが、“あの”偽装工作はひどいものです。 仕事にかこつけて家庭を顧みなかった昭夫、いじめに遭っている息子を甘やかすだけの八重子、なんでも人のせいにして自分では責任を取れない直巳、“誰が”悪いというより、“誰も”悪いのでしょう。 個人的には、強いて言えば直巳が悪いと思います。 どんな環境に育っても、ああいう人間になるとは限らないのだから。 子供に全ての責任を押し付けるのも可哀相かなとは思いますが、“世の中が悪い”と言ってしまったら、それでもうおしまいだし。 加賀が捜査に当たり、昭夫の目を覚まさせてくれたのは救いでした。 加賀と、父親・隆正、隆正の妹・松宮克子、その息子で刑事の脩平との関係も描かれ、親子・家族の在り方を考えさせられる作品でした。

 

「天使の耳」 (2006年9月)(Library) *単行本時は「交通警察の夜」というタイトルでした。

交通事故で死亡した兄に非がないことを、同情していた耳の不自由な妹・奈穂が証明する(「天使の耳」)。 トラックが急ブレーキをかけ横転し、運転手が死亡した。 その妻・彩子は、交通課事故係・世良と高校時代の同級生だった(「分離帯」)。 初心者マークをつけていたので煽っていた車が、スリップしてガードレールに衝突してしまったにもかかわらず、そのまま逃げた男は……(「危険な若葉」)。 路上駐車していた車に傷をつけられ憤慨していた雄二のもとに、加害者から連絡が入ったが、その目的は……(「通りゃんせ」)。 高速道路上で、前の車が窓から捨てた空き缶が真智子の目に当たり、結果片目を失明する羽目に。 伸一は運転者を探そうとするが……(「捨てないで」)。 深夜、バイクと衝突した車を運転していたのは元オリンピック選手で現在は企業の陸上部でコーチをしている中野だったが……(「鏡の中で」)。 交通事故がもたらす、人々の運命の急転を描く短編集。

自家用車を所有・運転する私には、どの作品も心に響くものがありました。 窓からものを捨てたり、細い道に長い間路上駐車したりはしませんが、どんなタイミングで自分が加害者になってしまうかもわからない、という怖さは身に沁みました。 一番印象に残ったのは「分離帯」。 彩子の気持ちは分かります。 石井夫人があんな態度を取るなら、彩子はああするしかなかったでしょう。 因果応報ですね。 「通りゃんせ」のラストもすごい。 雄二たちは○されると思ってました。 前村は最初から○さないつもりだったのか、それとも最後の最後に思い留まったのかは分かりませんが、雄二があんなことをしていなければ、というとても悔しい思いを○人という形で晴らさないでよかったと思います。 雄二も、さすがに反省したので救われました。 「鏡の中で」の結末は、ちょっと承服しかねます。 事故の結果を考えれば、○○○にはきちんと罪を償わせたほうがいいと思いました。 どんなことがどんな結果を生むか、全てを考えて行動すること不可能ですが、特に車の運転には慎重にしなければ、と肝に銘じました。

 

「放課後」 (2006年9月)(Library)

女子高で数学の教師をしている前島は、 駅や校内で数度身の危険を感じる目に遭っていた。 そんな中、校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んだ。 自殺か他殺か捜査が難航する中、前島の替わりにピエロの扮装をしていた体育教師が死ぬという第二の事件が、体育祭の最中に発生する。 これは同一犯人による連続殺人なのか? 真犯人はいったい……。 乱歩賞受賞のデビュー作。

犯行の動機は、女子高というか女子高生ならではというもの。 「20代の男性によく書けたなあ」という感じ。 それにしても、○○のトリックを捨て石に使うなんて、すごいですね。 まあ、それがあってこその真相なわけですが。 でも、前島が○で狙われたのが○○○の仕業だというのは分かりましたよ! さすがに、最後にああ来るとは思いませんでしたが……。 それだけ○○が大きかったということでしょう。 自分が知らないところで○○を買っているかもしれない、というのは怖いですね。 この場合、自業自得というか因果応報とも言えますが……。 この作品が刊行されたとき私は大学生でしたが、そのときに読んでいたら、感想も違っていたかもしれませんね。

 

「サンタのおばさん」 (2006年9月)(Library)

12月の初め、フィンランドで開かれるサンタクロース会議に出席するために、道を急いでいたイタリア・サンタ。 その前に現れた小太りな女性もサンタ協会に行くというので、遅刻しないよう一緒に駆け出した。 ふと振り向くとその女性はいなくなっていたが、次に現れたのは引退するアメリカ・サンタの後任を決める場だった。 文・東野圭吾/絵・杉田比呂美のカラー絵本。

「日本はどんどん子供が少なくなっている」「クリスマスをお祭りのように考えている」「日本の子供が欲しがるのはゲーム」「父親と子供がゲーム機を取り合っている」。 う〜ん、絵本なのに辛辣(笑)。 まあ、すべて事実なのでなんと言われても仕方ありませんが。 サンタが父性の象徴だとする日本サンタが述べた意見もまた凄い。 「父親の地位が失墜している」から始まる彼の言葉は胸に響きますねえ。 特に「満員電車に揺られ〜」という部分。 確かに、親に感謝しない子供が増えているのは事実でしょう。 自分が働くようになれば、それがどれだけ大変なことか身をもってわかるようになると思いますが、子供のうちは(真っ当な方法で)お金を稼ぐのがどれだけ大変か想像もつかないのでしょうね。 “親なんだから当たり前”くらいに思っている場合もあるし。 いつの間にそんなふうになってしまったのかわかりませんが、サンタクロースを無条件に信じられたような純粋な気持ちは大事にしたいものです。 

 

「使命と魂のリミット」 (2007年1月)(Library)

ある目的を持って心臓外科医を目指して研修中の氷室夕紀。 その目的とは、かつて術中死を遂げた父に関することだった。 その目的が果たされようとするとき、手術室を前代未聞の危機が襲う。 彼女は、他の医師たちは、その危機を乗り越えられるのか。 そして、彼女の目的は果たされるのか。 心の限界に挑む医療サスペンス。

タイトルにも装丁にもあまり惹かれるものがなく、正直「あまり楽しめないかも……」と危惧していました。 でも、読んでみてそんなことはなかったので安心しました。 一番印象に残ったのは看護師・望が最後に○○に取った態度。 確かに、看護師としての心構えがなっていない部分もあると思いますが、最後には本来の“使命”を果たしてくれたのでホッとしています。 病院に脅迫状を送った真犯人の動機は、以前テレビドラマで似たような内容を見たことがあるので新鮮さは感じませんでしたが、共感はできるものでした。 まあ、逆恨みと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、個人的には納得できます。 これから先、罪を償って人生をやり直して欲しいと思いました。 「図書館で働く自分の“使命”は何か」と考えましたが、図書館にこだわらず「人として何ができるか」ということを一番に考えて、“あること”を心に誓いました(恥ずかしいのでここには書きませんが)。 “使命”を果たせるよう日々がんばりたいと思います。

