重松清 (しげまつ・きよし)

「きみの友だち」 (2006年3月)(Library)

ある事故がきっかけで、それまでクラスの人気者だった恵美は友だちを失った。 体が弱いために入退院を繰り返していて、ぐずでのろまな由香は、そもそも友だちがいなかった。 そんなふたりが築いてきた関係は……。 「小説新潮」に掲載された作品を、大幅加筆・改稿した最高傑作。

涙なくしては読めません! 10作の短編、というか10章で構成されていると言ったほうが正しいかと思いますが、どれを読んでも泣けて泣けて。 遥か昔の、自分の小中学生時代を思い出しながら読んでいました。 自分が同じ目に遭ったということはほとんどありませんが、おとなになってからなら同じ目に遭ったことが。 それは、交通事故で入院したという点。 私の場合は自動車の自爆事故で、ぶつかった相手は電信柱、悪いのは自分というものでしたが。 恵美のように、杖がないと歩けないということにはなりませんでしたが、一歩間違えば○んでいたかもしれないと思うと、ぞっとします。 閑話休題。 こどもが主人公というより、こどもだった頃の“きみ”たちが主人公なので、おとなにならないとわからない内容なのだろうな、と思いました。 どれを読んでも泣けてしまいますが、いちばん印象に残ったのは「別れの曲」でしょうか。 つっぱってる奴に限って実は……というのは、現代の若者にも通用するでしょうか。 佐藤くんが真っ当な人生を歩んでくれることを願います。 恵美も、これからもっともっと幸せになって欲しいです。

 

「その日のまえに」 (2006年3月)(Library)

昨日までと同じ日々が、明日からも続くはずだった……。 誰にもやってくる“その日”は、平等とは限らない。 友人や、愛する家族の“その日”を迎える時、人はどうすればいいのか。 生と死と、幸せの意味を見つめる、感動の連作短編集。

こちらも、涙なくしては読めません! 収録7作のうち、3作目からはぼろぼろ泣き通し。 身近に、若くして病気で○くなった方はいませんが、自分がその立場になったらどうだろうと考えると、とても冷静ではいられませんでした。 自分が○○を宣告された時、どうするだろう……。 「その日のまえに」の和美のように、きっと思い出の場所を訪ねるだろうなと思います。 幼稚園を2ヶ所、小学校も2ヶ所通っているし、中学に上がる時にも引っ越しているので、訪ねる場所は意外と多いかも。 結婚して最初に住んだアパートも見てみたい。 既に築20年くらいになっているけど(笑)。 ケンやダイ、トシくんが、素敵な大人になってくれることを願います。

 

雫井脩介 (しずくい・しゅうすけ)

「クローズド・ノート」 (2006年3月)

文具店でのアルバイトとマンドリンサークルに勤しんでいるごく普通の大学生・香恵。 ある日、マンションのクローゼットで前居住者のものと思われるノートを見つける。 小学校の先生らしいその人宛の、子供たちからのメッセージカードを見るうちに、「伊吹’s note」と書かれたノートの中身も気になってきて、とうとう読み始めることに。 そこには学校での出来事や、少しのプライベートが綴られていた。 それを読むうち、香恵の平凡な日常にも変化が訪れる……。 携帯サイトで連載された、切なく暖かい恋愛小説。

全体的にはいい作品だと思いますが、どうしても気になった点が2ヶ所。 香恵がノートを手にした経緯と、伊吹のノートに書かれていた一語。 「賃貸マンションで、前居住者の忘れ物がそのまま残っているなんてあり得ない」「いくら若い女性でも、仮にも国語教師が“何気に”なんて言葉を使うだろうか」と思ってしまいました。 万年筆に関する記述もちょっと長い感じ。 まあ、万年筆は重要アイテムなので仕方ありませんが。 それ以外は概ね感動・共感できる内容でした。 鹿島や星美の存在はある種の“毒”として必要だったと思えますし。 実際にはお近づきにはなりたくありませんが。 香恵が、教師になるという夢を叶えて、伊吹のように素敵な恋愛を経験できるといいと思いました。

