五十嵐貴久 (いがらし・たかひさ)

「パパとムスメの7日間」 (2006年11)

イマドキの女子高生・小梅16歳と、冴えないサラリーマンのパパ47歳が、地震による列車事故で人格が入れ替わってしまったからさあ大変! 口も利かないほど大嫌いなパパの身体で会社へ行く小梅。 最愛のムスメの身体で大好きな先輩とデートするパパ。 いったいどうなってしまうのか!?

正直に言うと、“入れ替わりモノ”とか“乗り移りモノ”は苦手で、進んで手を出すことはありませんでした。 実は今作がそういう内容だとは知らずに読み始めたのですが、まさか途中で止めるわけにもいかず、しかも入れ替わるまでの話は面白かったので、とりあえず最後まで読むことにしましたが、読んで正解でした。 パパとムスメの人格が入れ替わるなんて、列車事故に遭ったからってそうそうあることではないと思いますが、本当にそうなってしまったら生活していくのがどんなに大変かよ〜くわかりました(笑)。 今作は、ただのドタバタコメディーではなく、“パパになったムスメ”と“ムスメになったパパ”が、お互いの現状を理解するという点で、親子愛を描いています。 特にカッコよかったのが“パパになったムスメ”(=パパの身体に入ってしまった小梅)が、会社のプロジェクトを根底からやり直させてしまったこと。 確かに、「女子中高生がターゲットのフレグランスの販売戦略を、70歳前後のジイさんが許可を出すってどうなのよ!?」と思いました。 会社には会社の、オトナにはオトナの、もちろんジョシコーセーにはジョシコーセーの都合があるのはわかりますが、やはり“相手のことを考えて”というのがどの局面においても一番大事なのではないでしょうか。 

 

「交渉人遠野麻衣子・最後の事件」 (2007年10)

銀座二丁目交番、桜田門交差点、鎌倉新宿ライナー、二階建てバス……。 都内の各所で爆弾事件が発生する。 シヴァと名乗る犯人の要求は、かつて2,000人もの死傷者を出した“宇宙真理の会地下鉄爆破テロ事件”の首謀者・御厨徹の釈放だった。 犯人から警視庁との“交渉人”として指名されたのは、広報課所属の遠野麻衣子警部だった。 限られた時間の中で真犯人を突き止め爆弾を発見しなければ、東京は未曾有の大惨事に見舞われることになる―。 交渉人と真犯人との行き詰る4日間を描くかつてないスケールのサスペンス小説。

テロは卑劣な行為だと思いますが、この真犯人もひどい人間でした。 そもそもの背景を考えれば同情の余地がないとは言えないかもしれませんが、やったことはやはり許されないことです。 その気持ちを別の方向へ向けてくれれば、と残念でなりません。 反対に、麻衣子は“いい仕事”をしたと思います。 石田警視正の教えを守って冷静に判断を下す、これはなかなかできることではないと思います。 まあ、それが仕事なので「やってもらわなきゃ困る」とも言えますが。 警察組織の嫌な部分が浮き彫りになり「またか」と思いましたが、結局は麻衣子の力で大惨事を未然に防げたのだからよかったです。 もちろん、何万という現場の警察官の力もあってこそなのは言うまでもありません。 その人たちを動かすのは結果的に“上の人”なので、一概に「上はダメ」とは言えませんが。 “ああいう”終わり方ということは、当然○○があるということだと思われます。 麻衣子が今度は何をやってくれるのか、楽しみにしたいと思います。

 

「For You」 (2008年4月)

出版社で映画雑誌の編集の仕事をしている佐伯朝美。 叔母・冬子が急死し、遺品の整理をしていると、彼女の日記帳が見つかった。 そこには30年前の彼女の青春時代が綴られていた―。 心を揺さぶる純愛物語。

冬子と同年代の私としては、冬子の高校時代の話に「そうそう、こんなことあったあった」と頷いたり「こんな思い出があっていいなぁ」と羨ましがったりしながら読み進めていました。 特に心を惹かれたのは、冬子と藤城の間に流れる空気。 “運命の赤い糸”ってあるんだなぁ、としみじみ思いました。 “こんな”経験をしてしまったら、その後の人生は決まってしまいますよね。 たとえどちらかが○んでしまったとしても、お互いが一生でひとりの人になると思います。 幸い、冬子には○○がいたわけだし。 藤城の秘密が“ああいう”ことだとは思いませんでした。 確かに、まったく問題がないとは言い切れないと思いますが、それを越える勇気や愛情があれば、誰も止めることはできないと思います。 朝美と草壁も幸せになれることを願います。

 

「年下の男の子」 (2008)

銘和乳業広報課で働く川村晶子は37歳独身。 それだけは絶対にしない、と思っていたがマンションを購入。 その契約翌日、仕事上のトラブル巻き込まれ、ピーアール会社の23歳の契約社員・児島くんとふたり、徹夜で作業を敢行する羽目に。 その後、晶子に何かと誘いをかけてくる児島だが、ふたりの年齢差は14歳。 ふたりの関係はいったい……? 