 

「たぶん最後の御挨拶」 (2007年2月)(Library)

T年譜、U自作解説、V映画化など、W思い出、X好きなもの、Yスポーツ、Z作家の日々、あとがきから成る“たぶん最後の”エッセイ集。 

東野さんのエッセイは「さいえんす?」しか読んでいませんが、とても楽しめました。 特にT・U・Wあたりが。 ○○されていたことは全然知らなかったのでびっくり。 読みながら「ええっ!!」と叫んでしまいました。 そこが一番印象に残っているかも(笑)。 作家さんご本人の解説は「読みたい」という気にさせられますねえ。 あれもこれも、と読みたい作品がたくさん出てきたので、これから文庫を探します。 図書館で働く者としては耳の痛いご意見もちょうだいしましたが、せめてほんの少しでも役に立てるようがんばりたいと思います。 他の作家さんとの触れ合いも面白い。 黒田研二さん、真保裕一さん、折原一さん、北方謙三さん、藤原伊織さんなど、本当に信頼し合っていなければあんな書き方はできないのだろうな、と思いました。 「俺の読者はこんなものを待っているのか」とおっしゃっていますが、個人的には歓迎です。 でも、本業に支障を来すということであれば“最後”になっても仕方ないかもしれませんね。 映画化などで対談でもあれば、それを期待することにしましょう。

 

「分身」 (2007年2月)(Library)

函館生まれで札幌の女子大一年生の氏家鞠子は、幼い頃から「母親に愛されていないのでは」という不安を抱いていた。 その母親を火事で亡くし、その真相も含めて自分の出生の秘密を探ろうと東京へ行く。 東京でアマチュアバンドのボーカルを務める大学二年の小林双葉は、母親からテレビに出ることだけは固く禁止されていた。 しかし、禁を破ってテレビ出演を果たした後、母親が轢き逃げに遭い死亡する。 その真相と自分の出生の秘密を探ろうと北海道へ出向く。 鞠子と双葉の出生の秘密とはいったい……。 現代医療の危険な領域を描くサスペンス長編。

私が読んだのは1996年刊の文庫ですが、単行本はその3年前に刊行、雑誌掲載は19929月から19932月までということなので、2007年の“現在”と発表当時の“現在”は様々な面で異なると思います。 当然、医療についてもかなり進歩した部分があると思うので、作中では最先端とされている技術も、現在ではもっと進んでいるかもしれません。 おそらく、鞠子と双葉のような人物の存在は、技術的な面では可能でも倫理的な面ではあまり歓迎されないと思われます。 鞠子の父・清の気持ちはほんの少しわかる気はしますが、妻であり鞠子の母である静恵の気持ちを考えたら、“あんなこと”はしてはいけなかったと思います。 子どもが欲しいのに自然には妊娠しにくい、という悩みを持った人たちにとっては救いになることでも、それを悪用してしまったら、されたほうは堪りません。 静恵が“ああ”するしかなかった気持ちはとてもよくわかります。 鞠子が東京で、双葉が北海道で、それぞれ逆のフィールドで真相を探り合う姿は見ていてはらはらさせられましたが、頼もしくもありました。 同じ運命を背負った二人なので、これからも力を合わせて生きていって欲しいと思いました。

 

「名探偵の掟」 (2007年2月)(Library)

完全密室や時刻表トリックなど、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。 すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき“ミステリ界の謎”とは……? 本格推理の様々な“お約束”を破った、痛快傑作ミステリ。

ええと、これは笑っていいのですよね? 特に印象に残っているのは「殺すなら今」と「アンフェアの見本」。 前者は童謡殺人、いわゆる見立て殺人の真相を解き明かしますが、その真相が面白い。 オチも、「これしかない」というほどしっくりきました。 「アンフェアの見本」はいわゆるアレです。 ネタバレになってしまうので言えないのが残念ですが、私はまんまとひっかかりました。 これはぜひ舞台で観たい! 映画やテレビドラマでもいいのですが、ナマの舞台のほうが絶対面白いと思います。 天下一はあの人で、大河原はあの人で、と想像すると楽しいです。 個人的には、本格推理というものに特に思い入れはないので、名探偵が活躍するような作品を「これを読みたい!」と思って読んではいませんし、“本格とは”という論争にも何の興味も湧きませんが、まったく廃れてしまうのは寂しい気もします。

 

「名探偵の呪縛」 (2007年2月)(Library)

図書館を訪れた小説家の“私”は、いつの間にか別世界に迷い込み、探偵・天下一になっていた……! 次々と怪事件が起こるが、その世界はある概念が存在しない街だった。 この街を作った者の正体は? そして街にかけられた呪いとは? 「名探偵の掟」の主人公・天下一が長編で再登場。

要するに、“私”=天下一=○○○○ということでしょうか。 こういう経緯でこうなった、という告白と受け取っても差し支えないような気がします。 何度も言うようですが個人的には本格ミステリには特に関心はありませんが、好きな作家さんが書いた作品なら読みたいと思います。 「掟」「呪縛」とも、登場人物の名前の付け方がシャレているというか遊んでいるというか、このシリーズには合っていると思いました。

 

「怪笑小説」 (2OO7年3月)(Library)

年金暮らしの老女が芸能人のおっかけにハマり、乏しい財産を使い果たしていく話(「おっかけバアさん」)、“タヌキには超能力を持つものがいて、UFOの正体は文福茶釜である”という説に命を掛ける男の話(「超たぬき理論」)など、多彩な味付けの傑作短編集。

10編、純粋に笑えるだけの作品はなく、どこか哀しかったり切なかったり空恐ろしかったりすると思います。 一番印象に残ったのは「鬱積電車」。 どの人物の言い分もその人の視点から見れば納得できるものでした。 電車内だけではなく、車や自転車を運転していても歩いていても買い物に入ったお店の中でも、そういう場面には出くわしますね。 「自分の立場だけで考えずに、相手の立場からも考えてみよう。 そうすればきっとイライラしなくてすむはずだ」と思って、なるべく実行しようと心掛けていますが、人間ができていない私にはなかなか難しいです……。 「一徹おやじ」の最後のオチは読めましたね。 まさか飛雄馬も……?(笑) 真保裕一さんの解説もよかったです。 東野さんがどれだけいい人かよくわかりました。 自分が失敗した経験から、同じ轍を踏まないようにアドバイスしてくれるなんて、オトナでなければできないことです。 一度でいいからホンモノにお目にかかりたいと思いました。