 

「ビター・ブラッド」 (2007年9月)

佐原夏輝は、警視庁S署E分署の刑事課一係に所属する新米刑事。 ある事件の捜査で、少年時代に別離した実の父親・島尾明村とコンビを組むことになった。 夏輝が初めて現場を踏んでからひと月が経った頃、捜査一課の係長・鍵山が何者かに殺害された。 街の情報屋・相星に助けられながら、捜査を進める夏輝だが……。

ジェントル、ジュニア、アイスマン、バチェラー、スカンク、チェイサー、ゴブリン……。 それぞれがそう呼び合っているわけではありませんが、「○○にほえろ!」を髣髴とさせるニックネーム(?)にちょっと笑ってしまいました。 少なくともジェントルとジュニアは通称になってしまっていて、「そんな刑事いるかい!」とツッコミを入れたくなりました(笑)。 ジェントルは、その名の通りジェントルマンで、彼独特の“ジェケットプレイ”なるものが存在します。 “あんなこと”を目の前でやられたら、「なんだ、こいつ?」と思うか「変な人(苦笑)」と感じるかのどちらかではないでしょうか。 内容としては、S署管内のS街でいろいろな事件が起こり、暴力団や情報屋などが絡み、警察組織の○の顔のようなものまで見せられて、あまりすっきりしたという印象は受けませんでした。 結局、夏輝の母親の失踪については○のままだし。 古雅の恋人・祥子の件はあまりにもひどい結末。 貝塚は○されて当然です。 相星が“あんなこと”になってしまったのは本当に残念。 夏輝ではありませんが、「嘘ならいいのに」と思わずにはいられませんでした。 続編もありのようなエンディングなので、またジェントル&ジュニアのコンビで仕事をして欲しいです。

 

柴田よしき (しばた・よしき)

「激流」 (2005年12)

15前の修学旅行、同じ班で行動していた圭子・貴子・美弥・冬葉・悠樹・耕司・豊の7人。 移動中のバスの中から、冬葉がいなくなった。 様々な憶測が飛び交う中、残された6人はいわれのない中傷を浴びせられた。 20年が経ち、それぞれに生活を送るみんなのもとに、冬葉からのメールが届く。 『私を憶えていますか? 冬葉』 それに呼応するように、嫌がらせのような事件が続く。 真犯人は本当に冬葉なのか? 15年前の失踪の真相は……?

冬葉の失踪の真相は、あまりにも悲惨で、○○も○○も人間として間違っていると思いました。 “壊れている”で済まされる問題ではないです。 歯車がひとつ狂っただけで、ここまで運命が変わってしまうなんて。 “こうしていれば”“あんなことしなければ”、いくら考えても後の祭りですが、そう思わずにはいられませんでした。

社会に出て働いていれば、それゆえの嫌なことはたくさん起こります。 しかし、それが故意にもたらされたものなら、話は別です。 自ら蒔いた種ならまだしも、逆恨みで嫌がらせを受けるなんて、考えたくありません。 それによって、家庭や社会的地位が脅かされたりしたら、そう考えるとぞっとします。 でも、自分では思い当たらなくても、相手にとっては正当な理由で行動している場合もあると思うと、発言や行動は慎重にしないと、というのがこの本から得た教訓でした。

 

「銀の砂」 (2006年10)

女流ベストセラー作家・豪徳寺ふじ子は、言い寄ってくるどんな男性も拒まない。 秘書・佐古珠美の恋人で俳優の柴崎夕貴斗や娘の妙子の恋人で作家の岩崎総一とまで関係を持っていた。 夕貴斗を奪われた珠美はふじ子の元を去り、結婚したがそれも破綻し、売れない作家として辛酸を舐めていた。 そんな中、珠美の元を訪れたフリーライター・島田は、行方不明の夕貴斗を探していると言う。 なぜ今更そんなことを? 捨て去った過去が追いかけてくる―。 女たちの悲劇を描く長編サスペンス。