“こういう”終わり方でよかった〜。 確かに気になる年齢差ではありますが、晶子が大事なことに気付いてくれて本当によかったです。 児島くんもいい加減な気持ちじゃなく、ちゃんと先のことも考えてくれていて本当によかった。 できれば○○した後の話も読んでみたいです。

 

碇卯人 (いかり・うひと)

「相棒 警視庁ふたりだけの特命係」 (2007年10)(Library)

警視庁生活安全部に属する特命係。 そこにいるのは杉下右京警部ただひとり。 “人材の墓場”“陸の孤島”などと呼ばれる部署で、「杉下の下についたものは必ず警視庁を去る」という逸話まであった。 そこへ配属になったのは亀山薫巡査部長。 切れすぎる頭脳の持ち主でありながら変わり者の右京に最初は戸惑いながらも、熱血漢で人情家の薫は惹かれるものを感じ、次第に打ち解けていく。 様々な難事件を解決していく特命係の、連続ドラマ化以前のプレシーズン3話をノベライズ。

第1話「刑事が警官を殺した!? 赤いドレスの女に誘惑され…死体に残る4−3の謎とは?」は「コンビ誕生」に、第2話「恐怖の切り裂き連続殺人! サイズの合わないスカートをはいた女の死体…」は「華麗なる殺人鬼」に、第3話「大学病院助教授、墜落殺人事件! 日付の違う乗車券の謎と、死体が語る美人外科医の秘密」は「神々の巣窟」に、それぞれタイトルが変更されていました。 まあ、そのままでは長くて仕方ありませんが(笑)。 どれも脚本と映像を損なうことなくノベライズされていてよかったです。 やはり映像→小説なので、先に映像を観てから読んだほうが、より楽しめると思いました。 真犯人に少しでも共感できると感じたのは第3話。 もちろん、してはいけないことをしてしまったわけですが、そういう動機ならわかるかな、と。 でも、右京さんも言っていたように、そうすることでどうなってしまうかをよく考えないといけませんね。 薫が“右京さん”と呼ぶようになった経緯が明かされていますが、「そういうことだったのかあ」と思いました。 ○○=相棒、ですね。 それにしても、表紙のイラストはちょっと微妙。 藤田新策さんの絵は好きですが、右京さんがちょっと老け過ぎでは……?(笑)

 

「相棒 season1」 (2008年1月)(Library)

警視庁特命係に所属する杉下右京と亀山薫。 贈収賄、警察の不祥事、少年犯罪など、あらゆる事件に首を突っ込み、右京の推理と薫のヤマ勘で次々と事件を解決に導く。 そんな中、右京が狙撃される事件が起こる。 15年ぶりに明かされる右京の過去、特命係の秘密とは……。 テレビドラマ「相棒 season1」をノベライズ。

ドラマのどの回も好きですが、ノベライズされてもいいものはいいですね。 一番好きなのは第5話「殺しのカクテル」、ドラマでは第7話「殺しのカクテル」です。 なんといっても綺麗なお話しです。 殺人事件が起こるわけですから、綺麗とばかりは言えませんが、動機やそれが解明されるに至る流れが綺麗。 真犯人が悪い人でなくてよかったです。 美和子の叔母・アキコが浮世離れしていていい雰囲気を醸し出していました。 真犯人の動機としては納得できる、というか「○されても仕方ないんじゃないの」と言いたくなるのは第4話「小さな目撃者」、ドラマでは第5話「目撃者」。 もちろんその解決方法は間違っていますが、被害者は自業自得だと私は思います。 薫が“ある人物” に会わせたため、真犯人は自分のしたことを反省や後悔したと思いますが、その後どうなったのか、再登場を願います。

 

「相棒 season2()」 (2008年3月)(Library)

警視庁特命係が解散し、右京は休職してロンドンへ旅立ち、薫は運転免許試験場へ異動となった。 そんなある日、“平成の切り裂きジャック”こと死刑囚・浅倉が脱獄した。 その目的は、右京と薫にある女の逮捕を依頼するためだった―。 テレビドラマ「相棒 season2」第1話から10話までをノベライズ。

どれも楽しめましたが、特に印象に残ったのはドラマでは第8話、本書では第7話の「命の値段」。 右京が言うとおり、真犯人の動機は人を殺す理由にはならないかもしれませんが、保険会社の人間に“あんなこと”を言われたら、カッとならないほうがおかしいのではないでしょうか。 まったく救いのない終わり方ではなかったのはよかったです。 ドラマでは第10話、本書では第9話の「殺意あり」も、印象深かったです。 真犯人の動機には、共感させられるものがありました。 ただ、○○という職業上、やっていいことと悪いことはありますよね。 もちろん、人を○すのにいいも悪いもないとは思いますが。 ○○したいという気持ちは理解できても、もっと他の方法でなんとかならなかったのかと思うと残念です。

 

「相棒 season2()」 (2008年5月)(Library)

神隠しにあった子供の居場所を突き止めたり、16人もの子供が同時に誘拐された事件の謎を解いたり、飼い犬が誘拐された真相を探り当てたり、相変わらず大活躍の右京と薫。 そんな中、死刑囚・浅倉の死の真相とその裏に隠された陰謀が発覚し……。 テレビドラマ「相棒season2」第11話から21話までをノベライズ。

今作も、どの作品も楽しんで読めましたが、特に印象に残ったのはドラマでは第20話、本書では第18話の「1/2の殺意」。 双子に限らず、きょうだいや親子など家族の繋がりってすごいな、と実感しました。 みんながみんなそうなわけではありませんけどね。 ドラマの第1516話で、本書の第14話「雪原の罠」も印象深かったです。 個人的にはツボの○○がテーマですが、なんとも言えない切ない展開でした。 どちらにも感情移入できてしまうので、どちらを応援することもできず、ただ哀しいだけでした。 ○人という罪は償えるのか、という大きな問題を投げかけた内容だったと思います。

 

伊坂幸太郎 (いさか・こうたろう)

「魔王」 (200511)

自分が、ある不思議な力を持っていると気づいた主人公・安藤。 今をときめく政治家・犬養によって変えられようとしている時代の流れを正そうと、その能力を駆使して立ち向かうが……(「魔王」)。