 

「毒笑小説」 (2007年3月)(Library)

塾やお稽古、家庭教師にと忙しい孫と遊びたい祖父が取った行動とは……(「誘拐天国」)。 やっと手に入れた分譲地。 しかしそこに待っていたのは……(「手作りマダム」)。 家族が出かけた隙に老人がしようとしているのは……(「ホームアローンじいさん」)。 ブラックなお笑いを極めた快心の短編集。 「笑い」追及の同志・京極夏彦氏との特別対談つき。

「怪笑小説」同様のコンセプトでまとめられた全12編の短編集。 今作も哀しさや切なさを伴った作品が多かったです。 どの作品もそれぞれに訴えることがあって、特にどれが、と選べないほど印象に残りましたが、あえて選ぶとすれば「誘拐天国」でしょうか。 「子供たちはすでに○○されている」という言葉にはどきっとしました。 いつからこんなふうになってしまったのかよくわかりませんが、これが普通の姿だとしたら子供たちにとっていいことなのか悪いことなのか判断は難しいところです。 「昔はこんなんじゃなかったなあ」とは思いますが、“時代が違う”と言われればそれまでですね……。 「手作りマダム」もありがちな話で、男性である東野さんにもこういうシチュエーションがわかるのね、と思いました。 どちらかというと女性(妻)に起こりがちな現象ですが、会社に行けば男性(夫)にも起こり得ることなのでしょう。 社宅というものの実情は知りませんが、しがらみはいかばかりかと思うと、「大企業で働くのも大変だなあ」と思いました。 ほろっとさせられたのは「つぐない」。 最後に妻と娘が会場に来てくれてよかったと思いました。 京極さんとの対談もよかった。 こういう作品ももっと読みたいです。

 

「ちゃれんじ?」 (2007年6月)(Library)

ひょんなきっかけで始めたスノーボードだが、あっという間に虜になってしまった。 原稿の締め切りと闘いながら、雪山に通う日々。 自称“おっさんスノーボーダー”としての珍道中を自虐的に綴った爆笑エッセイ集。

面白い! カッコイイ! と言うしかないほど笑ったり尊敬したり。 「売れっ子作家のどこにそんな時間があるのだ!?」と不思議な気がしましたが、時間は作るものなんですね。 スノボのためには締め切りを○○○たりもしていたようですが(笑)。 年齢に関係なく、やりたいことにチャレンジするのはいいことだと思いました。 もちろん、体がついていかないのに無理をしては元も子もないので、徐々にレベルを上げていくのがポイントですが。 クロケンさんの変○ぶりは女性としてはちょっと笑えませんでしたが……。 貫井さんも登場するなど、写真掲載も画期的(?)でした。 プロカメラマンが撮影した写真はさすがに素敵でした。

 

「夜明けの街で」 (2007年7月)(Library)

渡部は、友人たちと行ったバッティングセンターで会社の派遣社員・秋葉と出会った。 その後、カラオケに行ったり酔っ払った秋葉を家に送ったりしたことで、急速に二人の距離は縮まっていく。 妻も子供もいる渡部と、31歳独身一人暮らしの秋葉は、ついに越えてはならない境界線を越えてしまう。 しかし、秋葉から聞かされた彼女の家庭の事情は複雑だった。 しかも、彼女にはある事件の容疑がかかっていた。 犯罪者かもしれない女性との不倫の恋に堕ちた渡部の心境は揺れ動く……。

帯に“新境地にして最高傑作”とあるように、「恋愛感情をここまで中心に持ってくる小説を書いたのは初めて」という東野さん。 私は東野作品をそんなにたくさんは読んでいませんが、確かに今までとはちょっと違うテイストだと思いました。 ただ、既婚女性という視点から見ると、やはり“不倫の恋に夢中になっている夫と若い愛人”という設定は、あまり楽しくありませんでした。 もちろん、こういう関係にする必要があったことは理解していますが、どうしても渡部の妻・有美子に感情移入してしまいがちでした。 不倫は不倫だから楽しいし、自分たちは本気だと思っているけれど、実際に離婚するとなると様々な問題が浮上するし、愛人と結婚したらしたでまた浮気をするかもしれないし、と「何もいいことなんてないのに」と思うのは、一応“妻”という立場にいる人間からの考えなのでしょうか……。 事件の真相が明らかになると、「一番悪いのは○○じゃん」と憤りを感じました。 いい人のふりをしていたわけではありませんが、「こいつのせいで何もかもおかしくなったんだ」と思うと、本当に腹立たしいです。 「秋葉の15年間はなんだったのか」と思うと気の毒で仕方ありません。 もちろん、「他にも方法があったのでは」と思いますが、彼女にとっては精一杯の○○だったのでしょう。これからの人生は、心から笑ったり楽しんだりできるようになることを願ってやみません。 番外編「新谷君の話」を読んで、「どうりであれだけ渡部に力説していたわけだ」と納得しました(笑)。

 

「あの頃ぼくらはアホでした」 (2007年7月)(Library)

悪名とどろく恐ろしい学校で学級委員をしていた中学時代、日本で最初に学園紛争が起こり制服が廃止されたという有名校での高校時代、体育会系&似非理系だった大学時代。 怪獣少年だった小学生時代から、大学を出て就職に至るまでを裸々に綴る傑作青春記。

今作が、単行本として刊行されたのが1995年、文庫化されたのが1998年。 私が購読したのは2007年第21刷の文庫ですが、「よくこのままの内容で出したなあ」というのが正直な感想です。 「東野圭吾ほどのビッグネームが、いくら過去の話とは言えここまで言っちゃっていいの?」と少々焦りました。 なぜなら最近は飲○や喫○に対する世間の目が厳しくなっているから。 若気の至りでは済まされなくなってきているこの時代に、「30年以上前の出来事とは言えここまで赤裸々に語らなくても……」とある意味度肝を抜かれました。 ご本人も編集者の方も、勇気があるというかなんというか。 一番衝撃を受けたのは「僕のことではない」という章でした。 個人的には、未成年が飲○や喫○をすることには文句はありません。 もちろん、暴れたり盗んだりという行動を伴うなら話は別ですが。 それより問題なのは書店で○○○をするという行為。 この部分だけは、笑って読むことはできませんでした。 創作だとしても笑えない……。 まあ、それ以外は概ね笑えましたが、より楽しめるかどうかは読む側の性別にもよるのでしょうか。 “ねるとん”“がびーん”“パープー”などには懐かしさがこみ上げました(笑)。