ふじ子があんなふうになってしまったのは、結婚していた頃同居していた姑の仕打ちのせいですが、あまりにも酷い! いくら嫁が気に入らないからって“あんなこと”するでしょうか。 夫も夫です。 まんまとそれに乗せられて。 確かに、ふじ子に落ち度がなかったとは言えないかもしれませんが、最初に裏切ったのは夫のほうです。 まあ、そういう過去があったからこそベストセラー作家として君臨できたと言えばそうですが、それよりも娘・妙子を手元で育てるほうが女性としての幸せだったと思います。 珠美も似たような経験をしていますが、やはりネックは姑。 身近ではそんな話は聞きませんが、あるところにはある話なのでしょうね。 夕貴斗の行方不明の真相はなんとなく読めましたが、彼が“そこ”までしていたとは……。 「いくら好きでもそこまでする?」と驚いた半面、「本当に好きだったからそこまでしてしまったのかも」とも思いました。 ただ、そこまで愛された“彼女”は、幸せだったのかどうか……。 わかっていてそう読むからかもしれませんが、まさに“女性が書いた小説”という感じですね。 理解できる部分が多かったと思います。

 

「求愛」 (2006年12)

フリーの翻訳家として仕事をしている弘美は、親友・由嘉里の自殺には自分に責任があると考えていた。 電話の向こうで少し様子がおかしかったのに、仕事を優先させて会いに行かなかったから。 後悔が募る日々の中、誤配されていた由嘉里からのハガキが届く。 内容を読めば自殺などするはずがないことがわかり、弘美は真相究明に乗り出す。 その結果、辿り着いた真相とは……(「金と銀の香り」)。 全9編の連作短編集。

弘美が手掛けた“最初の事件”となる由嘉里の死の真相は、ちょっと気が抜けました。 確かに、真犯人もある意味被害者だしそれ相応の罰を受けていますが、犯行の動機はちょっとどうかな、と。 そもそも自分が蒔いた種なのに、あんな理由で犯行に至るなんて身勝手だと思いました。 他にも様々な確執があったとは思うし、そもそも身勝手だから罪を犯すのだとも思いますが、共感できる動機ではありませんでした。 特に印象に残ったのは「復讐」。 弘美が探偵事務所で働くようになってからのエピソードですが、団地の砂場に生ゴミが捨てられる事件の“真相”にはびっくり。 自分がその立場になってみないとわかりませんが、“あんなこと”をしてまでそこから逃げ出したいとはどういうことなのかと思いました。 もちろんそんなことにはなりたくないし、なった場合にあんな方法を取るとは思えませんが。 主人公の弘美が途中から探偵事務所の調査員として働くようになったので、生活感が描かれている部分が希薄になってしまったのが少し残念でした。

 

「所轄刑事・麻生龍太郎」 (2007年3月)

人情あふれる下町を新米刑事として奔走する刑事・麻生龍太郎。 事件に対する真摯な姿勢で真相を明らかにしていく。 しかし、彼には人には言えない秘密があった。 “緑子”シリーズの人気キャラクターの過去が初めて明らかになる、連絡警察小説。

その“緑子”シリーズが未読なのに、こちらを先に読んでしまいました。 龍太郎の秘密は意外でしたが、「明らかにならなくてもよかったのでは?」とも思います。 「そんなの人の自由でしょ」という感じ。 刑事としても特に問題はないような気がします。 特に印象に残ったのは「大根の花」。 事件の真相そのものがどうということよりも、麻生や先輩刑事・今津の、被疑者に対する考え方は私の中にはないものだったので。 罪を犯したら更生の余地はない、とまでは思っていませんが、「こんな人を更生させる意味があるのか」と思うような犯罪者が多い昨今、こういう考え方ができるというのはすごいな、と思いました。 「割れる爪」の京子の痛みもわかるような気がします。 ○になりたかった、というのは悲し過ぎますが、そう思わすにはいられない状況になってしまったのは気の毒でした。 所轄刑事としての事件はとりあえず終わりですが、新たな赴任先での活躍を期待しています。