安藤の弟・潤也は、兄が亡くなってから身に付いたと思われる、ある不思議な力を利用して、莫大な金を得ようとする。 その目的は……(「呼吸」)。

私にとって初の伊坂作品でしたが、ミステリーではありませんでした。 直木賞候補にも挙がったことのある方で、どちらかというと、そのような内容の作品かと思われます。 それにしても、A〜とかC〜とかの国を、名指しで書いてしまうのは凄いですね。 小説なので、あくまでもフィクションではありますが、事実も織り交ぜてあるようで、ある意味怖かったです。 「ファシズムや憲法はテーマではなく、かといって小道具や飾りでもない」とあとがきに記されていますが、それらについて、十分考えさせられる内容でした。

 

石持浅海 (いしもち・あさみ)

「人柱はミイラと出会う」 (2007年6月)

一木慶子の家にホームステイしている、アメリカからの留学生・リリー・メイスは、不思議な風習を目にした。 新しい橋を架ける際、工事の安全を願って地下に“人柱”を閉じ込めるというのだ。 「現代日本で今でもそんな風習が?」と驚くリリーだが……。 非“日常”の日本を描く全7編の連作ミステリー。

初の石持作品でしたが、難しい推理などはなく、結構楽しく読めました。 建築物を造る際、神様と契約する“人柱”、政治家の下働きをする “黒衣(くろご)”。既婚女性が歯を黒く染める“お歯黒”、その年には一年間丸々仕事をしない“厄年”休暇、鷹匠が訓練した鷹を犯人逮捕に役立てる警察“鷹”の制度、物忘れを増長させると言われる“ミョウガ”、地方自治体の首長が、ひと月毎に地元と東京を行ったり来たりする“参勤交代”。 こんな風習を目の当たりにしたら、リリーじゃなくてもびっくりします(笑)。 ちょっと「いいなあ」と思ったのは厄年休暇。 丸々一年仕事をしなくていいなんて、なんて素敵な発想でしょう! 既存の風習から現代日本での風習に置き換えるという発想自体が面白かったです。 残念だったのは「ミョウガは心に効くクスリ」で、そもそもの事件が○○していないこと。 大量のミョウガ送られてきた理由は比較的簡単に想像がつきましたが、どうせなら○○○○事件のほうを解決して欲しかったです。 アメリカでの、リリーと東郷のその後のお話があればいいのに、と思いました。

 

稲見一良 (いなみ・いつら)

「セント・メリーのリボン」 (2006年3月)(Library)

失踪した猟犬探しを生業とする探偵・竜門卓。 ある日、連れ去られたと思われる盲導犬の捜索依頼が舞い込んだ。 相棒の猟犬・ジョーと共に調査を進め、犬を連れ去った人物を特定するが、そこにはある事情が……(表題作「セント・メリーのリボン」)。 “男の贈り物”をテーマとした、全5作収録の珠玉の作品集。

「焚火」は、もう少し長い作品として読めたらもっと良かったのにと思いました。 “おれ”が追われる理由になった女性との経緯や、老人の過去など、知りたいことはたくさんあります。 ただ、それらを削ぎ落として書かれた文章だからこそ、いいのかもしれませんが。 「花見川の要塞」はファンタジーとも言える作品で、戦争下の動物たちを……という件でうるっと来ました。 「麦畑のミッション」も戦争がテーマですが、あれで終わってしまうなんて! 最後にどうなったか気になります。 「終着駅」も、続きが気になる終わり方でした。 雷三は夢を叶えたのでしょうか。 「セント・メリーのリボン」は、“男の贈り物”としては、最上級なくらいキザなものでした。 でも、贈り物を受け取ったハナは、最上級に喜んだと思います。

 

「猟犬探偵」 (2006年9月)(Library)

傷ついたトナカイとそのトナカイに自分を重ねて見ている子供(「トカチン、カラチン」)、人気のない倉庫に隣接された場所で飼われていたワイマラナー(「ギターと猟犬」)、薬殺されようとしている元競走馬とその馬を連れて逃げた厩務員(「サイド・キック」)、依頼者の隣人が世話をしていたチェスピーク・リトリーバー(「悪役と鳩」)。 猟犬専門の探偵・竜門卓が、専門もそれ以外も依頼を引き受けて東奔西走する。 「セントメリーのリボン」から連なる感動の連作短編集。

“男の美学”を感じますねえ。 自分の信念に忠実に行動する竜門。 その信念がまた固いというか古いというか。 もちろん、そこがいいんですけどね。 どれも心に響いたけど、一番印象に残ったのは「サイド・キック」。 自分が手塩にかけた馬を、確信もない伝染病よばわりで薬殺されそうになったときに、老厩務員が取った行動は“すごい”の一言。 世間的には誉められたことではないかもしれませんが、個人的には応援しちゃいますね。 競走馬調教所のオーナーの娘・鈴子(れいこ)もカッコイイ。 父親に似なくてよかった(笑)。 「悪役と鳩」のラストはちょっと可哀相。 すべてハッピーエンドでは嘘くさいかもしれませんが、せめてもう少し違う方向でのアンハッピーエンドでもよかったのに……。

 

「男は旗」 (2007年4月)(Library)

かつて“七つの海の白い女王”と謳われたシリウス号は、客船としての使命を終え、現在は船上ホテルとして第二の人生を送っている。 ところが経営難から悪徳企業に買収される羽目になってしまう。 しかし、ひと癖もふた癖もあるクルーたちは納得するはずもなく、ある行動に出る。 それは……。 爽快かつファンタジックな冒険譚。