 

「ダイイング・アイ」 (2007年11)(Library)

バーテンダーとして働く雨村慎介は、かつて交通事故で人を死なせてしまった過去がある。 しかし、彼は記憶の一部を無くしており、事故を起こしたことすら覚えていなかった。 なぜそんな大事なことを忘れてしまったのか。 事故の状況を調べるうちに、関係者が徐々に怪しい行動を取り始め……。 初出は1998年という幻の傑作、解禁。

まず目を引くのは装丁。 表紙も帯もカバーの下も、どれも興味を惹かれます。 図書館本で読む方も、ぜひ書店でカバーをめくって欲しいです。 帯の惹句もすごい。 “今度の東野圭吾は、○いぞ”と書かれていますが、内容としては○いというより哀しかったです。 私が美菜絵の立場だったら、同じように感じたと思うし、同じことをしただろうと思います。 玲二の場合でも同じかもしれません。 そして“真犯人”だったとしても、“ああ”なってしまうのは当然かもしれないと思いました。 誰に感情移入するかで感想も違ってくるかと思いますが、個人的には美菜絵が気の毒でなりませんでした。 慎介もある意味では○○者かもしれませんが、彼に対する同情や共感は得られませんでした。 いわば自○自○かと。 そういう意味では、確かに○い人が大勢登場しましたね。 ここまで登場人物が○い人だらけというのも珍しいかもしれません。 でも、一歩間違えば誰でもそうなるという見本というか、結局は自分自身が決めることなんだと実感しました。 美菜絵の場合は一方的に被害に遭ったわけですが、酷な言い方をすれば「そんな深夜まで働くから」という見方もできます。 もちろん、それは言い過ぎで、非はあくまで加害者側にあるわけですが。 自分ではどうにもできないことも世の中にはあるという見本でもありますが、やっていいことと悪いことの区別くらいは自分自身で判断しなければならないと改めて思いました。 まあ、○い人というのはそもそもの基準が間違っているのだから、一般常識に照らし合わせること自体無理な話ですが、せめて自分は人の道から逸れないよう生きていきたいと思いました。

 

「ある閉ざされた雪の山荘で」 (2007年12)(Library)

早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、あるオーディションに合格した男女7名。 当人たちだけで、豪雪に襲われ孤立した山荘で殺人劇が起こるという設定で舞台稽古をするように、という指示が出されるが、一人また一人と現実に仲間が消えていくうちに彼らの間に疑惑が生まれ始める。 はたしてこれは本当に芝居なのか、それとも現実の殺人事件なのか。

真犯人の気持ちはわかる気がします。 確かに、“ああいう”事情があれば○○したくなるのは当然かもしれません。 でも、やり方が間違っていると思うし、○○なんてしても心は晴れないような気もします。 実際に自分がその立場だったら、冷静になれるかどうか自信はありませんが……。 作品としては、ぜひ舞台化(ドラマ化、映画化ではない)して欲しい内容でした。 十数年前の作品で、現在の作風とはずいぶん異なると思いますが、東野圭吾という名前がなくても面白いものになると思います。 自分なりに配役を考えるだけでも楽しいです。

 

「殺人現場は雲の上」 (2008年1月)(Library)

新日本航空のスチュワーデス、通称エー子とビー子。 同期入社でルームメイトという仲良しコンビだが、片や成績優秀・頭脳明晰・容姿端麗、片やそのほぼ真逆のような取り合わせで、何かと奇妙な事件に遭遇する。 雲をつかむような難事件の謎に挑むふたりの推理はいかに―。 全7編の短編集。

一番印象に残ったのは「忘れ物に御注意ください」。 事件の真相としては「そんなバカな!」(東野さんに対してではなく、真犯人に対して)と言いたくなりますが、ビー子が“ああ”せざるを得なかった気持ちはわかります。 あれが真相なら、あのくらいやらないと身に沁みないのではないでしょうか。 やり過ぎはよくありませんが、あのくらいのお灸を据えるのは必要だったと思います。 「お見合いシートのシンデレラ」もよかったです。 まさか“そんな”理由で……。 それにしても、ビー子はいい人ですね。 ふたりのさらなる活躍を期待します。

 

「魔球」 (2008年1月)(Library)

春の選抜高校野球大会、9回裏二死満塁で開陽高校のエース・須田武志は、“魔球”を投げた……!? 大会後まもなく、捕手・北岡明は愛犬と共に刺殺体で発見される。 野球部員たちは疑心暗鬼に駆られるが、真犯人はいったい―。 長編青春推理。

なんとも気の毒な……。 誰が悪いわけでもなく、少しずつ歯車がずれてそうなってしまったという感じでしょうか。 武志の気持ちはわかりますが、「それはちょっと……」と思う部分がひとつだけありました。 何もそこまでしなくても、解決の方法は他にもあったのではないでしょうか。 東西電機爆弾事件の真犯人の気持ちもわかる気がします。 “あんな”過去があったら、確かに○○したくなることでしょう。 最終的には○○に至らなかったことは間違いではなかったと思います。 ひとりだけ、悪い人がいるとすれば○○でしょうか。 すべてはそこから始まったとも言えます。 悪気はなくても結果的にこういう結末を招いたことを一生忘れないで欲しいと思います。

 

「白馬山荘殺人事件」 (2008年1月)(Library)

1年前の冬、菜穂子の兄・公一が自殺したとされる白馬のペンション“まざあ・ぐうす”へ友人・真琴とやってきた菜穂子。 菜穂子は、兄の死に疑問を持っていた。 公一が死んでから届いたハガキには、「“マリア様は家に帰るのはいつか”調べて欲しい」と書かれていたからだ。 常連で、1年前と同じ宿泊客が泊まるペンションで、各室に飾られたマザー・グースの歌に秘められた謎を解くうちに、辿り着いた真相とは……。 暗号と密室の傑作本格推理。

マザー・グースの歌に関する暗号は、あまりにも難しすぎます……。 菜穂子や真琴に説明されても、「ええ? そうなの?」という感じ。 もちろん、自分で解くつもりなんてさらさらないので文句を言う筋合いではありませんが、この暗号を考え出した東野さんがスゴイと思います。 それに比べると、公一が死んでいた密室の謎はちょっと拍子抜けといか、「ええ! そんなのアリ?」という感じ。 でも、終わり方がスゴイ。 こうかと思えば実はこうで、さらにこういう経緯もあって……、という終わり方は、東野さんならではなのかな、と思いました。 こんな事件さえなければ、泊まってみたいペンションなのに、残念です(笑)。