 

「小袖日記」 (2007年5月)

上司との不倫に破れて自暴自棄になり真夜中にマンションを飛び出した“あたし”を、考えを改め帰ろうとした瞬間襲ったものは……! ミステリー、サスペンス、伝奇小説などで活躍する著者の新境地。

ジャンルとしては何に分類されるのかはっきりしません。 というか、私には分類できません。 まあ、SFミステリーとでも言いましょうか。 重要なのは、“あたし”が平安時代で経験したことをもとに、前向きに生きていく術を学んだということ。 どう考えても不倫に破れて自暴自棄になるなんてもったいない。 がんばって「源氏物語」を読み解いて欲しいものです。 プロローグとエピローグプラス5章の連作短編ですが、一番印象に残ったのは第3章「葵」。 実は「源氏物語」は全く読んでおらず、「あさきゆめみし」すら未読なので登場人物の名前はともかく内容はまったく知らないのですが、若菜姫が大好きになりました。 実際「源氏」の「葵」の巻ではどう書かれているかわかりませんが、それを確かめるためにもこの巻だけでも読みたいです。 “あたし”のように平安時代にタイムスリップする羽目になったら(なりたくはありませんが)、香子様と小袖にも会ってみたいです。

 

「朝顔はまだ咲かない 小夏と秋の絵日記」 (2007年9月)

高校一年のとき、いじめが原因で退学しひきこもりになった鏡田小夏。 母親とふたりで住むマンションに訪ねて来るのは親友・宮前秋だけ。 そんなふたりの少女が遭遇した謎とは……。

ひきこもりの小夏が次第に……という過程が読んでいて心地よかったです。 起きた事件は結構怖いものやシビアなものがあってどきどきしましたが。 一番印象に残ったのは、事件というか謎としては表紙にもなっている「黒い傘、白い傘」です。 一歩間違えば(間違えなくても?)ス○ー○ーですが、小夏をどうにかしてやろうという悪気はないので、有沢双子のしたことはかわいいいたずらのようなものかな、と。 ここまでいったからには、この次の展開も期待してしまいます。 小夏の職場や秋の大学での小さな謎を、またふたりで、時には“彼ら”も交えて解決して欲しいです。

 

「やってられない月曜日」 (2007年9月)

大手出版社で経理部に所属する高遠寧々(たかとお・ねね)は実はコネ入社。 28歳の現在、彼氏なし。 百舌鳥弥々(もず・やや)とは同じコネ入社ということもあり、気の合った友人同士。 そんな会社にも、不倫やパワハラ、いじめなど、いろいろな問題があって……。 一人暮らしの部屋で趣味に没頭しながらも、寧々たちは日々成長していく―。 本音満載のワーキングガール・ストーリー。

コネ? 大手出版社? バブルがはじけても、そんなことってあるんですね。 寧々や弥々が羨ましい〜。 出版社というと編集部という部署がぱっと浮かんできますが、確かに経理部がなければ会社は回らないでしょう。 その部署で、コネ入社というレッテル(?)を気にしながらもがんばる寧々はカッコイイと思います。 ドールハウスから始まったミニチュア模型造りという趣味も、おたくっぽくても地味でも、生活に潤いを与えてくれるものなら自信を持っていいと思います。 社会に出れば、誰にでも何かしらの問題は起きるわけで、それをどう乗り切っていくかが重要なんです。 寧々は大丈夫。 これからも模型造りやアニメ映画に夢中になりながら、○なんかもしちゃったりして、がんばっていけると思います。 がんばる、なんて肩肘を張るのではなく、自然に流れるように、生きていけるというか。 ぜひ続編を。 ちなみに、弥々は茨城出身ですが、「つくばエクスプレスがある」とか「車使えば有明(東京ビックサイト)だってすぐ」という発言からすると、“この辺”かもしれません(笑)。

 

「謎の転倒犬 石狩くんと(株)魔泉洞」 (2008)