まず視点に驚きました。 誰の語りになっているのかと思いきや……。 「日本語がわかるのか?」という感じ(笑)。 それだけでも充分楽しめるくらいですが、内容もよかったです。 ただ、どちらかというと男性読者向きかな、という気はしました。 前編「プレス・ギャングの巻」には冒険が始まるまでが、後編「宝島の巻」には冒険の模様が描かれていますが、前編のほうが内容は比較的穏やかかも。 後編は「え〜、そんなことしちゃうの?」と思うような納得のいなかい部分もあったし、自業自得というか当然の報いというかそうされても仕方がないけどちょっと怖いなと思う部分もありました。 まあ、小説なのでそれはそれでよしとして、冒険ができる、というのは羨ましいことだと思いました。 あそこまでの大冒険ではなくてもいいのですが(笑)。 個人的には何も面倒なことが起こらない平穏な人生を望んでいますが、小説やテレビの中でなら冒険譚も面白いと思いました。

 

乾くるみ (いぬい・くるみ)

「林真紅郎と五つの謎」 (2007年6月)(Library)

妻を亡くしたのを機に勤務先の大学を辞し、35歳の若さで“隠居”生活に入った元法医学者・林真紅郎(はやし・しんくろう)。 ある日、小学生の姪・仁美の付き添いで人気グループのコンサートへ出かけるが……(「いちばん奥の個室」)。 バラバラに見える謎が真紅郎の脳裏でシンクロするとき、事件は一挙に解決する! 全5編の本格推理短編集。

起きる事件が結構ドロドロで、ちょっと思っていたのとは違うな、という感じでした。 いろいろな意味で一番印象に残ったのは「陽炎のように」。 真紅郎が見た“霊気”や、真紅郎を見て何か言いかけた女性が実際は何が言いたかったのか、ファミレスの店員たちのおかしな態度の真相など、それらは「なるほど〜」と笑えるものでした。 書き下ろしの「過去から来た暗号」は、ちょっと……でした。 何がちょっと……かというと、暗号の内容。 私の読み間違いでなければ、そしてそのままの意味でいいなら、あまり感心しない内容なのではないでしょうか。 小学生のたわ言と言えばそれまでですが、冗談にもほどがあると思います。 仁美ちゃんの出番がもっとあるかと思っていたので、その点は残念でした。

 

井上一馬 (いのうえ・かずま)

「二重誘拐」 (2006年12)

二十歳前後の若い女性が、失踪後23年で帰還し、誘拐を認めた後も犯人については固く口を閉ざすという事件が全国で何件も発生した。 警察庁・特別広域捜査課に和歌山県から配属された紀虎(きとら)は、事件解決に向けて被害者やその家族に話を聞きに行くが、なかなか進展はない。 果たして事件の真相は、真犯人は?

“二重誘拐”の意味は途中でわかりますが、真犯人のあまりの卑劣さには憤りを感じます。 ラスト近くの展開はちょっと強引というか「簡単にわかり過ぎじゃない?」とも思いますが、エンディングはあれでいいと思っています。 紀虎が、被害者やその家族に約束したことをどうやって果たすのかと思っていましたが、ああいう方法を取るとは思っていませんでした。 でも考えたら、あれしか方法はないとも言えます。 確かに、警察官として人間としてあの方法が「間違っていない」とは言えないと思いますが、真実を明かすことが誰のためにもならないならあれでいいのではないかと思います(少なくとも小説の中では)。 紀虎には、もっとたくさんの事件を解決して欲しいです。

 

井上尚登 (いのうえ・なおと)

「T.R.Y. 北京詐劇(ペキン・コンフィデンシャル)」 (2006年10)

かつて、関虎飛(グァンフーフェイ)率いる中国革命同盟会のために日本陸軍から武器を騙し取った天才詐欺師・伊沢修。 彼がまたしても革命家たちに手を貸すことに。 今回の詐欺のターゲットは中国最大の権力者・袁世凱。 革命家たちは国家のために、伊沢は隠された財宝のために、ある遺跡を使って袁世凱を騙そうとするが……。 織田裕二さん主演で映画化された「T.R.Y.」の続編。

結果的には面白かったのですが、半分くらいまではなかなか進みませんでした……。 そもそも私は外国名を覚えるのが苦手で、しかも今作は中国語ということでもうちんぷんかんぷん。 前作にも登場した関虎飛・愛鈴(アイリーン)・王小平(ワンシャオピン)はさすがに読めましたが、他の名前は覚えるのは諦めて、素直に音読みしてました(笑)。 内容は、フィクションとノンフィクションが絶妙に交差していて、本当に伊沢修という詐欺師が存在したかと思わせるほど。 「よくここまで書けるなあ」と感心しました。 よっぽど中国史に詳しくないと書けませんよねえ。 前作も読んでいるのに今作でも騙された“ある部分”は、それを職業としている人物が前もって登場しているのに「なぜ気付かない!?」と自分を責めたくなるほど見事な展開でした。 いえ、ちゃんと見破った方のほうが多いとは思いますが、最後の「○○○!」でやっと気付いた私は、ある意味幸せだと思っています。 見破るのも楽しいけど、すっかり騙されるのも意外と楽しいものです。 仲間(と思われた人物)の裏切りがあったり、嫌な部分もありましたが、心癒されたのはベルナーが「コウサクに渡してくれ」と伊沢に進学資金を託したこと。 そもそもベルナーが収容所でサッカーを教えていたのはここに繫がるためだったのか、と感心することしきり。 何も無駄なことは書いていない、ということですね。 さらなる続編もありそうな終わり方だったので、そちらにも期待しています。 次の詐欺のターゲットは誰? そして、伊沢と愛鈴、新たに登場した江燕(チアンチエン)の関係やいかに?