 

「仮面山荘殺人事件」 (2008年1月)(Library)

森崎朋美は、結婚を間近に控え自動車事故で亡くなった。 その死から3ヶ月、恋人・高之、両親・伸彦と厚子、兄・利明、従妹・雪絵、伸彦の秘書・下条、雪絵の父の主治医・木戸、朋美の親友・桂子の8人が避暑のために森崎の別荘に集った。 そこへ、逃亡中の銀行強盗が侵入した。 恐怖と緊張が高まる中、殺人が起こる。 だが状況から考えると、犯人は強盗たちでは有り得ない。 では真犯人はいったい誰なのか。 7人の男女は疑心暗鬼にかられ、パニックに陥るが……。

うわあ、見事に騙されました! 「東野さん、それはあんまりですぅ」という感じ(笑)。 まあ、騙されたということ自体は著者の筆力が素晴らしいということの証明ですが、私にとって問題なのは真犯人の動機です。 真犯人が“あの人”なのはいいとしても、その動機がまったく理解できないし、腹立たしい限りです。 読み終えて「許せない!」と思ったのは、東野さんに対してではなく真犯人に対してでした。 この結末はぬるいとも言えますが、それ以上のことをしたら同じレベルに堕ちてしまうのでこれが限界なのかもしれません。 ぜひ舞台で観たい作品でした。

 

「十字屋敷のピエロ」 (2008年2月)(Library)

悲劇を呼ぶといわれるピエロの人形を購入した後、竹宮産業社長・竹宮頼子は十字屋敷と呼ばれる邸宅のベランダから身を投げて自殺した。 その後、夫・宗彦が社長に就任するが、秘書・理恵子とともに殺害される。 さらに、真相に近づいた大学院生・青江まで殺される。 果たして真犯人は……。

ピエロ(=人形)の視点から、犯行現場や目撃談を語るというのはあまりない手法だと思います(私が知らないだけかもしれませんが)。 どこにも偏ることなく、公平な立場で見たものをそのまま記述していますが、私は真相に気づくには至りませんでした……。 それにしても、この真相は後味がいいとは言えませんねえ。 まず○○の死の真相が許せません。 そもそもそこから始まるわけですが、「なぜそこまでするのか」と言いたくなります。 もちろん、そこまでしなければドラマにも小説にもなりませんが、まったく理解できません。 宗彦と理恵子の死に関しては、自○自○でしょう。 因○○○とも言いますね。 真犯人にも同情や共感できる部分はありませんでした。 人形師・悟浄が水穂に語った内容が本当の真相だとしたら、○○は気が晴れたのでしょうか。 ○○したい気持ちは理解できますが、それを果たした後、○○に何が残るのかと考えると、なんだか切ない気がします。

 

「学生街の殺人」 (2008年2月)(Library)

大学の正門が移転したため寂れてしまった旧学生街。 そこのビリヤード場で働く津村光平は、同僚の松木の部屋を訪ね、彼が殺されているのを発見する。 犯人は、その目的は? さらに、光平の恋人・広美までもが何者かに殺害され、しかもその現場は密室状態だった。 広美の妹・悦子とともに、真相を突き止めようとする光平だが……。

うわぁ、すごい真相。 “真犯人”の気持ちは、まったくわからないとは言いませんが、やはり身勝手な印象は拭えません。 結局、○友より○人を選んだということになりますよね。 それではあまりにも○○が気の毒です。 ○そうと思う前に、なぜ話し合おうとしなかったのか。 今まで育んできた○情はなんだったのか。 そんなことをして得たもので自分が幸せになれると思ったのなら、勘違いも甚だしいです。 ページ数が多く、なかなか読み進めませんでしたが、いろいろな謎が解明されるに従って、ぐいぐい引き込まれました。 これが○○、と思ったら、さらに裏には別の○○があって、という手法は、ミステリーではお約束かもしれませんが、その約束をきっちり果たしてくれた、という感じです。 個人的には、後味がいいとは言えないと思いますが……。

 

「むかし僕が死んだ家」 (2008年3月)(Library)

7年前に分かれた恋人・沙也加からの電話で、「一緒に長野にある“幻の家”に行って欲しい」と頼まれた“私”。 沙也加の、「私には幼い頃の記憶がない」「あなたにしか頼めない」という言葉、そして手首の傷により、一緒に行くことを決意するが、そこで二人を待ち受けていたのは、恐るべき真実だった―。

年齢にもよると思いますが、幼い頃の記憶は少しずつ忘れていくものだと思います。 特に印象深かったことくらいは覚えていても、大概のことは忘れていても当然でしょう。 ただ、沙也加の場合はある理由から、自ら記憶を封印していたのでした。 その理由の最たるものは考えたくもない真相でしたが、沙也加自身が娘を○○しているということを考えれば、いくらか想像はつくものでした。 それでもやはり許せないのは沙也加の○○。 あんなやつは○で当然です。 巻き添えを食った○○は気の毒だったし、結果的に「それでよかった」とは言えない事態に陥ってしまったのが残念ですが。 途中で明かされる“私”の過去も、大きなお世話だとは思いますが同情を禁じ得ないものでした。 中学生の頃に“そんな”やり取りがあれば、下手をすれば○○に走ったり、余を儚んで○○したりしてしまった可能性もあります。 “私”は違う方向へ走り、沙也加と出会ったわけですが、それが救いになったかどうかはわかりません。 当時は“同士”だと思っていたし、沙也加が記憶を取り戻す旅に同行もしましたが、結果的には○れたままになってしまっています。 いつか二人が再会し、幸せになれればいいと思いました。

 

「流星の絆」 (2008年3月)(Library)

深夜、こっそり流星を見に行っていた三兄妹・功一、泰輔、静奈。 彼らが家に戻って来ると、両親は惨殺されていた。 流星に仇討ちを誓い合った三人は、14年後、あるきっかけにより殺人犯と思われる人物を見つけるが……。

帯の惹句に、“息もつかせぬ展開、張り巡らされた伏線、驚きの真相、涙が止まらないラスト”と書かれていますが、まさにその通りでした。 週刊誌に連載されていただけあって各章が短く読み易かったし、「これは何かある」とか「ああ、あれがこうなっていたのね」など伏線を見つけたり気づかなかったり、「○○は○○人じゃないな」と思ったら案の定そうでしたが「じゃあ○○人は誰なんだ」と思ったら思い浮かばなかったり、結局判明した○○人の動機がなんとも言えないものだったり。 ラストが、救いのないものでなくて本当によかったです。 ○○たちは、きちんと罪を償って、本当の幸せを手にして欲しいと思いました。