一晩かかったアルバイトを終えた僕が出会った厚化粧の女は、連日女の子たちが行列をなすカリスマ占い師・摩耶優麗(まや・ゆうれ)だった。 時を遡って過去を見てきたという彼女は、僕の過去をずばり言い当てた! なりゆきで、彼女の会社(株)魔泉洞で働くことになってしまったが、必ずからくりを解いてみせる! 持ち込まれる不思議な事件を鮮やかに解く優麗の推理と、僕こと石狩くんの受難をユーモラスに描く本格ミステリ連作集。

石狩くん、なんて気の毒な……(笑)。 でも、(株)魔泉洞に就職できたんだからよしとしなきゃ。 確かに、彼の性格じゃ新聞社や出版社やテレビ局なんて無理だと思うし。 優麗先生のいうことはごもっともですよ。 どの事件も結構“毒”があって、身近に起こり得る問題としては嫌な感じです。 真相として一番怖かったのは「狙われた学割」。 知らないうちに○○を買っているかもしれないというのは本当に怖いですね……。 タイトルの付け方がまたいいですね。 「時をかける熟女」はヒドイけど(笑)。 続編も楽しみです(ありますよね?)。

 

篠田真由美 (しのだ・まゆみ)

「王国は星空の下 北斗学園七不思議@」 (2007年5月)

深い森に囲まれた全寮制の北斗学園。 中等部2年で新聞部のアキ・ハル・タモツは、学園に伝わる“七不思議”を探ろうとするが……。 眩惑する謎と数々のゴシック風の建築物が織り成す学園ミステリー。

実は初の篠田作品。←訂正・2作目でした。 理論社ミステリーYA!シリーズの一環として刊行されたもので、とても読み易かったです。 中学生が○体を発見してしまったり○し屋に出会ってしまったり、今後変なトラウマになりかねない出来事が起きて「大変だなあ」と思いましたが、彼らはがんばりました! 実際こんな目には遭わないに越したことはありませんが、何事も経験です。 “七不思議”“@”となっているので、続編も絶対ありだと思います。 彼らの活躍や学園の謎が解明されるのを期待しましょう。 個人的には淵野先生とJが気になります。

 

「闇の聖杯、光の剣 北斗学園七不思議A」 (2008年6月)

新聞部に所属するアキ・タモツ・ハルは、文化祭に出品する新聞製作コンクールのネタのため、学園の七不思議のひとつ、“記念博物館の謎”を探る羽目になるが……。 学園ミステリー第2弾。

前作よりさらにパワーアップした(?)謎。 学園創設の裏には“こんな”謎があったんですね。 行ってみたいような怖いような。 アキは多感な中学生らしく、人を思いやる心を持っていて、「ちゃんと成長してるなあ」と思いました。 Jが意外といい人だったのも嬉しかったです。 まだまだ謎だらけの学園ですが、次の謎はどんなでしょう。 来年が楽しみです。

 

島本理生 (しまもと・りお)

「あなたの呼吸が止まるまで」 (2007年10)

舞踏家の父と二人ぐらいの十二歳の少女・野宮朔の夢は、物語を書く人になること。 一風変わった父の仲間たちと触れ合い、面倒な学校生活を切り抜けながら、少しずつ大人に近づいていく。 そんな朔を襲った、突然の暴力。 そして、彼女が選んだ復讐の形とは……。

主人公が十二歳の少女というところで気付くべきでした……。 露骨な表現はされていませんでしたが、読んでいて気分が悪くなりました。 確かに、朔の父親も、出て行ってしまった母親も悪いと思います。 両心が揃っていれば幸せとは言いませんが、まだ小学生の子供を一人で留守番させ自分の仕事に没頭する父親はおかしいし、子供が好きではないならなぜ生んだのだと母親に聞きたいです。 そんな寂しい生活の中で、朔が誤った方向に進んでしまうのは仕方のないことだったかもしれません。 仲の良いクラスメイトはいても、しょせん同じ小学生。 相談できようもありません。 それにつけこむような“あいつ”は最低です。 登場した瞬間から「危ない」とは思いましたが、まさか本当に“そんなこと”をするなんて……。 復讐されて当然です。 でも、その仕方はどうかなと思いました。 しかもそれを本人に告げているなんて。 下手をしたら朔はその前に○されてしまうかもしれません。 そうなる前に大人がなんとかしてあげて欲しいと思いました。