 

「クロスカウンター」 (2007年7月)

七森恵子は、かつては大手外資系証券会社のアナリストだったが、ある事件をきっかけにフリーの金融探偵に転身した。 真壁杏子という年配の女性の依頼で潜入捜査を繰り返す中、ある詐欺師の存在に気づくが……。

詐欺は、仕掛けるほうが悪いのは当然です。 でも、正直言えば「なぜそんな甘言にまんまと騙されるのか?」と思うこともしばしばあります。 楽して儲かることなどあり得ないのに。 もちろん、本人は苦労したと思わずにお金が手元にやってくるという人もいるでしょう。 でも、「これだけ投資すれば何倍にもなってあなたの元に戻ってきます!」などという台詞を、何の疑問も抱かずに鵜呑みにするのはちょっとどうかと思います。 悪党がそのつもりで騙しているのだから、つい「そうかなあ」と信じてしまうこともあるかもしれません。 でも、少し冷静になって考えればわかるはずです。 自分が働いて稼いだお金を、詐欺師にまんまと騙し取られたりすることのないよう、世の中の人全員が気をつけてくれることを願います。 ところで作品についてですが、最終章である第5章だけ毛色が違う(と感じた)ので、少しびっくりしました。 それまでは、詐欺師が詐欺を働いて、恵子(とその仲間)がそれを暴く、という流れだったのに、いきなり……なので。 でも、自○自○ですよね。 因○応○とも言います。 結局、○○のしたことは○○に返ってくるんです。 キツイ言い方をすれば、○されるほうも悪い、ということにもなりますが、○す人間がいなければ○される人間もいないわけで。 なんだか鶏と卵のようになってしまいますが、結果的には“悪は滅びる”ということで。 恵子自身も○○を果たしたわけですが、これからは純粋に金融探偵としてがんばって欲しいと思いました。

 

「厨房ガール!」 (2007年10)

セント・ワイズ・アカデミー・トラスト・クッキング・スクール、通称SWAT(スワット)は田園調布にある名門料理学院。 そこでシェフを目指して修行中の唐沢理恵は、元警察官で合気道の達人。 緊張すると側にいる人間を投げ飛ばすという癖がある。 同じクラスの元ヤン・峰村楓、高校卒業後すぐに入学してきた坂田美江子、調理師として働いていたがSWAT卒業という肩書欲しさに入学してきた正木弘文たちと、時に励まし合い時に罵り合い(?)ながら修行を積んでいる。 そんな中、数々の謎が理恵たちの前に湧き上がる。 痛快キッチン・ミステリー。

井上作品は、詐欺師・伊沢修と金融探偵・七森恵子のお話しか読んでいませんが、3作とも詐欺を扱った内容でスケールも大きかったので、それに比べると今作は謎も小さかったかな、と感じました。 「謎(事件)に大きいも小さいもない!」とは思いますが(笑)。 理恵が元警察官という設定がいまひとつ活かし切れていないようにも感じました。 私の読み方が浅いだけかもしれませんが、合気道の達人を強調したいのなら、家が道場を経営しているとかでもよかったかな、と。 まあ、後輩刑事・三品(みしな)が度々登場して、警察の権限などを無理矢理(?)行使させられるところなどは笑えましたが。 全7編の短編で、どれが特に印象に残ったということはなく、どれもまんべんなく「ああ、なるほどね」と感じました。 事件の真相よりも、理恵と○○の今後が気になりますね。 ぜひ続編でその辺を進展させて欲しいです。

 

井上雅彦 (いのうえ・まさひこ)

「遠い遠い街角」 (2007年7月)

昭和40年代の街角には、いつでも不思議と冒険があった。 貸本屋で交わされる暗号や、未来世界に通じる土管、怪物を呼び出すソノシート、時空を越えて繫がる鉱石ラジオ。 短編の魔術師が贈る、郷愁と謎の町への招待状。

私は昭和40年生まれなので、作中に出てくるモノに「あった、あった」と頷くものもあれば、「さすがにそれは知らないな」と思うものもあったり。 回転式チャンネルのテレビは家にありましたが、貸本屋には行ったことが(というか、見た覚えが)ないし。 懐かしい反面、未知の世界を覗くような感じでした。 ジャンルとしては幻想小説あたりに分類されるのでしょうが、普段読みなれていないので時間が掛かってしまいました。 印象に残ったのは「土管という扉」と「33回転の螺子」。 「土管〜」を読んだらますます歯医者が怖くなりました(笑)。 キョージュが○○だというのには驚き! 勝手に勘違いしていただけですが、「やられた……」と思ったのは私だけ?

 

井上夢人 (いのうえ・ゆめひと)

the  TEAM」 (2006年2月)

盲目で耳も不自由な人気霊導師・能城あや子。 彼女には、マネージャー・鳴滝の他にも、<仲間>がいた。 百発百中を誇る彼女の霊視は、その<仲間>によってもたらされるものだった。 ゴシップ週刊誌記者・稲野辺俊朗は、そのからくりを暴こうとしていた。 なかなか尻尾が掴めなかったが、稲野辺の手許にあるビデオが渡ってから、事態は一転するかのように思えたが……。

個人的には、霊視などはまったく信じていませんが、こういう人がいること自体には、別に異議は唱えません。 信じたい人は信じればいいし、信じない人は無視すればいいだけだから。 あや子の場合、<仲間>のやり方は実際犯罪だし、そこに目をつぶってはいけないのかもしれませんが、最後に稲野辺の妻・寿絵が言った言葉にはハッとさせられました。 結果が大事か過程が大事か、考える人によっても物事によっても異なると思いますが、“誰も不幸になっていない”ということは大事なのではないかと思いました。 不幸かどうかは人それぞれだし、本当に誰も不幸になっていないかどうかははっきりとはわかりませんが、相談者が心の安定を取り戻したり、不幸な目に遭っていた人がそこから抜け出せたのなら、それはそれでいいのかな、と。 まあ、自分の家にあの<仲間>が来たとしたら、確かにいや〜な気分になるとは思いますが……。