 

「黒笑小説」 (2008年3月)(Library)

ある日突然、丸いものがすべて巨乳に見えるようになってしまった私は……(「巨乳妄想症候群」)。 メル友に会うため、写真とのギャップを埋めようとする遥香だが……(「奇跡の一枚」)。 苦節30年、売れない作家・寒川が勇んで望んだ初めての選考会の実体は……(「選考会」)。 俗物根性丸出し(本人談)のベストセラー作家が描く、黒い笑いの短編集。

「もうひとつの助走」「線香花火」「「過去の人」「選考会」は、出版業界の黒い部分を描くような内容で、読んでいてうっすら寒くなった気がしました。 「これって実話? 脚色はされているだろうけど、少なくとも本当の部分もあるよね。 怖……」という感じ。 一番怖かったのは「過去の人」の最後の言葉。 出版社サイドは本当にこんなふうに思っているのでしょうか……? 全然思っていないとは言えないかもしれないところが、怖いところです。 「ソンデレラ白夜行」も凄い。 このぐらいでなければ、世の中を渡っていけないのかもしれませんね。 王子が、二人の太った娘たちをみて従者に言ったひと言も辛辣でした。 キツイ……。 「笑わない男」の最後のひと言もキツイ。 慎吾と拓也は立ち直れないでしょうね……。

 

「夢はトリノをかけめぐる」 (2008年3月)(Library)

2006年2月18日、作家・東野圭吾は冬季オリンピック観戦ため、成田からトリノへ旅立った。 しかし、前日、直木賞の授賞パーティーで朝まで騒いでいたため一睡もできず車に乗せられる羽目に。 しかも、隣にはなぜか人間の姿になった愛猫・夢吉が。 担当編集者・黒衣(くろこ)くんとともに、3人(?)のトリノ・オリンピック観戦旅行が始まった―。

図書館の請求記号で言うと、913.6(=F、小説)かと思いきや、915.6(=紀行・案内紀)でした。 だって、夢吉が人間になったりしているからてっきりFICTIONかと……(笑)。 個人的には、冬季夏季に限らずオリンピックには感心はありません。 ワールドカップや世界選手権などにも興味はありません。 もちろん、日本チームや日本人が好成績を収めればそれは喜ばしいことですが、期待して見ているとたいていコケるので、最近は結果だけを新聞でチェックする程度です。 そんな中、最近のフィギュアスケートは見所がありますね。 個人的に応援しているのは安藤美姫選手。 東野さんもおっしゃっているように、“あの”プロポーションがなんとも言えません(おっさんみたい……)。 黒衣くんが「○○選手のあの表情がダメなんです」と言っていましたが、実は私もなんです。 ○○選手もあんまり……。 要するに、安藤選手ががんばってくれればいいかな、ということで。 冬季オリンピックの種目にはまったく疎く、「こんなものもあるのか」と驚きましたが、中でもすごいなと思ったのはバイアスロン。 なぜクロスカントリーと射撃を一緒にやるのかは謎ですが、中継があれば見てみたいと思いました。 生涯でスキー経験5度のみという私は、ウインタースポーツをやることはないと思いますが、観戦だけならしてみようかなと思いました。 それにしても、東野さんは本当にウインタースポーツがお好きなんですね。 くれぐれも怪我をしないよう気をつけて、スノボやスキーに励んで欲しいと思います。

 

「ブルータスの心臓 完全犯罪殺人リレー」 (2008年3月)(Library)

産業機器メーカーで人工知能ロボットの開発を手がける末永拓也は、将来を嘱望される拓也はオーナーの末娘・星子の婿養子候補になっていた。 しかし、恋人・康子に妊娠を告げられ困惑する。 そんな中、星子の腹違いの兄・直樹から、同僚の橋本とともに康子を殺害する計画を持ちかけられ、大阪→名古屋→東京を結ぶ完全犯罪殺人リレーがスタートした―。

「邪魔になったから殺してしまおう」という発想が信じられません。 確かに、康子の行動も誉められたものではありませんが、「殺さなくて済む方法を考えればいいのに」と、当事者でない私は思いました。 末永の人間に対する考え方にもぞっとしました。 育ってきた境遇を考えれば気の毒だと思う部分もないわけではありませんが、走る方向が間違っていたと思います。 まあ、確かにいます、“ああいう”考え方の人はどこにでも。 でも、どんな便利なものでも創るのも動かすのも直すのも人間なのだということを忘れてはいけないと思います。 結末は、自○自○、因○応○と言えるものだと思いますが、なぜそうなったかを理解していたかどうか……。 序章の事件の真相は、なんとも言えない切なさややりきれなさを感じました。 こちらも、もっと別の方法があったのではないかと思うと残念です。

 

「11文字の殺人」 (2008年4月)(Library)

推理作家の“あたし”は、恋人であるフリーライターの川津雅之が「狙われている」と打ち明けられる。 しかし、詳しい話をしないまま彼は殺されてしまった。 その後、彼と接点のあったカメラマン・新里美由紀も殺害される。 友人の編集者・冬子とともに、真相を究明しようとする“あたし”だが……。

漠然と、真犯人は○○かな、とは思いましたが、“そんな”真相だったとは……! 同情とか共感とか、できるようなできないような。 ある部分ではわかる気もするし、ある部分では「なぜ?」と思うし。 一番許せないのは○○。 自分の手は汚さずに、結果的には望むような事態になっているというのは運がいいのかただズルイだけなのか。 そんな人物でも、○は大事なんですね。 もちろん、○にとっても大事な人物だし。 最後に、“あたし”は「もう何も起こらない」と言っていますが、この先ずっと何も起こらないのでしょうか。 ○が真相を知ることは必ずしもいいことではありませんが、この場合、知らないことが幸せだとは言い切れません。 罪は償わなければならないもののはずだから。 償えない罪もあると思いますが……。

 

「回廊亭殺人事件」 (2008年4月)(Library)

地元では“回廊亭”として有名な旅館に、ひとりの老婆・本間菊代がやってきた。 一ケ原家の当主・高顕が亡くなり、遺言状が公開される席に参加するためだ。 しかし、それは本物の菊代ではなく、高顕の秘書・枝梨子が変装した姿だった。 半年前、火事で怪我を負った枝梨子は、ある計画を実行しようとするが……。