 

首藤瓜於 (しゅどう・うりお)

「刑事の墓場」 (2006年5月)

前任署で、所長の右腕として活躍していた雨森の転任先は、開署以来一度も捜査本部が置かれたことのない県下のお荷物署である動坂署だった。 そこは、不祥事を起した者や無能な警官を飼い殺すための“刑事の墓場”と言われていた。 信じられない人事異動にふて腐れて過ごす雨森の初仕事は些細な傷害事件だったが、それが県警全体を巻き込む大事件へと発展し……。 墓場の刑事たちは、無事事件を解決できるのか。

「住まいも決めず、署の当直室に1ヶ月も寝泊りする警察官なんている?」とか「そんなに都合よく“知り合い”や“懇意にしている人”が出てくるなんて」とか、引っ掛かりがないわけではありませんが、全体としては楽しめたと思います。 ひと癖もふた癖もある刑事課のメンバーたちは、それぞれに過去を背負っていて、誰がメインになっても作品になり得ると思われます。 特に、桐山署長と鹿内課長の過去には興味が湧きました。 いつか、彼らが登場する短編集でも読めると嬉しいです。

 

白石一文 (しらいし・かずふみ)

「どれくらいの愛情」 (2006年12月)

航空会社で代理店営業の仕事をする岬は、職場の同僚・安西が気になって……(「20年後の私へ」)。 出版社に勤務する市川は、同業者の妻・緋沙子と一人息子・文彦と幸せな日々を送っていたが……(「たとえ真実を知っても彼は」)。 知佳の不倫相手・英一は「人間にとって何より大事なのはスキンシップだ」という信念を持っている(「ダーウィンの法則」)。 博多でぜんざい屋を営む正平は、5年前に別れた晶のことが忘れられずにいる(「どれくらいの愛情」)。 珠玉の中編集。

う〜ん、残念ながら想像というか期待していたような内容ではありませんでした。 勝手に、もう少し綺麗な恋愛小説かと思っていたので。 特に印象に残った作品というのはありませんが、所々気になる言葉はありました。 “人間は誰かに幸せにして貰うことも、自分だけが幸せになることもできない、できるのは誰かを幸せにすることだけ”とか“本当に自分に必要な相手なら、きっとその相手にとっても自分は唯一の存在だ”とか。 岬と安西、市川と緋沙子、知佳と英一、正平と晶がこれからどうなるかはわかりませんが、できれば他人を傷つけずに幸せになって欲しいと思いました。 難しいことだとは思いますが……。

 

城平京 (しろだいら・きょう)

「名探偵に薔薇を」 (2006年2月)(Library)

始まりは、各種メディアに届いた「メルヘン小人地獄」という童話だった。 やがて、その童話をなぞるような惨事が起こり、世間の耳目を集めることに。 膠着する捜査を後目に、招請に応じた名探偵・瀬川みゆきの推理は……。 斬新な二部構成による本格ミステリー。

第一部「メルヘン小人地獄」は、まったくメルヘンなんかではありません! “地獄”とあるからには当然ですが、あり得ない毒薬を作る方法が尋常ではありません。 第一・第二の殺人現場の様子も、正視できる状態ではありません。 しかも、これらすべてが第二部「毒杯パズル」の○○だなんて! 「だったら、第一部はいらないのでは……」と言いたくもなりますが、そういうわけにはいかないんですねえ、これが。 みゆきが聞かされた真相は哀しいもので、他に道はなかったのか、と問いたくなります。 みゆきが名探偵にならざるを得なかった経緯も哀しいもので、「どうか、みゆきに救いを」と祈らずにはいられませんでした。

 

城山三郎 (しろやま・さぶろう

「そうか、もう君はいないのか」 (2008年2月)