 

今邑彩 (いまむら・あや)

「つきまとわれて」 (2006年6月)(Library)

別れたつもりでも、細い糸が繫がっている。 ハイミスの姉・朋美が見合いの相手との結婚をためらう理由は、昔の恋人からの“幸せな結婚ができると思うな”という嫌がらせの手紙らしいが……(表題作「つきまとわれて」)。 前の作品の人物の一人が、次の作品に登場するという、全8編からなる異色の連作短編集。

「なぜ今までこんな素晴らしい作品を読まなかったのか!」と後悔するほど好きになりました。 北見隆さんのイラストが、表紙と1話ごとの扉絵に使われていて、それだけ(と言ったら失礼ですが)でも“買い”なのに、内容もとても素晴らしい。 “こういう”手法は大好きです。 一番好きなのは、「六月の花嫁」。 新見が過去にしたことは確かに犯罪ですが、最後には丸く収まったんだからいいんじゃないかなあ、と。 自分が当事者だったらそんなことは言えないかもしれませんが。 「逢ふを待つ間に」も印象に残った作品。 こんなゲームがあったらやってみたいかも。 もちろん、男性ヴァージョンで(笑)。

 

「ルームメイト」 (2006年6月)(Library)

大学入学を機に上京してきた春海は、不動産屋で出会った女性・麗子と折半して部屋を借りることに。 お互い干渉し合わない約束で始めた共同生活は快適だったが、やがて麗子は失踪してしまう。 その跡を追ううちに、春海は麗子の二重、三重生活を知る。 大学の先輩・工藤とともに、さらに麗子の生活を追う春海に、意外な真相が待ち受ける。

“サイコ・サスペンスの意匠をまとったトリッキーな謎解きミステリー”と解説されていますが、いきなり出てくる惨殺シーンにはちょっと引いちゃいました。 そういうシーンは、文字だけでも苦手なので……。 それを除けば、真相が明かされていく過程はとても楽しめました。 「そう来たか!」という部分がたくさんあって、ぐいぐい読まされました。 今邑さんが文庫版あとがきで「後味がよくないのでモノローグ4は読まなくても差し支えないが、バッド・エンドがお好きな方はどうぞ」とおっしゃっていますが、第三部で止めてしまうとひとつ気がかりが残ってしまうので、やはり最後まで読んだほうがしっくりくるというか、すっきりするというか。 まあ、後味が悪いことには変わりありませんが。 本当の意味で、春海の幸せを願うばかりです。 どうなるのが一番いいのか、はっきり言ってよくわかりませんが……。 人生は、その時点からのやり直しはきくかもしれませんが、過去に遡ってはやり直せないんですよね。

 

「よもつひらさか」 (2006年6月)(Library)

「古事記」では、現世から冥界へ下っていく道を“黄泉比良坂(よもつひらさか)”という。 娘・奈津子から男の子を出産したという連絡をもらい、娘の住む町をめざしていた“私”は、“…つひらさか”と書かれた坂を上ろううとしていた。 そこで出会った青年と話しながら歩き出すと、この坂に纏わる不気味な言い伝えを聞かされる。 それは……(表題作「よもつひらさか」)。 戦慄と恐怖の異世界を繊細に紡ぎ出す、全12編のホラー短編集。

悲惨というか哀し過ぎるというか、バッドエンドな作品が多い中、一番印象に残ったのは「時を重ねて」でした。 タイトルからしても、なんだか優しい雰囲気を感じましたが、読み終えてホッとしたのは間違いありません。 ホラーというよりファンタジーという内容で、こういう奇跡なら起こってほしいと思いました。 美砂子の幸せを願うばかりです。 「夢の中へ……」も似たような趣向の作品でしたが、こちらは主人公の少年にとって“ああ”なることが幸せなのだとしたら、とても哀しいことだと思いました。 もっと別の方法がなかったのかと思うといたたまりません。

 

「いつもの朝に」 (2006年6月)

女流画家・日向沙羅は、頭脳明晰・容姿端麗の長男・桐人と、正反対にチビでニキビ面で勉強も運動もぱっとしない次男・雄太の三人で、平和に暮していた。 ところがある日、雄太が偶然にある物を発見し、そこから二人の子供たちの出生に纏わる秘密が明らかになっていく。 桐人は、雄太は、沙羅は、かつての平和を取り戻せるのか……。

沙羅が、「あんなこと言わなければよかった」と30年もずっと後悔してきた気持ちは、分かる気がします。 個人的には、“あんなことしなければ”とか“あんなこと言わなければ”とか、しなければよかったという後悔のほうが、すればよかったという後悔より引きずると思います。 裏を返せば同じこととも言えますけどね。 子供たちの出生の秘密は、あまりにも重く残酷で、中学生が冷静に受け止められる内容ではありませんでした。 大人でもショックでどうにかなってしまいそうです。 遺伝か環境かという二者択一は極端すぎるかもしれませんが、私は環境説(=性善説)を信じます。

 

「卍の殺人」 (2006年9月)(Library)

萩原亮子は、恋人・安東匠と共に、彼の実家を訪れた。 そこはワイン醸造を営む旧家で、卍の形をした館で親族の布施家と同居していた。 匠は、安東家と縁を切るために帰ってきたのだが、話の決着がつかないうちに兄・美徳や従姉・品子、その夫・隆広が次々と死体となって発見される。 連続殺人なのか。 果たしてその真相は……。