枝梨子の気持ちはわかります。 “あんな”目に遭えば誰でも○○したいと思うでしょう。 一番許せないのは○○。 最初から枝梨子を○していたなんて。 自分が同性だからわかるのかもしれませんが、仕事面では有能なのに容姿に自信がない女性を“あんな”ふうに扱うなんて許せません。 ○○が最後に“ああいう”仕打ちを受けたのは自業自得・因果応報です。 テレビドラマの2時間サスペンスものあたりで映像化されたら、ぜひ観たいと思いました。

 

「怪しい人びと」 (2008年4月)(Library)

“俺”は、同僚に頼まれてデート用に部屋を貸すことにしたが……(「寝ていた女」)。 “俺”が警官に追われて逃げ込んだのは、ある因縁のある人物の家だった(「もう一度コールしてくれ」)。 本社の係長の死体が発見されたのは、密室状態の向上の休憩室だった(「死んだら働けない」)。 新婚旅行中の“私”は、妻が前妻との娘を殺したのではないかと疑っていたが……(「甘いはずなのに」)。 大学一年の“僕”は、一人旅である灯台へ行くが……(「灯台にて」)。 友人から届いた結婚報告の手紙には、見たこともない人物が写っていた(「結婚報告」)。 妻と一緒にコスタリカへバードウォッチングへでかけた“僕”は、現地で強盗に遭い身ぐるみをはがされてしまうが……(「コスタリカの雨は冷たい」)。 全7編の短編集。

一番印象に残ったのは「甘いはずなのに」。 真相はなんとも言えないものでしたが、これを機にやり直すことができるはずです。 老夫婦に出会ったのは偶然ではなかったと思いたいです。 「もう一度コールしてくれ」は、長編としても展開できそうな内容でした。 “俺”の気持ちはわからなくはないけど、自分の運命は自分で切り拓かないとだめだな、と思いました。 なんでも他人のせいにしていたら、楽かもしれないけど前には進めないんだな、と。

 

「宿命」 (2008年5月)(Library)

医者を目指していたが、家庭の事情から警察官への道を選んだ勇作。 学生時代のライバル・晃彦と10年ぶりに再会したが、ふたりは刑事と容疑者という立場だった。 しかも、晃彦は勇作の初恋の女性を妻にしていた。 幼馴染みのふたりの宿命とは……。

すごい真相。 勇作と晃彦の宿命とは“そういう”ことだったんですね。 ヒントのすべては記されていたはずですが、まったく想像していませんでした。 確かに、ラスト数ページを先に読んでしまったらもったいないです。 “こんな”宿命を背負って生まれてきたふたりですが、これからはいい関係を築けるでしょう。 勇作のかつての恋人であり、現在は晃彦の妻である美佐子は、正しい選択をしたと思います。

 

「ウインクで乾杯」 (2008年5月)(Library)

小田香子は、コンパニオン仲間の絵里が毒入りのビールを飲んで死んだ事件を、隣室に住む刑事・芝田とともに調べ始める。 やがて、絵里の友人・由加利も殺害され、さらに香子にまで魔の手が迫る。 香子と芝田が辿り着いた真相とは……。

20年前の作品ということで、コンパニオン、ボディコン、カセットテープなど、ちょっと懐かしい単語が登場しています。 絵里の恋人・伊瀬が残したメッセージですが、絵はともかく、もう一方は今となっては誰も気付かないかもしれません。 そもそも“それ”自体を知らない人もいるでしょうし。 当時読んでいれば、もっと感慨深いものになっていただろうと思うとかなり残念です。 高見が○○○じゃなくてよかった。 それでは香子があまりにも可哀相です。 そもそもは「香子の夢」という演歌のようなタイトル(失礼!)ですが、身近にある大切なものに早く気付いてくれるといいな。

 

「変身」 (2008年5月)(Library)

平凡な青年・成瀬純一は、居合わせた不動産会社で事件に巻き込まれ、 拳銃で頭を撃たれるという被害に遭ったが、世界初の脳移植手術を受けた。 それまで絵を描くことが好きだった彼は、手術後徐々に性格が変わっていくことに気がついた。 自己崩壊の恐怖に駆られた彼は、ドナーの正体を探り始めるが……。

脳移植手術の理由が“そんな”ことだなんて。 それでは実験台のようになった純一が怒るのも当然です。 しかもドナーが○○○だなんて。 いくら10万分の1の確率でも、倫理的、人道的には許されないことではないでしょうか。 結局、移植チームは純一のことを助けたいわけではなく、単なる被験者としか見ていなかったことが残念でなりません。 “こんな”ことをされたら、誰も信用できなくなって当然です。 唯一の救いは、純一の恋人・恵の存在ですが、“ああいう”形ではなく、もっと自然な形で結ばれたらよかったのに、と思うと残念です。 最後の最後には、堂元も医者として、人間として正しい考え方を取り戻してくれたのでよかったと思いますが。 “人間の死”とは何か、という大きなテーマを残したまま終わっていますが、永遠に解決しない問題なのだと思います。

 

「同級生」 (2008年5月)(Library)

高校三年生の宮前由希子が交通事故死したとき、彼女は同級生・西原荘一の子供を身ごもっていた。 それを知った荘一は、自分が父親だと周囲に告白し、事故の真相を探り始める。 事故当時、生活指導の女教師が現場にいたであろうことを突き止めたが、彼女は教室で絞殺されてしまう。 やがて真相が明らかになるとき、荘一と同じ野球部の川合やマネージャーの薫にも秘密にしていることも明かされることになり……。

高校が舞台、野球部、ということもあり、「魔球」とテイストが似ているかな、と思いました。 由希子が交通事故死した真相や、そこから派生する事件の真相など、「そんなことで……」と思わなくもありませんが、当事者にとっては重大問題なのでしょう。 結局、諸悪の根源は○○だと思いますが、教師として、人間として、「それはないんじゃない?」と首を傾げたくなりました。 他にも、大人の事情に子供が振り回されることがあり、仕方がないとも言えるし、理不尽だなとも思えるし、なんとも言えない気分になりました。 もちろん、大人だからなんでもできるというわけではありませんが、子供だからこそ抗えない事情があるというのも哀しいことだな、と思いました。 荘一や緋絽子が思うとおりに生きられるようになるといいと思います。

 

「虹を操る少年」 (2008年5月)(Library)

幼い頃から天才的な能力を発揮していた光瑠。 高校生になった彼は、“光”を“演奏”することでメッセージを発信し、多くの若者たちがそれに感応し集うようになった。 しかし、その力の大きさを知った大人たちの魔の手が忍び寄り……。