文芸講演会の壇上に立つ私の目に映ったのは、二階席最前列で“シェー!”のポーズを取る妻・容子だった。 彼女との出会いは、昭和26年早春、偶然のなせる業だった―。 最愛の妻を看取った作家・城山三郎の、感涙の手記。

ご自身も、2007年春に亡くなっていますが、奥様との出会いから2000年に亡くされるまでを描いています。 偶然の出会いや、戦後という時代背景のためのやむない別れ、奇跡的な再会などが語られていますが、奥様を「妖精か天使のよう」と臆面もなくおっしゃれるのは素敵だと思いました。 出会った当時の若い頃ならまだしも、城山さんの中では奥様は永遠に妖精だったのですね。 次女・井上紀子さんの手記も合わせて収録されていますが、そちらも涙なくしては読めない内容でした。 父と母、夫と妻の関係は、子供たちには入り込めない“何か”があるのですね。 単行本背表紙の“ё”という文字はロシア語で“ヨウ”と発音するそうですが、城山さんのメモや原稿用紙にも書かれていたそうです。 城山さんが奥様をどれだけ愛していたかの証明のようで、また涙を誘われます。

 

真保裕一 (しんぽ・ゆういち)

「発火点」 (2005年9月) (Library)

12歳のとき、浜辺で倒れている父の友人を助けた敦也。 家族三人の家に、その友人を迎え入れた。 その結果、友人が父を殺してしまうという事態を招いてしまった。 敦也にとってはつらい過去だ。 9年経って20歳を過ぎてもフリーターに甘んじている敦也は、長続きしない仕事を世間のせいにしながら生きていた。 その中で出会った二人の女性との恋愛・別れを通じて、過去を振り返る決心をした敦也。 父の友人が父を殺してしまった動機はいったい……? 別れてしまった女性とのその後は……?

確かに、定職に就かない敦也は甘ちゃんだったかもしれませんが、運送会社のオヤジはひどい人でした。 あんな大人はそうそういないと思いますが、あれでは若者や下の人間がいやになるのも当たり前です。 敦也が週刊誌の記者に「加害者の人権ばかりなぜ護られるのか」と言っていましたが、それは同感です。 “罪を償ったのだからそっとしておいてやれ”というのもわかりますが、被害者が世間の晒し者になるのは変だと思います。 友人の気持ちもわからなくもありませんが、殺人の動機はあまり納得できるものではありませんでした。 私の読みが浅いからなのか、最後の手紙が靖代と藍子のどちら宛なのかわかりませんでした……。

 

「誘拐の果実」(上)(下) (2005年11)(Library)

病院長の17歳の孫娘・恵美が誘拐された。 犯人からの要求は、身代金ではなく入院患者を殺せというもの。 しかし、その患者は病院のスポンサーでもあり、財政界を巻き込んだ疑獄事件で裁判を待つ被告人だった。 家族は、悩んだ末にある決断を下す。 その誘拐と時を同じくして、第二の誘拐事件が起こる。 今度の人質は19歳の男子大学生・巧。 前代未聞の身代金や、犯人の周到な計画に翻弄される警察。 真犯人は誰なのか、誘拐の本当の目的は何なのか。 事件から8年が過ぎ、初めて真相を知るふたりの刑事。 そこで、やっと事件が解決したのだった……。

結局、真犯人の目的は達せられましたが、その方法でよかったのかどうか……。 確かに、世の中には理不尽なことも多いし、悪徳政治家などもたくさんいると思います。 でも、「そこまでしなくても」と思う部分もありました。 自分が選んだ道なので、後悔はしていないと思いますが、もっと傷つかない方法があればよかったのに、と思います。 

あとがきで、“以前は、主人公が巻き込まれる犯罪事件や冒険が主であったのに対し、事件を触媒に露呈し変化してゆく主人公の生き方を描くほうに重心が移ってきている”と、新保博久さんがおっしゃっていますが、どちらかというと、私は後者のほうが好きです。 これからの作品にも期待しています。

 