まずは館の形にびっくり。 まるで中○○司の手によるもののよう。 それにしては、複雑さが足りないかもしれませんが(笑)。 「こいつが怪しい」と思った人物がやはり真犯人だったので、意外とわかりやすかったかも。 “すべて”が仕組まれていたというのが許せません。 人の気持ちを利用するなんて最低です! まんまと勝利を手にしたかに見えた真犯人は、余韻に酔いしれる間もなく○○の訪問を受ける。 やはり“悪いことはできない”ということですねえ。

 

「ブラディ・ローズ」 (2006年9月)(Library)

薔薇をこよなく愛した父を亡くし天涯孤独となった相澤花梨は、美しい薔薇園を持つ洋館の主・苑田俊春と結婚する。 その館には、俊春の他に、足の不自由な妹・晶、老家政婦・寿世、醜い園丁・壬生、若いお手伝い・有美が住んでいた。 俊春の最初の妻・雪子への思慕が募る館で、花梨へ向けられる憎悪。 二番目の妻・良江はなぜ死んだのか。 次々と届く脅迫状は誰の仕業なのか。 花梨は真相を突き止められるのか。

「卍の殺人」の卍屋敷よりは、現実にありそうな薔薇の館。 なんとなく、鎌倉文学館を想像しながら読んでいました。 真相は、一件落着したかのように思わせて実はまだ続きがある、というホラーのような内容で、花梨が気の毒になりました。 悪い人かと思われた○○も、実は普通の人。 本当に悪意があったのは……。 人を羨む気持ちが大きすぎると、妬みや僻みになってしまうんですね。 “こんなこと”を延々と繰り返すつもりなんでしょうか。 そう思うと、ある意味○も気の毒です。

 

「鋏の記憶」 (2006年9月)(Library)

親類で警視庁捜査一課に勤務する桐生進介と同居している桐生紫は、サイコメトリー(残留物感知能力)という超能力を持っている女子高生。 その力を利用して、事件を解決に導く手助けをすることになる。 花屋の店員・早苗の恋人は叔父・利一郎を殺したのか?(「三時十分の死」) 進介の高校時代の友人で漫画家の二瓶乃梨子が拾ったという鋏で血を流したのはいったい誰?(表題作「鋏の記憶」) 米倉を殺したのは、美人で若い妻・美鈴の元恋人・三沢なのか?(「弁当箱は知っている」) 息子をバイク事故で亡くして一人暮らしをする小寺のもとにやってきた美女の正体は?(「猫の恩返し」)

超能力を使って事件を捜査する、というのは個人的にはあまり好きではありません。 それだと何でもありになってしまうようで……。 今作も、ちょっと懸念がありましたが、充分楽しめました。 どの作品もよかったですが、一番印象に残ったのは「猫の恩返し」。 なんといっても○される人がいません。 美女の正体が○だったらもっとよかったかも(笑)。 「三時十分の死」と「弁当箱は知っている」の真犯人は最低です。 動機が許せません。 「鋏の記憶」の真相は驚くべきもので、「そんなこと言われても困ります!」という感じ。 最後に正樹が取った行動が、正解だと思いました。

 

i  (アイ) 鏡に消えた殺人者」 (2006年9月)(Library)

新人作家・砂村悦子が、仕事場として購入したマンションで刺殺された。 死の直前に書いていた小説は、かつて悦子に殺された従妹・アイが鏡に宿り復讐するという、自伝的内容だった。 刺殺現場では、それを暗示するような痕跡があり……。 やがて明らかになる衝撃の真相とは……。 後にも活躍する、警視庁刑事・貴島柊志シリーズ第1弾。

導入部分を読むと「○○ーなのかしら?」と思う内容ですが、事件の真相が明らかになるにつれてそうではないことがわかります。 しかもその真相がスゴイ! まさか悦子が子供の頃に“そんなこと”(悦子がアイをどうこうしたということではありません)があったなんて。 本当にそうだとしたら、恐ろしいです……。 いくら子供相手でも、というか子供相手だからこそ出来ないのではないかと思いますけど。 鏡の中に消えたというトリックの真相も面白い。 ある意味「なんだそれ!?」とも言えますが。 「そうだったんだ……」でおしまいかと思ったら、また導入部分のような○○ーテイストで締めくくり。 本当はどっちなの!?

 

「『裏窓』殺人事件 tの密室」 (2006年10)(Library)

三鷹のマンションで女性が墜落死したのと同時刻に、中野で殴殺事件が起きた。 墜落死を目撃した少女の証言から、警察は同一人物の犯行とみなす。 そのトリックとは? 真犯人は? 警視庁刑事・貴島柊志シリーズ第2弾。

導入部とエンディングが○○ーテイストというのは「i (アイ) 鏡に消えた殺人者」と同様で、その間で論理的な推理が展開されます。 貴島シリーズではありますが、ちょっと影が薄かったかも(笑)。 “真犯人”の犯行の動機はちょっと共感できました。 逆恨みと言えばそれまでですが、そうせざるを得なかった気持ちは理解できる気がします。 優しさや正義感は大事なものですが、それが元で“あんなこと”になってしまうとしたらある意味恐ろしいことです。

 

「『死霊』殺人事件」 (2006年10)(Library)

タクシーに乗せた客・奥沢が、「金を取ってくる」と言って家の中に入ったきり出てこない。 運転手・杉田が痺れを切らして家の中を覗くと、男性の死体がふたつもあった。 警察がやってきて家の中を見ると2階にも女性の死体が。 現場は密室状態になっていて、真相究明は困難を極める。 捜査に乗り出した貴島は真相に辿り着けるのか。 シリーズ第3弾。