一番気の毒だったのは頼江だと思います。 子供を思う気持ちを利用されて“あんな”目に遭わされるなんて。 政史が、もう少し早く自分の能力に気付いていれば、と思うと残念です。 もちろん、政史自身がそう思っているでしょうけれど。 輝美も、自分の力で人生を切り拓いていけそうなのでホッとしました。 希望の持てるエンディングでよかったです。 若者が“光楽”に感応しやすい、というのはわかるような気がします。 私が今“光”の“演奏”を見ても、何も感じられないでしょう。 でも、見てみたい気はしますね。 もしかしたら今現在発せられている“光”に気付いていないだけかもしれませんが……

 

「パラレルワールド・ラブストーリー」 (2008年5月)(Library)

大学院在学中に、山手線を利用していた敦賀崇史。 ある時、向かい側を走る京浜東北線の車内に大学生らしき女性を見かけ、気にかけるようになる。 その女性・津野麻由子と再会したのは、親友・三輪智彦が「恋人を紹介する」と言った席だった。 親友の恋人と知りながら、自分の気持ちを抑えられなくなった崇史は……。

すごい。 理系の頭脳の持ち主でなければ、思いつかないであろう内容です。 それでいて、「読んでいてもさっぱりわからない」というほど難し過ぎないところがまたすごい。 もちろん、わかったような気になっているだけですけど(笑)。 崇史と麻由子の最初の出会いが“ラブストーリー”だなぁ、という感じ。 個人的には“こういう”出会いはツボですね。 “運命”と言えると思います。 その運命がなぜ狂ってしまったのか。 それもまた運命なのでしょうか。 そう考えると、崇史や麻由子よりも智彦が気の毒な気がします。 最後に選んだ手段がまたすごい。 篠崎のことがあるので当然かもしれませんが。 「研究って怖いな」というのが正直な感想です。 医療現場など、必要不可欠な実験や研究はあると思いますが、極秘裏に“こういう”ことが為されていると思うとどう反応していいのか迷いますね。 何かを犠牲にしなければ得られないものもあるとは思いますが、誰がそれを認めるのか、許すのか、それが問題かもしれません。

 

「浪花少年探偵団」 (2008年6月)(Library)

竹内しのぶは、25歳独身、大阪大路小学校6年5組の担任教師。 ちょっと見は美人だが、口も早いし手も早い。 そんな彼女のクラスの子供の父親が殺され、事件解決のためにしのぶセンセと教え子たちが大活躍する(「しのぶセンセの推理」)。 その他、刑事・新藤やしのぶセンセのお見合いの相手・本間が登場し、次々と事件を解決していく全5編の連作短編集。

面白い! しのぶセンセがカッコイイ。 小学生時代、こんな先生に教わっていたら間違った道へは進まないでしょうね。 個人的には本間より新藤のほうが好きかな。 本間は他にいくらでも相手を見つけられそうだけど、新藤はこれしかない、という感じだし(笑)。 内容としては、「しのぶセンセのお見合い」が一番好きです。 実は本間が○○なのでは、と思った人は多いと思いますが、実は私もそう思いました。 ○○どころか、かなりいい人で、その後レギュラー出演するようになるとは思ってませんでしたけど。 いい人といえば、中田教頭が思いの外(失礼)いい人だったのも印象に残りました。 しのぶにお見合いの話を持ってきたのも彼だし、卒業式のエピソードもよかったです。 しのぶが新藤と本間のどちらを選ぶのかなど、気になる点がたくさんあるので、早く続編を読まないと!

 

「しのぶセンセにサヨナラ 浪花少年探偵団・独立篇」 (2008年6月)(Library)

西丸商店VS松本商会の野球の試合に、助っ人として参加したしのぶセンセ。 彼女の気迫に目をつけた西丸仙兵衛は、彼女を自分の会社に入れようとするが……(しのぶセンエは勉強中))。 その他、内地留学を終えたしのぶが、かつての教え子・鉄平や刑事・新藤らとともに事件を解決する全6編の連作短編集。

しのぶセンセが帰ってきました! 一番印象に残ったのは「しのぶセンセの引っ越し」。 真犯人の動機は共感できるものだったし、終わり方がよかった。 もちろん、○○的にはよろしくない終わり方かもしれませんが、個人的には「○○さん、ステキ!」という感じ。 実際にはこんなことはあり得ないのかもしれませんが、せめておはなしの中でくらい許されてもいいんじゃないかな、と。 著者のあとがきによると、しのぶセンセシリーズはもうおしまいということですが、当時から十数年経ってまた書きたくなった、なんてことになるのを期待しています。

 

「天空の蜂」 (2008年7月)(Library)

錦重工業航空機事業本部の設置された小牧工場の格納庫から、超大型特殊ヘリコプターが奪取された。 そのヘリが無人操縦でホバリングしているのは稼働中の原子力発電所の真上。 犯人からの連絡によれば、ヘリには爆薬が積まれており、要求を飲まなければヘリを落下させるという。 しかもそのヘリには子供がひとり乗っていた。 政府は犯人の要求に従うのか。 日本が抱え続ける最大級の国家危機を描くクライシス・サスペンス。

真犯人の動機には、残念ながら共感するまでには至りませんでした。 たぶん、“そういう”立場になってみないとわからないのかもしれません。 日本国民としてそれではいけないのかもしれませんが、言い方は悪いですが“対岸の火事”として捉えてしまう傾向があるかもしれません。 この結末は、この時点では「これしかない」というものだったと思いますが、いつまで経っても答えの出ない問題なのかもしれません。 実際に“こんな”ことが起こるとは思いたくありませんが、あり得ないと言い切れない世の中なのが恐ろしいです。

 

「時生」 (2008年7月)(Library)

不治の病を患う息子・時生に最期の時が訪れようとしているとき、宮本拓実は妻・麗子に、かつて出会った少年との思い出を語り始める。 どうしようもない若者だった拓実は、トキオと名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴を探して大阪へ行った。 その際、トキオは拓実にどうしても寄って欲しいところがあると言い出し……。 過去、現在、未来が交錯する物語。

序章の段階でなぜか泣けました。 自分には○○がいませんが、宮本夫妻の苦しみや悲しみがわかるような気がしたからです。 実際には想像するだけなので、わかったことにはならないと思いますが。 もちろん、時生の気持ちも想像することしかできませんが、彼は生まれてきてよかったと思っていると思います。 “ああ”までして拓実を助けたのだから。 拓実の人生もいろいろあって大変だったとは思いますが、トキオのおかげで真っ直ぐに生きることができてよかったと思います。 時生はこの世から去ってしまいましたが、拓実と麗子の心の中でいつまでも生き続けているのと同様に、私たち読者の心の中にも永遠に生き続けると思います。

 

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