「最愛」 (2007年2月)

幼い頃両親をなくし、それぞれ別の親戚に引き取られた姉・千賀子と弟・悟郎。 小児科医として働く悟郎のもとに、18年間会っていない姉が重症の火傷と頭部に受けた銃創がもとで意識不明で救急病院へ運ばれたという連絡が入る。 しかもそれは、伊吹という男と婚姻届を出した翌日の出来事だった。 しかし、なぜか姿を現さない新婚の夫。 千賀子や伊吹の過去を探るうち、悟郎が辿り着いた真相とは……。

“最愛”の意味が“ああいう”ことだとは正直驚きました。 これでは共感や納得のしようがありません。 純粋とは意味が違うと思います。 親子やきょうだい間の愛情はわかりますが、千賀子と悟郎の場合は○○○○です。 確かに、境遇がそうさせた部分もあるとは思いますが、それは間違った道、歪んだ関係だと思います。 ○○○○さんの「○○○」も、そういう関係がキーポイントになっていますが、読後感はよくありませんでした。 今作もタイトルから想像するような泣ける恋愛モノとはとうてい思えず、嫌な感じばかりが残ってしまいました。 はっきり“こうだ”とはわかりませんでしたが、最初からなんとなく嫌な予感がしていたのは、最後に明かされる真相が「もしかしたら……」と想像できていたからかもしれません。 気の毒だったのは悟郎の交際相手・真尋。 あんな事実をつきつけられて、それでも言葉をかけられる人はそうそういないと思います。 千賀子が正義を貫き通す姿勢は尊敬しますが、それも“ああいう”過去があってのことだと思うと、素直に賞賛はできません。 最後に悟郎が取った手段は仕方ないと思いますが、自分も一緒に○○のかと思いました。 個人的には、「千賀子と悟郎が○○でさえなければ、泣ける恋愛ミステリーとして読めたのに……」と思います。

 

「追伸」 (2007年10)

ギリシャに単身赴任中の夫・悟に、一方的に離婚を切り出した妻・奈美子。 手紙のやり取りをしながらも納得できない悟に対し、奈美子は祖父母の間で交わされた手紙のコピーを送る。 ―約50年前、祖母・春子は殺人の容疑で逮捕されていた。 しかし、無実を信じる祖父・誠治は真相を突き止めようと奔走した。 ふたりの手紙には、誰も知ることのない真実が語られていた……。

悟と奈美子、誠治と春子、二組の夫婦の手紙のやり取りだけで書かれた小説です。 主な登場人物はこの4人ですが、感情移入できたとすれば春子でしょうか。 感情移入というよりは、共感、というか同情、ですね。 戦後、“こんな”目に遭った女性が大勢いたというのは嘆かわしいことです。 そこから救ってくれたのは誠治なのに、その人を○○るような真似をしてしまった春子。 世間は春子を身の程知らずと詰るかもしれません。 でも、○○しいと感じてしまっても仕方ないと私には思えました。 確かに、誠治がいなければ“あんな”仕事をずっと続けなければならなかったはずで、その恩には報いなければならないでしょう。 でも、恩と○は違うと思います。 恩から○に発展することはあると思うし、実際春子は誠治を○していたとも思いますが、やはり「何か違う」という思いは拭いきれなかったのだと思います。 裁判中もその後も、あんなに尽くされたら春子はまた誠治の恩に報いなければならなくなります。 それを「○い……」と感じたら、恩知らずと詰られるでしょう。 それでも、春子は39歳という若さで亡くなるまで、○○な思いを心のどこかでしていたのではないかと思えてなりません。 ただ、走った先が○○というのはちょっといただけないかな、と思いました。 しかも過去にいわくのある……。 業(ごう)とか性(さが)で片づけてしまえばそれまでですが、できればそちらではない方向に走って欲しかったなと思いました。 奈美子も然り。 人間は、結局そこへ行き着くしかないのかもしれませんが、そういう事情ではいまひとつ共感はできかねます。 今度はもっと硬派な真保作品を読みたいです。

 

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