プロローグで披露される殺人計画にまんまと騙されました。 あれだけ明かされればその通り実行したのかと思ってしまいますよ。 奥沢邸の密室の真相は「ちょっとずるい!」と思いましたが(笑)。 それにしても奥沢は酷い人間ですね。 ○んで当然とは言いませんが、罰が当たったとは言えるかも。 貴島がこだわった写真の女性の正体と、15年前の真相にもびっくり。 篠原の最後の言葉にはどきりとさせられました。 今回、貴島とコンビを組んだ女性刑事・飯塚ひろみはいい味出してますね〜。 実際こんな感じでやっていけるのかどうかは疑問ですが(笑)。

 

「繭の密室」 (2006年10)(Library)

都内のマンションで大学生・前島が転落死した。 頭を殴られ首を絞められ、挙げ句の果てにベランダから突き落とされたようだったが、部屋は密室状態だった。 犯人はいったいどうやって逃げたのか。 警視庁刑事・貴島が捜査を開始、6年前のとある事件を知る。 その後も前島の友人・坂田が殺され、同じく江藤も襲われる。 過去の事件と関係があるのか。 中野署刑事・倉田と貴島は、事件の真相に辿り着くことができるのか。 シリーズ第4弾。

前3作は、○○ーテイストが織り込まれた内容でしたが、今回はそうでもありませんでした。 でも、エピローグを読むと戦慄が走りますね。 貴島が、○○もある意味被害者ではないかと言っていましたが、確かにそうとも言えるなと思いました。 幼い頃にあんな過去があれば、精神が歪みもするでしょう。 もちろん、それとこれとは別で、○○のしたことは許せませんが。 真犯人の気持ちはわかります。 あいつらを○しても何も解決しないとは思いますが、そうせざるを得なかったのでしょう。 そうすることで、さらなる地獄に堕ちるとわかっていても……。 過去を含めて一連の事件の“真犯人”とも言える人物は、自分のしたことがわかっていないところが恐ろしいですね。 第二の○○を作ろうとしているのですから。 でも、その人物もある意味被害者なのかも。 そう思うと、誰が悪いとか一概には言えなくなってしまいますね。 とは言え、やはり実際に犯行に及んだ人間は罪を償うしかないのですが……。 日比野が「暴力は暴力しか生まない」と言っていましたが、確かにそうかもしれません。 そして、○○は○○しか生まないのでしょう。 でも、自業自得とか因果応報という言葉もあるように、自分のしたことが自分に返ってくるということを忘れてはいけないと思いました。

 

「鬼」 (2008年3月)(Library)

学校でいじめられていた息子が急に明るくなったのは……(「カラス、なぜ鳴く」)。 空耳として真実のお告げが聞こえると信じている春美は……(「たつまさんがころした」)。 ある家の窓辺のシクラメンの色が日によって変わるのは何故か(「シクラメンの家」)。 かくれんぼが大好きだけれどいつも鬼になってしまうみっちゃんは、ある日……(表題作「鬼」)。 食卓や風呂場にいつの間にか紛れ込んでいる長い黒髪の正体は……(「黒髪」)。 妊娠中だが、ある夢のせいで子供を産んでいいものかどうか悩んでいる恵利子は、カウンセリングを受けるが……(「悪夢」)。 みんなが大好きだったメイ先生が、ある日忽然と姿を消したのは何故か(「メイ先生の薔薇」)。 ネット上で知り合ったという人たちと一緒にオフ会に参加した私だが……(「セイレーン」)。 全8編のベスト短編集。

前半の3編はミステリー特集に、後半の5編はホラー特集に、それぞれ掲載されたものということで、少し作風が変わっています。 ホラーと言っても、「うわっ、怖っ!」と思うものはありませんでしたが、一番印象にのこったのは「たつまさんがころした」です。 そもそも春美の姉・夏美のやり方が「ちょっとどうかな」と思うものなので特に同情はしませんが、「春美も結構怖いな」と思いました。 でも、何をするわけではないし、むしろ何もしないのだからあとは本人次第ということでしょう。 妊娠中は何事にも気をつけないとね。 「鬼」は、実は結構ほのぼの系だと思いました。 みっちゃんが“そう”なってしまった理由はわかりませんが、恨みを持って友達を探しているわけではなく、ただ単純に「かくれんぼが好きなんだなあ」と思うと、ちょっと気の毒な気はしますが。 「セイレーン」は2000年に書かれた作品ですが、今でいう集団自○がテーマになっています。 カップルの口論のきっかけとなった理由ですが、個人的にはすご〜く理解できます。 人の話は聞かないと。

 

「金雀枝荘の殺人」 (2008年3月)(Library)

完璧に封印された館で発見された、5人のいとこたちと管理人の遺体。 彼らは誰にどうやって殺されたのか。 その謎を追求するべく、約1年後に集まったのは残された4人のいとこたち。 そのいとこの一人が伴ってきた霊が見えるという友人と、通りすがりのフリーライターも交えた6人が遭遇した惨劇とは……。 そして戦慄の真相とは……。 恐怖と幻想の本格ミステリー。

うわ〜、スゴイ真相……。 真犯人は○○かな、と漠然とは思っていましたが、さらにその後ろには……というのには驚きました。 ○ってそんなに大事なものなのでしょうか。 しかも結果的には○○○していたなんて。 それで○されてはたまりません。 密室の謎には唖然としました。 「そういう手があったか!」という感じ。 そりゃあ密室にもなりますよね。 救いのない最後ではなかったのが、せめてもの救いでした。 ホラーもいいけど、本格も読み応えがあってよかったです。

 

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